第1話 卒業旅行からの異世界転移
頭がぼやーっとしている。何があったのか?ここはどこなのか。
周りを見回してもよくわからない。森の中にいた。どうしてこんなとこにいるのか。確かみんなと旅行に来てて。って、みんなはどこにいるの?
身体に異常はなかったが、ふらふらした足取りで立ち上がり辺りを探す。
2、30メートル離れた所に見慣れたド派手な髪型の少女が倒れていた。銀髪に緑色のメッシュが入った背の高い少女。うつ伏せに倒れて気持ち良さそうにむにゃむにゃと口を動かしながら涎を垂らしている。
ホッとした気持ちと、なんか幸せそうなその寝顔を見て、何故か少しイラっとした気持ちがごちゃ混ぜになった。
私は乱雑にその少女のふくよかな胸を足で救い上げるように蹴りあげ身体をひっくり返した。
「おい。ミヅキ起きろ」
均整のとれた大人びた綺麗な顔立ち。何度見ても羨ましいその顔を指先でツンツンとつつく。
あっ、ほっぺやらかい・・・
なんてフニフニしてると背後から人の気配を感じた。
「どうなっちゃってるの?ミヅキもミサトも無事だった?」
そう声をかけてきたのは茶髪ショートボブの美香だ。その横には金髪にピンクメッシュのショートヘアの美魅。青みかかった黒髪のロングヘアの美優もいた。うん。全員無事だ。
ってか、無事かどうかってのもいまいち意味がわかんない。なんて思ってると、ガバッと勢いよく美月が上半身を起こした。
「いきなり起きるなよ。ビックリだよ」
と言いながら美月の額をぺしっと平手打ちをする。
「何ここ?森の中なの?」
と目を擦りながら美月が立ち上がった。
「涎を拭けよ」
そんなに長い時間意識を失ってた感じは無いのだけども、完全に熟睡していたようなその胆力が羨ましい。
私達5人はこの春高校を卒業し、今まで中・高校生活の6年間を同じ学舎で共に過ごしてきたが、それぞれが新たな生活を迎える事になる。卒業式を終え、今卒業旅行で四国に来ていたのだ。
みんな各々の進路がバラバラだ。美月は美容の専門学校へ。美香と美優は大学。私と美魅は就職組だ。私は地元の運送会社で事務員になる。美魅はフリーターで当面は凌ぐらしい。みんなでバカやれるのも学生時代だけじゃないか?そんな事を思ってると、
「学生時代最後の思い出を作る為に旅行へ行こー」
と美月が唸りだし、あれこれと行き先を相談してたのだが、またまたこの爛漫娘が、
「うちな、おうどんは関西の味やないとあかんねん。みんなに関西のおうどんを食べて貰いたいねん!そやから大阪行こうや」
と言い出した。この娘は興奮したり動揺したりすると口調が関西弁になる。小学校就学前に今住んでる関東近郊の街へ越してきたので、普段は標準語なのだが。で、この【関西弁】になった時の美月には何を言っても通用しない。つまり、自分の我を通すわけだ。
まぁ、何処に行くかなんてあれこれ悩んでも仕方ないのでみんなこの案に便乗した。
宿泊先なんかは適当にビジホでいいからと何のプランも立てずに新幹線に飛び乗った。
その車内で。
「やっぱうどんと言えば讃岐うどんやろ」
とまたまた勝手な事を言い出し、新大阪を素通りし岡山~高松までやってきてしまったのだった。
コシのあるツルツルシコシコの讃岐うどんを堪能し、さてどうするか?と思案した結果やって来たのが高知県。市内のビジホに宿泊し、今日観光で【龍河洞】という鍾乳洞へやってきたのだが・・・
「私、ドラゴンって方とお話しました」
といつも通りのニコニコ顔で美優が言った。
私も含め他の四人もコクコクと首を縦に振った。そうなのか。あれは夢って訳ではないのだな。
※ ※
初めて見る鍾乳石は幻想的で、湿気を帯び白濁した氷柱形のそれをキャイキャイ言いながら鑑賞していた。洞窟っていうのも中々普段の生活には無い場所なので5人全員ハイテンションだった。ぞろぞろと進路を進んでいると、頭上に大きな2本の鍾乳石が現れた。
「なんか龍の牙みたいじゃね?」
美魅がそんな事を呟いたその時辺り一面が真っ暗になった。
「きゃー、何?なんなの?」
美香が大袈裟に叫んでも洞窟内だと言うのに反響する事もなく、その声も漆黒の闇に吸い込まれていくようであった。
5人みんなで肩を寄せ合いながら辺りを見ていると、目の前にぼんやりとしたシルエットが浮かび上がってきた。黄金色のど太い鎖が四方八方の空の彼方から伸びてきて目の前の物体に結ばれている。物体と言って良いのか解らない。目の前にあるのは闇でしかない。鎖が闇を縛り付けているようだった。
『選ばれしモノ達よ』
低くくぐもった声で。なのに力強い響きがある声だ。
『余は世界の統べるもの。※※※※ドラゴンである』
「へっ?何ドラゴン?」
「よく聞き取れなかったけど、なのなの?ドラゴンって、龍の事だよね?」
「龍河洞だけに」
こんな謎なシチュエーションでもボソッとくだらん事を言うのは美香だな。
と、どうでもいい事を思いながらそのドラゴンとやらの声に耳を傾ける。
『世界を統べる神である余を永きに渡り拘束するこの鎖、、、』
(あー、この黄金の鎖で縛られてるのね)
『こんな鎖ごときで余を抑えつける事など出来ぬものを、、、それでも十全の力を出せぬのは世界の破滅に繋がってしまう』
(誰に縛られてるんだ?)
