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11  仲間の勧誘~モブ、負け犬を拾う~

魔法使いプ…(脳筋)

 あの会話から一夜明けて、私は貴族校舎の中を歩いていた。

 セリーヌに呆れられ、お父さんが激怒し、妹と弟からはデブ好み?の汚名を受けた。

 ちなみにメリダは玉の輿を狙えるじゃないと真顔で提案した。

 が、なんとなく彼は苦手なのでごめんねがいたい。

 私は歩きながら、二日連続で談話室に向かう。

 これはデジャウではないかと思っていた。


 また目的地についた。


 生徒同士の談話室…昨日同様高そうな扉である。

 自由に使える部屋なのだが自由に使いすぎではないだろうか?

 私は息を吸い込むとノックした。

 返事があった。ファットマンの声ではない。

 扉を開けると、クララ嬢がお茶を飲んでいた。


「お呼びいただきありがとうございます、ゼペット様」


 私が言うと、クララ嬢は答える。


「あまり固くならないで。それに言葉も崩しても大丈夫・・・ですから」


 彼女に示され、また同じソファに座る。

 クララ嬢は、ずいぶん長いこと私を見ている。


「私の顔に何かありましたか?」


「いえ何でもありません」


 長いこと黙ってから、クララ嬢は言った。


「何故私を助けたのですか」


 私はクララ嬢を見る。


「個人的にあの場が嫌でしたから」


 私が言うと、彼女は言った。


「それは貴族に恩を売ろうとか、私がゼペットの人間だと知っていての行動ですか?」


 クララ嬢の言葉がキツくなる。

 私は、ゆっくり返した。


「貴族様に顔を覚えられても、私は平民の女です。何が出来ましょうか?」


「家としてならどうでしょう?」


「失礼ながら、平民故ゼペット様の家名にまつわるお話は存じませんし、我が父も興味がないでしょう」


 ゼペット家なんて知らなかったのが本音だ。けれど、そこは黙っておく。

 ファットマンの家名を覚えていたのも弟が雇われているからで、基本的には有名でなければ貴族の家名を覚えている平民の方が少ない筈だ。


…だよね?


「……貴女は」


 驚いたらしい。彼女は眼を開く。

 ちょっとどころか、本当に驚いたときのマリアそっくりだった。


「わかりました。貴方のその行動をこれ以上問いません」


 クララ嬢はそう言うと、表情が少し柔らかくなった。


「ありがとうございます」


 そう返事を返すと、話題が止まった。

 何か言いたそうなクララ嬢だったが、なかなか言い出さない。

 仕方がないので私は躊躇しながらも質問した。


「ゼペット様」


「なんでしょうか?」


「ゼペット様は、決闘の代理人は見つかっていますか?」


 この発言でクララ様が露骨に落ち込んだ。


「…それが」


「見つかってないのですね」


「はい、姉さまも…「決闘ならば受けろ、おのれで代理人を探せ」と」


 クララ嬢が更に落ち込む。


「王都から旧都に移動して、使用人は義兄と姉上に雇われた方々ですから……頼めず……荒事に達者な方の知り合いもおらず…」


「ご友人がたは「お友達など私にはいませんわ」」


 被せてきた。

 私はクララの性格が少しわかってきた。

 マリア同様、美少女美少女してるのに、どうやらクララは人みしりらしい。

 残念な令嬢だ。

 しかもマリア同様短気でもあるようだし。


「…失礼しました」


「最悪、傭兵を雇おうと思っているのですが…」


 気の毒になってきた私は、思わず口を滑らせてしまった。

 だってあんまりにも、マリアが落ち込んだ時とそっくりだったし。


「私が探しましょうか?」


「え?」


「妹の一人が傭兵や冒険者が通う酒場で働いております…何かお力になれるでしょう」


「本当ですか!」


 嬉しそうにクララは言った。

 その姿を見て、私は失敗したなと反省した。


…どうもクララといると、妹らみたいに接してしまう。


 何故だろうか?





