9・仰げば尊し!
信長狂詩曲・9
『仰げば尊し!』
あれから一週間たった。
ダンス部にとって『仰げば尊し』は衝撃だった。
唄える者こそ少なかったが、聞いたことぐらいはある。ダサイ右翼かなんかの曲として。
ところが、美乃が持ってきた音源は、イントロこそスローだったが。三小節目あたりから、ドラムが元気にテンポを刻み、ビートの効いたノリの良いロックになっていた。イントロがスローなので、既成概念ともあいまって、第四小節からの弾け方はハンパではない魅力があった。むろん美乃の振り付けも完ぺきだった。
「テーマはMKTよ!」
美乃は汗まみれのまま宣言した。
「MKTって?」
高山宇子が聞いた。さすがに冷静だが、他の部員達はたった今の美乃の見本が目と頭に焼き付いて一言もいえなかった。
「Mは守る。Kは壊す。Tは創るです。あたしらには時間が無いから、それをいっぺんにやる!」
たしかにそうである。『仰げば尊し』なんて過去の遺物だと思っていたら、美乃がかみ砕いて説明してくれたことには頷けた。
「あたしたちは、今ある清洲高校を好きになるんじゃない。今の感動、そして、そこから浮かび上がってくる心の中の清洲高校を好きになるのよ!」
「信長さんのノリはビビッときたけど、話は……あの、むつかしくって、よく分からないんだけど」
「アハハ、じゃ、こう言えば分かる? こないだ美濃高校のバカ男子がうちの女生徒をナンパしてたの。あきらかに、うちらの学校を見下したみたいにね。うちには珍しい大人しい子だったけど、イヤそうにしてたのは信号の向こうからでも分かった、で、あたしは放ってはおけなかった」
「そんなの、あたしでも許せない!」「そうよそうよ!」と声が上がった。
「だから、みんなの心の中にも、ちゃんとした清洲高校が眠ってんのよ。普段はダメな学校、お先真っ暗の学校。だから進んで何もしようとしない。だから……ダンス部だけよければいいと思ってる。どうよ」
反発と同意、そして困惑がみんなの顔に浮かんだ。
「ダンス部から、清洲高校をMKTしていこうって、それが、今度の『前しか向かねえ』と『仰げば尊し』って話よ! 分かった!?」
ダンス部のみんなから賛同の声が上がった。その中には、美乃といっしょにダンス部に入った森蘭も入っていた。
美乃は、これをダンスコンクールに持っていくだけではなく、清洲高大改革の火種にしようという目論見があった……。