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王都鬼襲 六

「──え?」


 彼女は口論を続ける四人と多くのギャラリーを無視して、真っ先に私の手を取った。


「さっ、行きましょ。この場は任せるわ、セン」


 いつの間にか彼女の斜め後ろに学生服を着た黒髪の生徒が立っていた。丁寧に揃えられた髪は、彼に執事のような印象を受けさせる。


 彼女はそのまま私の手を引き進んでいく。

 私は、抗えない謎のプレッシャーのようなものを感じ、大人しくついて行ってしまう。あそこから離れられるならそれで良かったという思いもあったかもしれない。


「着いたわ」


 階段を上がり廊下を進んだ場所には、『生徒会室』と書かれたプレートがあった。



  ◇  ◇  ◇  ◇



「改めまして、こんにちは。私は生徒会のアリス。アリス・アーノリアよ」


「……ツクヨです」


 知らない人にいきなり連れて来れられたのはなんと生徒会室。更にその人はなんと生徒会長だと言う。


(あー、どっかで見たことあると思ったら……)


 そう言えば、入学式の時にこの人が何か喋っていた気がする。


「あの、それでなんで私はここへ?」


 私は、高級そうな椅子に座ったアリスさんに問いかけた。


「今年の試験官勝ちは貴女と勇者たちだったの。勇者たちは例外中の例外だから、実質貴女だけ。お分かり?」


「いや……」


 分からない。全く。


「アリス、いつも言っているだろう。その説明じゃ彼女は理解できないぞ」


「うわっ!」


 唐突に真横から声がした。


 見ると、さっきセンと呼ばれた男子生徒が私の横に立っていた。

 風貌からして敬語でお嬢様とか言いそうだと思ったけれど、普通に喋っている。

 彼はやれやれと言いたげな仕草でアリス生徒会長の横に移動した。


「つまり、優秀な君に生徒会に入らないかという誘いだよ」



  ◇  ◇  ◇  ◇



「──逃がすかぁ!」


「くっ!」


 夜の王都を駆け回る一つの影があった。

 ソレは家々の屋根を跳び移りながら移動していた。黒い靄のような物が掛かっていて姿は見えないが、先程聞こえた声からして余裕が無いように見える。


「侵入者め、逃げられると思うなよ!」


 まだ追ってきている追っ手をチラリと見て、ヨミは一つ舌を打った。





「……よし、始めよう」


 私は隠蔽の魔法のせいで少し悪い視界の中、広い庭園の隅に身を隠しながら小さく呟いた。

 丁寧に切り揃えられた木のオブジェが私の身を隠してくれている。


 あの日から二日目。

 アリスさんたちの誘いは、「考えさせてください」と言ったまま保留にしてある。商人さんの判断を待っているからだ。


「『私の求める者・赤き者。私の求める者・鬼の者。私の求める者・小さな者。名はカグヤ』」


 その間にも私は、カグヤちゃん捜索を続けている。


 広げた両手の中に、小さな、しかし大きく煌めく光が現れた。


 これは私が求めたものを自動で探してくれる便利な魔法だ。

 色々探しでも良い探知系の魔法が無かったので創った。

 何個か条件を言うと、それに一致した特徴を持つ人、物、景色と何でも見つけてくれる。

 欠点はかなりの魔力を必要とする事と、このように強烈な光を放つため隠密に向かない事だ。

 他にも色々条件があるが、省略する。


「見つかりませんようにっ」


 私は現れた光に向かって素早く魔力探知阻害の魔法を被せる。

 ここは貴族の家の敷地内。当然見張りが居る。

 いきなり敷地内でこんな魔法を使ったら分かる人にはバレてしまう。

 なので直ぐ様隠さなくてはいけないのだ。これが結構有効なのか見張りに魔力探知を出来る人が居ないのか、未だ侵入をバレた事は無い。食に困ったら泥棒でもしようかな。


「よし。それじゃあお願い、ラプラス」


 ラプラスとはこの魔法の名前だ。……別に名前くらい付けてもいいじゃないか、自分で創った魔法なんだし。


 そうしてラプラスが探知を始めようとした瞬間──


「ッッ!!!」


 私の第六感とも言える何かが強く警告を鳴らした。

 私はそれに従い、思いっきり横に跳ぶ──!



 音も無く。

 ラプラスが真っ二つに割れて──いや、斬れていた。


「貴様、侵入者だな?」


 跳んでいる私に対して、真横からの声。

 地面を隆起させ、それを足場にして方向転換。


 ……右脚に痛み。


(なんだ……どこに居る……!)


「問うておるだろう、答えんかっ!」


(後ろッ!?)


 同じ事を繰り返す。今度は肩。


「くそっ!」


「宙を二転三転と、お前は大道芸人なのか?」


 ……不味い。


 相手を発見していない状況で、右脚と肩を負傷した。

 

「この家の人間だって言ったら信じますか?」


「ふん、何を言っておる。この家にはお前のような者は居ない」


 敵の声は、女性ではなく、女の子という感じ声だ。

 それが今、前方から聞こえてきている。


(どうする?)


 こうなった以上、逃げる事は確定している。

 問題はその方法だ。

 まるで瞬間移動かのように瞬時に移動するこの敵の種がまだ分かってない。


 身体的なものなのか、魔法的なものなのか。回数制限はあるのか、何か制限があるのか。なぜ今襲ってこないのか。


(そうだ、確かあれがあったはず!)


 私は腰のポーチにそれがあるのを確認すると、足元の地面を高く隆起させた。


「逃がすか!」


 上がり続ける視界、敵の声がすぐ後ろから聞こえた。

 

(ほんと、どんなカラクリなんだか……。でも)


 これで私の勝ちだ。


「ぐっ!? な、何を……! 体が……!!」


 私はその声を聞いて土と草で出来た塔から飛び降りた。


「あなたの体は今、強力な麻痺状態に陥っています。まだ調整中ですが、恐らく10分は動けないでしょう」


「く、そぉ! 動けぇ!!」


「もう貴女には会いたくないですよ。それでは」


 私は塀を飛び越え逃げ出した。

 この間に遠くまで逃げてしまえば、もう追ってはこれまい。


 ……そう思っていた。





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