 ヨロイ乗りを探さねばならぬと言うことで、妹たちに夕飯を食べさせると、私は豪傑の庵へ向かった。

 いつも通り騒がしいかと思ったが、バタバタと一人の少女が走ってくるのが見えた。

 旧都の治安はほかの都市と比べてマシとはいえ、この世界で不用心だと自分の事を棚に上げて思っていると、彼女とすれ違った。


 リリシア様だった。


 彼女は笑みを浮かべ、何かを抱えている。

 その様子を不審に思ったものの、顔を知っているだけで親しくもなければ身分も違う私は声をかけなかった。



 そんなことをすっかり忘れて、私は豪傑の庵にたどり着く。

 店内に入ると、私は驚いた。


「…何これ?」


 テーブルはひっくり返り、破壊された椅子は数えきれない。

 更には天井にも亀裂が入っており。何をどうすればできるのか、石畳の一部も割れていた。

 どう見ても店内で何かがあったとしか思えない。


>出番か?


【記憶】も出てきた。


>かもね、注意よろしく


>まかされた


 客はカウンターに一人、ダットがいるだけだ。

 店長とおかみさんは苦々しい顔をダットに向けている。

 そんな接客態度にも関わらず彼はひたすら酒を飲んでいた。

 マリアは壁にもたれて、そんなダットに冷ややかな目を向けている。


「あぁ、マリアさんの姉さんか」


 足音に気付いて振り返ったダットが言う。

 酷い顔だ。

 酒が入った赤ら顔はボコボコである。

 どう考えても彼も喧嘩に参加していたとしか思えない。

 私は、酔っぱらいに言う。


「…ほかのお客サンは?それにあなたの仲間は」


 そういうと、ダッドはジョッキを開けてから言った。


「客も仲間も全部追い出した。もう俺はいいんだ」


 要領を得ない酔いどれから、視線を妹にやる。

 マリアはため息をついてから事情を説明してくれた。


「傭兵団が領地に帰る時に、言い合いになって。

 お酒も入ってたからだろうけど、ボンボンに負けたことを指摘されて、こいつが…」


 だいたい把握した。

 どうやらやりあったのはコイツらしい。


…しかしとんでもない強さだ。


 店長やおかみさん、マリアの様子からも魔法は使用されなかったと予想すると、純粋に筋力のみでここまでやったらしい。


>オヤジ殿か、上の弟並みか? 


【記憶】に同意しつつも、私はマリアにこっそり言う。


「店長と蹴りだせばよかったじゃない?」


 私はまじめな回答をした。

 この店長、入り婿だが元は名のある傭兵である。


「…そしたらね、私は見てないんだけど、どうにも貴族の女の子が場をおさめたらしいのよ。

 なんでも…あの決闘の時にいた子がね、謝罪して、ダットの持ち物と引き換えにおカネを払って収めたみたい」


リリシアだろう。


「マリアが見てないなんて」


「奥でけが人引っ張ってった時だからよ」


「わかった。で、彼はなんで飲んでるわけ?」


 親指で指すと、モニカはため息をついた。


「売り言葉に買い言葉で傭兵やめたのよ、この馬鹿ダット


 うわ、あるあるだ。

 酒で自制心や判断力が鈍っているのに失態をやるとは…


>お嬢、ソイツそろそろキレるぞ 地獄耳だな


【記憶】の指摘通り、ダットはキレた。


「馬鹿とはなんだ!」


 酔っぱらいがキレた。


「俺は、馬鹿じゃねえ!勉強できなかっただけだ!オヤジもおふくろも知らねえ!」


 ダットはそう叫ぶと、私たちを見る。


「どいつもこいつも…!おい、女!俺の相手しろ!」


 ダットが指さしてきた。


 誰だ?


