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信長狂詩曲(ラプソディー)  作者: 大橋むつお
13/21

13・元スケバンの親の意外な事情・1

信長狂詩曲ラプソディー・13

『元スケバンの親の意外な事情・1』




 運良く隣は空き家だったので、美乃は隣の玄関前に身を寄せて中の様子を窺った……。


 どうやら、中では麻雀が始まったようだ。牌をかき回すジャラジャラいう音が品のない笑い声と共に聞こえてきた。

 元スケバンとはいえ、娘をガールズバーに働かせて麻雀というのは許せない。ただ、そのことだけでは家庭の事情だと言い逃れられたら、それまで。動かぬ事情を見聞きしないかぎり、どうしようもない。


「……かゆい」


 どこかのドブででも湧いたのだろう、美乃の吐き出す二酸化炭素にヤブ蚊が群がってくる。

「たまんないな……そうだ」

 家の玄関を見ると、薄明かりに不動産会社の借家の看板。こういうところは、いつ客が見に来てもいいように、水道栓の中などに鍵が隠してある。むかし不動屋さんに勤めていた祖母から聞いたことがある……。


「ビンゴ!」


 靴は、持って上がった。万一靴を見られたら不法侵入だ。明かりは道路の街灯が差し込み、隣の荒木家の様子を窺うのにはちょうどいい。


――ガールズバーって言っても、最初の稼ぎはしれてるな――

――あんた、ピンハネしてんじゃないだろうね?――

――してねえよ。あいつらだって飲まず食わずじゃいられねえだろうから、全部は巻き上げられねえ――

――しかし、あんたらも、よく学校辞めさせる気になったな……――

――足利のガードは硬いし、行きたくないっていうから、学業手当以上の稼ぎがあればって言ってやったのよ。リーチ!――

――ここでリーチかよ――

――足利には、イカレコレだしさ。あたしも、あの学校にはね……なあに、そう長いこと働かせるつもりもないのよ。それなりの働きすりゃあ、通信制か単位制の学校にもどすさ――

――なんだい、それなりの働きってのは?――

――ヤボなこと聞くんじゃないよ。女にゃ女の稼ぎ方ってのがあるのよ。ほれ、上がり!――

――勝負は、これからさ――

――あんた、あの子らに最初の客がついたらしっかり掴んどくんだよ。あれでも金になるまでは身持ちは良くするように言ってある。水揚げ代は、しっかりいただかなきゃね。ほら配牌!――

――へいへい、しかし、偽装離婚の上に娘を働かせ、お国から生活保護まで頂いて、あんたら夫婦もワルだねえ――

――フン、その上をいくのが足利グループさ。それに比べりゃ――

――それは、もう忘れろ、夢羅と夢理二人入れて、弱みを握るか、証拠を掴むか。それも失敗しちまったんだからよ。四年の恨みもここまでさ。取りあえず……捨牌だ――


 ここまで聞けば十分だ。


 夢羅・夢理姉妹は実の親に虐げられていたんだ……それにしても痒い。どうも家の中に二三匹蚊を入れてしまったようだ。気付くとフローリングの上に蚊取り線香とライターが置いてあった。不動産屋が客を案内したときに点けたんだろう。もっと早く気が付けばと美乃は思った。早いところ問題の有りどころを掴んで、あの夢姉妹を助けてやらなきゃ。


 美乃は閃いた。コンビニで買った妙なスナックと、ライターを使えば……ちょっと荒っぽいけど、これしかないと思った。


 ピシャリ! 太ももに止まった蚊を無意識に叩き潰すと、美乃は隣りの荒木家に踏み込んだ……。



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