『選ばれしモノ達よ』
「えっ、選ばれしモノってうちらの事なん?」
『そうお前達に余の依頼を受けて欲しい。いや、受けざるをえないのだ』
「いやいやいやいや、、、私ら単なる普通の女子高生っすよ?」
『そう思っているのはお前達の都合だ』
「いやいやいやいや、あんたの都合ってのもこっちは関係ないし」
『髪の色、、、』
ドラゴンとやらの声がより低く響く。
『余の統べる世界では、髪の色によって能力が決まる。お前達のその多彩な髪色は間違いなく選ばれしモノの資質があるのだ。焦らずとも迷わずともよい。人間の過ごす時間等悠久を生きる我らには大した時間ではない。五つの魂を用い余の元までたどり着けばよい。ただそれだけの事』
「言ってる意味わかんないし。ってか、勝手な言い分をまくし立てられても私ら関係ないし!」
「そやそや、見返りもないやん?」
『無事余の元までたどり着いたならば願いを1つ叶えてやろう』
「マジかっ!!」
おいっ美魅!報酬に釣られんじゃねぇーよ。
と、突っ込みを入れようとしたその瞬間、空間全体が乳白色の光に包まれ、立ってもいられない激震が起こった。
「ぎゃーーーーっ」
発情期の猫かっ!って程の女子高生らしくない雄叫びのような悲鳴をあげ5人で抱き合ってしゃがみ込んだ。そこへ頭上にあった2本の龍の牙に似た鍾乳石が音もなく足元に突き刺さり魔方陣のような模様を一面に広げ虹色の光を放ちだした。私は何が起こったのか解らず、、、
いや、多分おかしな事しか起こんないだろうなぁーと嘆息し目を閉じ意識を失った。
※ ※
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・
「「「「「ど~いう事~っ!!」」」」」
「ってか、ここマジ何処なんよ?」
洞窟にいたはずなのに。なのに森の中。持っていた荷物もない。どうしたらいいんだ?みんなで顔を見合わせる。
「あれ?ミサト眼の色が変だよ?」
「えーっ!何で何で~?どんななの~?」
美月が私の頬っぺたを両手で包み込みながら、マジーーーーっと私の瞳を見つめてくる。
「いや、頬っぺたをプーーってしなくてもいいじゃん?」
タコさんの唇になったまま文句を言ってみた。
「あのねー、右の瞳が金色で左の瞳が銀色になってるの」
なにそれ?ちょっとそれって滅茶苦茶気持ち悪いんだけど・・・
両目をパチパチしたりごしごししたりしてみたけども、何も変わらなかったらしい。
何でこうなった?
「ドラゴンさんって方が髪の色がどうとか言ってたじゃない。でもミサトってなんの変哲もない黒髪だったからサービスしてくれたんじゃない?」
「いや、弄るんだったら髪の毛でいいじゃん!なんで目ん玉弄ってんのよっ!」
「そんな事言われても知らないわよ」
って美優とギャーギャーやってると、空からキラキラと何が降ってきた。
「ハロハロー♪こーんちゃ!」
なんじゃーこりゃ?緑色の髪尖った耳大きな青い瞳パタパタと羽ばたく透明の羽。衣服は何も着ていない。驚くでしょ?そんなの!ってか、大きさが、、、スマホ位しかないじゃん。
「・・・妖精さん?」
美香がポソリと呟いた。。。お前、目キラキラ輝いてんじゃん?
「そだよー!森の妖精だーよ。名前は『バドミール』ってんだ~よろしくね~」
いや、よろしくね~なんて言われてもどういうこっちゃ分からんよ。
「君達は召喚者だよねー。この世界の人とは魔力が少し違うからー。何もこの世界の事知らないでしょー?だから少しだけ案内してあげるよー」
召喚者?この世界?はて何を言ってるのだこの妖精は、、、
「異世界転移。。。」
目をキラキラさせた状態のままそう呟いた美香。
「「「「異世界転移?」」」」
「そっ。異世界に転移されたんだと思うよ。そんな小説いっぱい読んだ事があるからなんとなくわかるんだ」
嬉しそうにそういう美香を見て頭がクラクラするようだ。他の3人も同様なのか?
美優はいつものニコニコ顔。ではなく微妙にひきつった笑顔のまま固まってる。
美魅はボーッと斜め上を見上げ何やら考え事をしているようだ。
美月は、、、
俯いたまま肩を上下小刻みにピクピク震わせている。泣いてるのかな?
やっぱ慰めてあげた方がいいのかな?と思い、そっと肩を抱き寄せようとした、ら?
ガバッーっと握りしめた両手を天に突き刺した。
「かーっ!異世界がなんぼのモンじゃーっ!やってやんよー!」
メインボーカルらしい腹の底から吹き出した大きな透き通る声で叫びだした。
静かな森の木々で羽根を休めていた小鳥たちがピーピーと文句を言いながら一斉に飛び立って行った。
私は後ろから持てる力の限りを尽くして美月の後頭部をひっぱたいた。
「勝手にテンション上げてんじゃねぇよ?」