王都鬼襲 八
私生活が忙しかった(最強の言い訳)
「──このように、ダンジョンは世界各地に存在します。昨日まで何も無かった空間にいきなり生成されたり、既存の建造物の中に生成される事もあるそうです。
今最も若いと言われているダンジョンは、聖都にあるダンジョンです。有名ですから皆さん知っていますよね」
静かな教室に満ちるエミリー先生の声。
私はそれを聞き流しつつ、今後の事を考えていた。
(そろそろ本格的に勇者と接触したい)
ヴィオラたちの喧嘩とアリス会長の一件があった後も私は勇者に接触を図っていた。
しかし、一種の名物のようになっているヴィオラたちとあの女子生徒による口論に阻まれたり、そもそも勇者が不在だったりと、結果に恵まれていない。
ただやはり勇者は有名で、教室内はいつもその話で一杯だ。
Aクラスは既にハーレム状態でBクラスに魔の手を伸ばしているとか、強力な希少属性を扱うとか、実はハンター活動もしており全員Sランクだとか。
(今日こそは……)
ちらりとヴィオラの方を見ると、あちらも見ていたようで、目が合った。
私の秘密を知っている彼女とヤクザエルフことランスの動向も注意しなくてはならない。
◇ ◇ ◇ ◇
「はぁ……また収穫無し……。そろそろ学園に通い始めて一週間……」
「ふぅ……撒くのも大分慣れてきたなぁ」
広い学園内の、森林部分に当たる一角。
そこで、私は出会ってしまった。……いや、遂に出会った。
名前は確か……えー…………──そう!
「君は確か、ツクヨさん、だったよね。僕の名前は朝日京谷──じゃなくて、キョウヤ・アサヒ。よろしく」
そう言って中々なイケメンスマイルを向けてきたのは、私がこの一週間追い求めて来た存在──日本から召喚された5人の勇者の内一人。
その中でもいかにも主人公っぽい、朝日京谷だった──
◇ ◇ ◇ ◇
「あっ! ツクヨさん、来てくれたんだね!」
私は、昨日勇者と出会った場所に来ていた。
そこでは、私より先に来ていた勇者が嬉しそうに手を振って出迎えてくれた。
「はい。待たせてしまいましたか? キョウヤ君」
私は、勇者の姿が見えた瞬間小走りになり、彼の元へ着くと膝に手を起き、上目遣いで首を傾ける。
「い、いやっ、だ大丈夫。僕も今来たばかりだったからさっ」
「そうですか。良かったっ」
私は両手を合わせ、満面の笑みを浮かべ──
(あー無理、このキャラキツイ……。て言うか元男なのに、なんでこんなコテコテの“女の子”をしなくちゃいけないんだ……)
内心、文句たらたらであった。
昨日は多少世話話をすると昼休みが終わってしまい、勇者の方から『あ、あの! 明日もここで会わない?』と誘われた訳だ。
まあぶっちゃけ私は可愛いし、眼鏡と軍服風制服の破壊力で一目惚れされてもおかしくは無い。
なので、遺憾だが。誠に遺憾だが、商人さんに教えて貰った“男を堕とす小悪魔テク”を使っている。
「……でも、Aクラスのキョウヤ君がDクラスの私なんかと合ってて大丈夫ですか? それに──」
勇者だし、と。そう言おうとした。
しかしそれは、他ならぬ彼によって遮られた。
「そう言うの、関係ないと思うんだ。クラス階級とか、身分とか、種族とか、そう言うしがらみ無しに、みんな仲良く──ってごめん。変な話だったね」
「いえ、とっても素晴らしい考えだと思います!」
──所詮は、理想だが。
さて、私の本題へ移ろう。
「私、キョウヤ君の事が聞きたいなーって。教えて、くれますか?」
◇ ◇ ◇ ◇
カツ、カツ──。
ジェイドは、聞き慣れない他人の足音で目を覚ました。
「ここは──?」
目を入ってくるのは、一面の白。
床や壁、自身が寝ているベッドまでもが全て白で統一された、病室のような所だった。
「あ、起きました?」
ガラガラと扉が開いて、そこから蒼天の髪をした青年が入ってきた。
「ここはどこだ?」
「ここは俺たちの“家”ですよ。一応王都にあります」
青年はそう答えた。
「そうか…………カグヤはどこだ!? ──グッ!」
「安静にしてなきゃダメですよ。でもまあ、心配ですよね。
案内しますから、着いてきて下さい」
◇ ◇ ◇ ◇
「レイさん、こんばんは。そちらの方は?」
「最近連れてきた同胞の保護者で、俺たちが求めてた人さ」
青年に連れられて歩いていると、白く美しい髪を肩の辺りまで伸ばした少女が話しかけてきて──
「そうなんですか! えっと、私はルーニャと申します! どうかよろしくお願いします!」
──と言って、頭を下げてきた。
「…………」
ジェイドの持つ魔眼は、『魔視の魔眼』。
魔力を見れると言う、一見地味な魔眼だ。
しかし、人の中にある魔力を見れば、その者が覚醒者かそうでないかが分かる。
その能力は、彼らが探し求めていたもので──
「あ、あぁ」
ジェイドはその少女に、曖昧に返す事しか出来なかった。
◇ ◇ ◇ ◇
「うゥゥ……がアあァァァァ!!!!」
そこには、鬼が居た。
その鬼は、目についた物全てを破壊し尽くさんとばかりに咆哮し、自分に向かってくる魔物を素手で引き千切っていた。
「カグ、ヤ……?」
赤い髪に、それに埋もれる程小さい角。
「あアアああァあ!!!!」
理性を失った瞳で、カグヤが咆哮した。
新しく連載した作品のステータス表記が面倒くさい猫崎です。記憶の彼方へ忘れ去られた頃に投稿です。これからはぼちぼち投稿していければいいなあと。