>お嬢だろ


>私か


 私は呆れつつ言う。


「イヤです」


「うるせえ!大女!」


 遂に掴みかかってくるダット。

 私は回避に移りつつ、このクズをブチのめすことを決める。


>魔法使うわ


>合点承知 細かい体の操作は引き取る


 宣言と同時だ。

 ありもしない血管、ありもしない神経が痛む。

 幻覚を現実へ変換しつつ、私は詠唱抜きで強制的に魔法を発動させる。


「店長、マリア!ごめん!」


 体内に回る【何か】が燃焼し熱が失われる感覚。

 同時に、私の体に神秘が顕現する。

 完成した『身体フィジカル強化ブースト』は私の腕をありえない速度で加速させる。


 ダットの胸倉を掴む。


――男を女が腕力だけで投げ飛ばすなんてできない。

 だが、それが『成る』から魔法である。


「頭冷やせ!」


 強引に入口めがけダットをぶん投げる。

 ダットは反応が遅れ、そのまま投げられる。

 私は、追撃の為に外に飛び出す。


 ダットは表で立ち上がるところだった。


 記憶飛ばすかと、鉄拳を私は振う。

 が、ダットは十分に加速しきった私の拳をいなす。

 彼は痛みで顔をしかめながら叫ぶ。


「どんな馬鹿力だ!」


 叫んだ瞬間に腹部に軽い一打。


>おう、キレーな腹パン


 体をよじらなかったな、流石傭兵。

 私はダットの軸足を渾身の力でけっ飛ばす。

 転倒したダットの頭を私は蹴った。


…それでおしまいだ。


 気絶したダットの足を引っ張って、私は店内に引きずって入れる。

 マリアが嫌そうな顔をする。


「……捨ててきてよ、おねえちゃん」


「……ごめん、ちょっと使い道あるから」


 私はマリアにお願いする。


「治癒魔法かけてくれない?」



 渋々だったが、ダットへマリアは回復魔法をかけた。

 回復が終わるとダットは絶叫しながら起き上った。

 ダットは記憶が飛んでるようで、私とマリアを交互に見た。


「え?は?な?」


 どうしたんだろうか?


「クラ…ラ…じゃないマリア?と、マリアのお姉さん?」


「それ以外の何に見える?」


 私が言うと、ダットは起き上がる。

 彼は周囲を見る。

 それから目を揉みだす。


「いや…その…記憶が……」


 逆に好都合だ。

 私は、ダッドに近づく。


「ねえダッド」


「ダッ…?え、俺?何?」


「あんた、ヨロイ乗れる?」


 鎧…そう聞いても、ダットの反応は鈍い。

 やばい、蹴りすぎたか?と私が思っているとダットは言う。


「鎧…あのロボ?…一応、乗れる…と…思います」


「?」


 私はダットに違和感を覚えた。

 が私の質問より早く、マリアが言う。


「オンボロで鍛造の騎士とやりあったとか言ってなかった?」


「あっ?あー…あッ!…ああ!!もちろん!」


 酔った時のホラ吹きかもしれないが、まあよしとする。

 私は挙動不審なダットに言う。


「さる貴族が決闘の代理人を探してるの、やってみない?…もしかしたら騎士に取り上げられるかもね」


 そう言ってみたが、ダットの食いつきはいまいちだった。


「貴族?え…それ、フラグ…いや…俺は俺で…選びてえ、いや選びたいです」


 駄目だ、コイツ酔ってやがる。

 けれど私は、酔ってることをいいことに彼に更に焚きつけた。


「いいの、負けっぱなしで」


「うむむ」


「一文無しでしょ」


「うッ…」


「それでいいの?」


 ダットは黙る。それからぶつぶつ言いだした。


「…ありえねえ、なんだこれ!なんなんだこれ!」


 その発言に遂にイラッとした私は、ダットの胸倉を掴んで持ち上げた。

 当然ダットの首が締まる。


「やるの?やらないの?どっち?多分、私、あんたなら殺せると思う」


 ダットは真っ青な顔で頷いた。

 私は、より強い違和感を覚えながらも彼をぽいと離した。

 グェと、ダットは呻く。


「同意してくれてありがと。依頼人はそこのマリアそっくりの美人の貴族様だから優しくしてくれるかもね」


 ダットのトロンとした眼が、マリアに向く。

 そして彼は酔っぱらい特有のトチ狂ったテンションでマリアに跪くと言う。


「姫様、この私ダットは、貴方に剣を捧げます!」


 私は凍りついた。

 おいこら、お前妹目当てだったのか。

 とは言え、ちょいちょい変だが……まあヨロイ乗りの一人目がなんとかなったから好しとする。

 と、衝撃でフリーズしていたマリアが叫んだ。


「ちょっとぉ?!おねえちゃん、あたしをダシにしないでしょ!」


「いいじゃん、『まんざら』でもないんでしょう?」


 妹は思いっきりダットを前足で蹴飛ばした。

 はしたないが、効果は絶大だった。

 あまり肌を見せる文化圏で無いこの国で、うら若き乙女の生足である。

 ダットはガン見した結果、顔面に妹の渾身の前蹴りを受け昏倒した。

 鼻血が垂れたが、誰も反応しなかった。


「ぜーったい!やだからね!」


 妹は死体蹴りでしばらくダットを蹴り続けていた。



短気は損気


遅くなってすみません。

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