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信長狂詩曲(ラプソディー)  作者: 大橋むつお
16/21

16・商店街デビュー・2

信長狂詩曲ラプソディー・16

『商店街デビュー・2』




 幸い男は、自分の足元に瓶を落としていったので、アーケードの舗装を焦がしただけで済んだ。


 しかし、警察が来て大騒ぎになった。


 鑑識がびんの中身が硫酸であると確認、防犯ビデオに写った男の映像を解析、ただちに警察の犯罪者リストとコンピューターで照合されたが該当者はいなかった。


「こりゃあ、人相変えてるなあ……信長さん、こいつ一言も喋らなかったでしょう?」

「はい、一言も。おかしいと思ったのも、あまりにも無言だったからです」

「含み綿で、頬を大きくしている。鼻も……たぶん演劇用のノースパテで形を変えている」

「分かるんですか、そんなこと?」

「鑑識を長くやっているとね、不自然な顔って分かるんだ。これじゃ、前があってもコンピューターでは解析できないし、これで人相書き作っても役にたたないね」

「あ、でも目とかはメイクしてないようでしたから、目は手掛かりになりません?」

「キャップを反対に被ってるでしょ、普通とは逆だ。いかにも防犯ビデオに撮ってくださいって感じだ。帽子の中に仕掛けがあるなあ」

「野球帽で人相変えられるんですか?」

「ああ、簡単だよ。こうやってね……どう、変わるでしょ」

「おおー」

 鑑識のおじさんはこめかみの皮膚を両手でグイと引き上げた。なんと十歳ぐらい若くなり、人相が変わってしまった。

「リフティングって言うんだ。この引っ張り上げたところを、帽子で隠したら、もうお手上げだね。一応お巡りさんが聞き込みやってるけど、これはプロだね。尻尾は掴ませないだろう」


「で、午後の第三部は中止したほうがいいと思うんだが」

 別の刑事さんが、強い調子で言った。


「いいえ、やります。清州高の最初の校外公演なんです。負けたくありません!」

「しかし……」

「さっき、みんなで意思統一もやりました。それに、立て続けにはやらないでしょう。もう今日はケチがついてますから」

「仕方ないね、商店会の会長さんも君たち任せだって言ってるしな」

「それに、手は出さなくっても、様子ぐらいは見に来るかもしれないでしょ。プロを雇ったやつが……」

「それも一理ある。じゃ、うちも私服を何人か入れとくよ。こんな場所だ写真もビデオも撮り放題だからね」


 さすがは。と、警察も美乃も思った。


 銭湯にいくと、みんな、まだ脱衣場にいた。


「あら、もう入っちゃったの?」

「だれが、そんな薄情なことを。みんなで、美乃が終わるの待ってたのよ。で、第三部は許可してもらえた?」

「もちろん。でも、自分たちで決めたことだから、なにがあっても自己責任だよ」

「まかしとけ!」

「おお!」

 みんな頼もしいトキの声をあげた。


 キャーキャー言いながら、風呂から上がると、商店会のオバサンとオネエサンがいた。


「みんなのがんばりに応えたくって、インナーとか汗づいてるだろうから、よかったら使って」

「ユニホームも、古いテニスウェアーだけど、おそろいで二十着ほど用意したの。よかったら使ってみて」

「あ、ありがとうございます!」

 みんな新しいインナーとテニスウェアーに大喜びだった。

「先輩。これって勝負パンツですね!」

 木下藤子が、パンツ一丁のエッヘンスタイルで、宣言した。

「あのね、あんただって一応女の子なんだから、考えなさいね!」

 部長の高山宇子が叱った。藤子が慌てて女の子らしく恥じらってみせるが、どうも藤子には似合わず、みんなの笑いを誘った。


 みんなで意気揚々と会場に戻りかけると、一人の若い男性が待っていた。


「信長美乃さんですね。お時間いただいて申し訳ないのですが、うちのご主人様と少しご一緒していただけないでしょうか?」


 男性が指差した先には、地味ではあるが立派な高級車が停まっていた……。



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