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鬼の休日 二

 この三ヶ月で多少ましなハンターになったと、自分でも思う。

 あの決闘で無様に敗北した私は、ヤクザさんことジェイドさんにハンターの心得を隅々まで教えてもらって、今では師匠なんて呼んでる。本人はやめろって言ってるけど。



「んー、ふわぁ……」


 宿。鳥の鳴き声で起きると、まずは顔を洗い眠気を覚ます。


「『水~……』」


 魔法の詠唱も今ではかなり省略出来てきて、戦闘でも問題なく使用できる所まで行った。

 私は精霊と契約してるから全属性の魔法を使えるので、かなり戦い方のバリエーションが出てきた。


「私は強くない、私は弱い。いつ死んでもおかしくない。謙虚に、調子に乗らず、作戦は命大事に! 

 よしっ!」


 着替えをし、日課である思い上がらない為の自己暗示をしてハンターギルドへ向かう。



 こんな調子で、今日も私は生きている。



  ◇  ◇  ◇  ◇



 時刻は夜。

 

「あ、師匠だ」


 ナイフが壊れてしまったので別の物を買いに行こうとしてたら、裏道に入っていく師匠を見つけた。


「私には危ないから入るなって言ってたのに……」


 その背中を、なんとなく追いかけてみる事にした。



  ◇  ◇  ◇  ◇



「こ、ここは……」


 見渡せば、露出の多い格好をした女の人が男の人にしなだれているという光景が広がっている。

 灯りが多く、中にはピンク色の妖しい光まである。

 そして、鼻を突く懐かしくも嫌な臭い。


「そ、そうだよね。師匠も男だしこういう所にくるよねっ!」


 所謂夜の街に踏み込んでしまったと気づき、逃げるように回れ右をする。

 そのまま足を踏み出し──誰かにぶつかった。


「す、すいません」


「んだぁてめぇ! だれにぶつかったかわぁってんのかぁ!?」


「ごめんなさい、それでは」


 そこに居たのは顔が真っ赤な、絵に描いたような酔っぱらいだった。


「ちょっとまて。おめえよく見るといい体してんなぁ……どこの店だ。もちろんサービスしてくれるよなぁ?」


「い、いや、私はただ迷い込んだだけでして……」


(酒くさ……この臭いも嫌いなんだよなぁ)


「ああ!? ふざけてんのかてめえ! いいからこっちこい!」


「ちょ!?」


 腕を掴まれて引っ張られる。

 目的地はどうやら、暗い路地裏のようだ。


(どうしよう)


 このどうしようはピンチ的な意味ではなく、どうやったら穏便に済ませられるかのどうしようだ。

 酔っぱらいの相手なんて片腕で十分だけど、なるべく暴力に訴えたくない。それに、ぶつかったのは私だし……でもそういう行為をするのは嫌だ。


「じっとしてろよ……」


 私を壁に押さえつけて、何やらズボンをゴソゴソ弄る酔っぱらい。


(こうなったら仕方ない。この人にはちょっと気絶してもらおう)


 漫画でよく見た手刀。それで気絶させてみよう。やったことはないけど、多分出来る。


「大丈夫。痛いのは一瞬で──」


「おい、何をしている」


 と、手刀を打とうとした矢先、大通りの方から声がかかる。


「し、師匠!?」


 そこには、スキンヘッドと左頬の一文字の傷が特徴な、私の師匠が居た。

 私をハンターたちの前でボコボコにした人で、その実態はAランクのプロハンター。

 【豪鬼】の二つ名を持つ、私の憧れ。


 その、師匠が。


「どうしたんですか? ジェイドさん」


 女の子を連れていた。


 この通りは所謂R18通り。

 つまりここで女の子を連れているということは──


「師匠……ろ、ロリコ──」


 次の瞬間、私と酔っ払いの頭に拳骨が落ちた。



 ◇  ◇  ◇  ◇



「師匠! 誰ですかその子は!」


 痛む頭をさすりながら師匠に詰め寄る。

 この三ヶ月、割と師匠と行動を共にしてきたが、こんな可愛い子と知り合いなんて知らなかった。


「あうぅぅ……」


 怖がって師匠の後ろに隠れた女の子の姿を改めて確認する。


 髪はこの通りの灯りに負けないくらい明るい赤色。

 年齢は恐らく10、11歳で、不安そうに見上げてくる目の色は黒だ。

 服は紺色の割烹着で、幼い見た目と反して温泉宿の女将さん的な印象を受ける。


「あの……ジェイドさん、この人が……?」


「ああ、そうだ」


「……二人の世界に入らないでください」


「ご、ごめんなさい……!」


 ……そんな対応をされると、なんか、私が悪いみたいに思えてくる。


「こいつはツクモの連れだ。ツクモがお前の事を話してたらしい」


「そうなんですか」


「わ、わたしの名前はカグヤです! ツクモさんからヨミさんの事は聞いていました。とっても強い人だと!」


「そ、そうなんだ。よろしくね」


 目を輝かせながら手を差し出してくるカグヤちゃんと握手をする。

 そしてふと、カグヤちゃんの額に小さな赤い突起物を発見した。


「それ……角?」


 それは、小指の第一関節よりも小さい角だった。

 小さくて髪色と同化していて見間違えかと思ったが、カグヤちゃんの額には極小の可愛らしい角が二つ付いていた。


「あ、はい。実はわたし、こう見えても赤鬼なんです」


 えっへんと胸を張るカグヤちゃん。




 これが、私と彼女の出会いだった。



  ◇  ◇  ◇  ◇



「カグヤちゃん可愛かったです。あの無害そうなところが。また合わせてくださいよ」


 昨日はあれで解散となった。私は黒鬼以外の鬼を見たことが無かったし、そっち系の話もしてみたい。


「あれでもカグヤの力はかなり強いぞ。見かけで判断してはいけないと前に言っただろう」

 

「え、いやいや、いくら赤鬼でもあんな細腕で力が強いなんてありえませんって」


 今は、二人で街を歩いている。

 勿論行き先は外だ。何故なら私たちはハンターだから。


「人は内にどんな力を隠しているか分からん。あそこの屋台の男も、昔は凄腕のハンターや騎士だったのかれしれんぞ」


 師匠の視線の先には、タオルを額に巻いたマッチョな男が居た。


「あの人は今でも強そうな見た目じゃないですか。うーん……じゃ、あそこの人はどうですか?

