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信長狂詩曲(ラプソディー)  作者: 大橋むつお
7/21

7・飛躍と抵抗

信長狂詩曲ラプソディー・7『飛躍と抵抗』




 足利ルミを助けたために、学校に着くのが遅れた。


 『前しか向かねえ』を広い体育館で練習したかったのだが、どうも無理なようだ。

 一般の生徒達と同じ時間帯での登校になってしまった。


――いやな時間帯に来てしまったわね――


 だらしなさとケバケバしさが同居したような清洲高校の生徒達が、腸の中を蠕動しながら動いているウンコのように思えた。当然だが二三年生に多い。自分のダメさ不快さを学校のせいにしきって好き放題。


 美乃は、なにも杓子定規に校則を守ろうという気などはなかった。美乃自身規定通りの服装ではない。スカートは膝上7センチ。ブラウスをスカートの外に出すようなことはしなかったが、第一ボタンは留めず、リボンはルーズに首からぶらさげている。昨日覚醒したばかりなので手が回っていないが、上着のタックは、もう少し詰めようと思っている。


 要するにイカした女子高生でありたかった。


――ま、取りあえず、クラスがまっとうになればいいか――


 そう思いながら蠕動するウンコたちをシカトした。

 が、そのウンコの方が声をかけてきた。

「ちょっと待ちな。あんた一年A組の信長美乃だろう」

「だったらなんなのよ」

「昨日は妹が世話になったね」

「ん? 世話した奴多すぎて名乗ってくれなきゃ分からない」

「ケ、入学してもう一カ月以上たとうってのに、あたしのことしらないの?」

「こいつ、ずっと不登校だったから知らないんですよ」


「「「「「「「ケケケケケ」」」」」」」


 取り巻き達が、小汚く追従笑いをする。

「荒木夢羅の姉で筒井夢理っていうんだ。覚えていてもらおうか」

「そんなの覚えてるほどヒマじゃないの、そこ通してくれる。オネエサン」

「落とし前つけてからな、来な、校舎の裏に」

「やれやれ……」


 正門で、登校指導をしている教師達も見て見ぬふりだ。忌々しいので美乃の方から声をかけた。


「お早うございます。今から二三年生のオネエサンたちに自転車の置き方教えてもらいます」

「ああ、そりゃよかったな……」

 顔も見ないでセンコウが言った。

「あとで保健室の世話になるかもしれないんで、よかったら伝えといてください」

「え……ああ、分かった」

 まことに頼りにならない教師たちであった。


 清洲高校は、東京オリンピックの年にできた学校で、団塊の世代対応の規模を持っているので、ムダに敷地が広い。自転車置き場だけで、奥行きが百メートル以上ある。その一番奥までいくと、取り巻きの一人が言った。


「ここでチャリは置きな」

「あたし、もう午前中のケンカは済ませてきちゃったから、手短にいかないっすか?」

「命令は、あたしがするんだ。てめえは、ただ従えばいい。付いてこい」

 夢理は、取り巻きに美乃を囲ませ、校舎の角を曲がって、ゴミ捨て場まで来た。

「ここなら、はいつくばらされても、大した怪我にはなんない。みっともなくはなるけどな」


 ゴミ捨て場には、分別されていないゴミが、幾つも山のようになり、確かに自転車置き場よりは安全なようだ。ただ、はいつくばれば、生ゴミやゴキブリが制服のアクセサリーになりそうだ。


「時間かけるのヤダから、こうしません。そこの排水パイプを伝って屋上まで早く上がった方が勝ちってことで」

「命令すんのはアタシだって言ったろう!」

「ハハ、自信がないんだ。違いますか?」

「なんだと!?」


 ということで排水パイプ登りの勝負になった。


「行くぞ!」


 夢理は腰蓑のようなマイクロスカートをはためかせ、排水パイプに取り付いた。

 美乃は、生足のまま脚でパイプを挟みながらマシラ(猿)のような身軽さで隣の排水パイプを登っていく。夢理はハーパンがパイプに滑り、思うように登れなかった。

 美乃はアミダラ女王のパンツ丸出しで一気に屋上まで登った。


「アタシの勝ちですね」

「くそ、こんなサスケみたいなことで決められてたまるか!」

「往生際が悪いなあ」

「降りてこい!」

 の言葉が終わらないうちに、美乃は屋上のロープで、振り子のように一気に降りながら、取り巻き五人を蹴倒した。

 着地し、続けざまに二人を蹴倒すと、恐怖を感じた三人ほどが逃げ出した。

 夢理は、あせって二階あたりの高さからゴミの山に落ちてしまった。

「おかげで、遅刻寸前じゃないですか!」

 文字通り、ゴミの山にはいつくばった夢理たちに、そう言うと、美乃は駆け出した。しかし、何かを思い出しとって返すと、言い放った。

「これからは、先輩達も少しは身だしなみ気を付けてくださいね。お互い清洲高校の代紋しょってるんですから」


 夢理たちは震え上がった。


 教室に着くと、夢羅の襟首を掴んで窓ぎわまで迫った。


「姉貴に告げ口、サイッテーだな夢羅」

「ご、ごめん。服装が変わっちゃったんで、聞きとがめられて……ほんとだってば!」

「そうか。じゃ、もう一つ。なんで姉妹で苗字が違うのさ!?」

「そ、それは……」


 みるみる夢羅の表情が曇ってきた……。



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