 あの人も、もしかしたら物凄く強かったりするんですか? 内なる力的なのがあったり」


 私が指を差したのは、私たちの前方歩く青髪の女の子だ。

 身長は私と同じくらいで、ここからでも分かる爆乳。

 そして、背には身の丈よりも大きい大剣を背負っている。

 重さに耐えられないのか、ふらふらふらふらと危なしげに歩いている。

 いつか転びそ──あ、ピンクだ。


「…………それは無いだろうな。武器を振るえる程の筋肉も、魔法を使うための魔力も見えん。

 無理矢理稼ぎに出させられているか、無謀な夢を見た子供かのどっちかだ」


 師匠がチラッと見て、目を逸らす。


 人の魔力が見える。

 そういう特殊な力を師匠は持っている。


 まあ、世の中そういう物だ。

 漫画の世界でもあるまいし、皆が皆特別な力を持ってるなんてありえない


「まあ、そうですよねー。師匠、さっきの人の屋台で何か買いませんか?」


「……まあ、いいだろう」



  ◇  ◇  ◇  ◇



「うぅ~……沢山の人にパンツ見られちゃった……」


 森の中を一人の少女が歩いていた。

 青色のロングヘアーと大きな胸、身の丈より大きい大剣が特徴の、どこかやんわりとした雰囲気の少女である。

 

「確かここら辺でいいんだよね……?」


 やがて大きめの空間に出て、少女は切り株に座る。


「う~、この剣重すぎだよ~。なんとかならないの?」


 と、誰かに話すように、虚空に呟く。


「もう、ずーっとこれを持たされる私の身にもなっ──て……」


 ふと、何やら腹部に違和感を感じた。


「……え」


 視線を下げれば、大きな針のような物が彼女の腹を貫いていた。


 次の瞬間、激痛がやってくる。


「あああああああ!!!! いだっ、いだいいぃぃぃ!」


 ずぶりと針が抜かれる。


 腹を押さえながら後ろを見れば、そこには背中に触手が生えた虎のような生き物が居た。

 

「ま……もの……」


 ベチャッ、と血を吐き出す。

 それを気に段々と彼女の意識が無くなっていく。


 瞼が落ちる寸前に見えたのは、二つの触手がこちらに向かってきている光景だった。



 ◇  ◇  ◇  ◇



「お、美味しい! この食感……師匠も食べます?」


「嬢ちゃん、それはサベラの触手だぜ」


「えっ、これあいつの触手なんですか……? ……でも、美味しい」


「ははっ! 確認せず食った奴の反応はやっぱ面白えなぁ。ほれ、もう一本食いな」


「いいんですか? って師匠! これがあいつの触手だって分かってましたね?」


「美味かったならいいだろう。ほら、さっさと行くぞ」



  ◇  ◇  ◇  ◇






「──ったくよぉ、さっさとあたいに変わっとけっての」


 魔物の死骸に足を乗せながら、血まみれになった青髪の少女がそう言った。


「なんであたいがこんなドン亀と一緒なんかねぇ……っと」


 少女が森から伸びてきた触手を片腕で持った大剣で切り裂いた。


「二匹居やがったのか。いい暇潰しなるなぁ!」


 少女が魔物へ走り出す。

 街の中や森を歩いていた時とは違い大剣に振り回されず、逆に軽々と片手で持ち相手を切り裂いていく少女は先程とはまるで別人だった。


「きひっ!」


 触手を躱し、切り、魔物が避ける前に首元を切り裂く。

 勢いよく血が噴射し、少女の青髪を赤く染める。


 見れば、貫かれた腹に傷は無かった。

 服だけが破れ、白い肌を晒している。最も、その肌は今赤く染まっているが。


「いや~、派手にやりましたね~」


「……汚い」


 やがて、広場に二人の少女が空から現れた。


 活発そうな金髪の少女と、眠たそうな黒髪の少女だ。


「ああ? 遅えぞてめえら」


「うげっ、まだそっちなんスか」


「そうだ、久々に会えて嬉しいだろ?」


「いや~、私としてはリベラさんの方が好きっスけどね」


「けっ、連れないねえ」


「……早くしないと誰か来る。目立つなって、言われてるでしょ?

 早く乗って、狂戦士」


 二人の少女は、空から現れた。ではどうやって現れたか。

 少女たちは、竜に乗って現れたのだ。

 その竜は体が透けており、色が無く、まるで生気を感じない。


「はいはい、わあったよ」


 狂戦士と呼ばれた少女は軽々と跳躍し竜に乗る。


「じゃ、消えますよ」


 金髪の少女がそう言うと、まるで最初から誰も居なかったかのように竜や少女たちの姿が消えた。


 彼女たちが居た空間には、切り刻まれた魔物たちと血塗れになった切株だけが残った。


 


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