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王都鬼襲 五

 第二試験試験会場である学園闘技場。

 そこで、二つの影が交差した。


 ──パァァァァン!!


 一つは、教官である筋肉ダルマことラース・ガリドル。

 もう一つは、ヨミ改めツクヨ。


 「うわぁ……エグ……」「ひいぃ!」「痛そぉ……」「い、いくら傷が直るといっても……」


 爽快な炸裂音が響き渡ると、次に敗者が倒れる音が鳴った。


「──が、がふ……」


「ふぅ……取り敢えず、私の勝ちですね」


 ツクヨは眼鏡の位置を直すと、泡を吹いて倒れるラースを横目にそう言った。



  ◇  ◇  ◇  ◇



「──ほうほう、それで教官の金的をダブル強化状態で思いっきり蹴ったと。中々エグい事をしますねえツクヨちゃん」


「師匠に前言われたんですよ。面倒な男を撃退するにはそこを蹴っとけって。まあ、結界があったから出来た事ですけど。

 流石に妖力による強化までは想定してなかったみたいですね」


 試験も終わり、一日後。

 合格発表の中に自分の番号がある事を確認した私は報告の為に商人さんの店へ来ていた。


「魔力と妖力が殆ない状態でかなり厳しかったですが、勇者たちの戦いも見てきましたよ。一応」


「ほうほう、是非教えて下さい。

 ──それと、制服はもう受け取りましたよね? 着てみましたか?」


「うっ……」


 合格したので、当たり前だが色々な物を購入した。

 その中にはフォリア学園の制服もある。

 ちなみにお金は商人さんが出してくれた。


「まだ、着てません……」


「じゃあ今着ましょう! ほら、そこの陰で着替えてください」


 ……制服、あるんだけど……。


「分かりましたよ……」





「おお! 良いじゃないですか!」


 私はフォリア学園の制服に着替えた。


 白地に所々青いラインがあり、全体的に明るい雰囲気だ。

 そして、どちらかと言うと軍服のような印象を受ける。


(いや、そんな事はどうでもいい)


 そう、問題なのは──


「……す、スカートって、生まれて初めて着たんですけど……」


 この制服、なんとスカートなのだ。丈は膝上3センチくらい。


 私は言葉を喋れる年齢になってから現在まで、スカートを履いた事が無い。

 今まで履いてこなかった物を今更着るのもなーと。

 それに私に対するギルドの印象はよく知っている。

 変な名前もあったが、『豪鬼の右腕』だの『死神鬼』だの、一体誰か考えているのか。

 そんな私がスカートなんてフリフリした物を着た日にはギルドで一生ネタにされる。


「え!? そうなんですか!? せっかくの美少女なのに勿体無いですよツクヨちゃん」


「き、機会が無かったんですよ機会が。それに似合わないですし」


 私基本、服装は無地のシャツにショートパンツがデフォだ。

 恐らく前世の私はファッションに無頓着だったんだろう。


「いえいえ、とても似合ってますとも! ほら、眼鏡掛けてそこの鏡を見てみて下さい」


 私は眼鏡を掛けて、全身が映る大きな鏡の前に立った。


(……まあ、悪くない)


 キツいと言われる目は眼鏡を掛ける事で大分印象が柔らいでいる。

 本当に軍とかに居そうな、クール系の軍服美少女が鏡の中に居た。


 でも、見るのと着るのは全然違う。

 少し歩くだけでふりふり揺れるし、何だか下半身が心許ない。


(もし昨日の試験をこれ着てやってたら、何回見えてたんだろう……)


「それにしても、ツクヨって呼ばれるのは慣れないですね。何でツクヨって名前なんで──」


「ちなみに下着はどうなってるんですか?」


 ヒラッ


「ちょ! 何してるんですか!?」



「駄目ですねぇツクヨちゃん。こんなシンプルで色気も無い物を履いてちゃ。この黒いやつなんてどうですか?」


 そう言って商人さんがどこからともなく黒いレースの下着を取り出す。


「拒否します!」

 

 誰に見せる訳でもないのに、あんな物履けるか!



  ◇  ◇  ◇  ◇



(この世界の月も綺麗だな)


 屋根の上から見上げる夜空には幾多の星星が輝いていて、一瞬だけ、ここが地球ではない異世界だということを忘れそうになる。


「『闇に溶けろ』」


 屋根を蹴りつけ、宙を舞う。

 私は王都の家々の屋根の間を飛びながら、貴族街を目指していった。


  

  ◇  ◇  ◇  ◇



「──はい、今日で学園生活二日目ですね。先生の名前、ちゃんと覚えましたか?」


 教卓の前で、若い白髪の女性教師が人懐っこい笑みでそう言った。


(名前……えーと……エリ、エリー……だったかな?)


「先生の名前は、エミリー。エミリー・ギストンですよっ。ちゃんと覚えて下さいね?」


 ちら、と。私に一瞬目を向けてきた。


(……すいません)


「はい! じゃあホームルームから始めましょうか!」


 朝の教室。

 友達が出来ていない時期特有の謎の静けさに包まれたこの場所で、エミリー先生の声だけが響いていた。



  ◇  ◇  ◇  ◇



 王立フォリア学園の生徒は、自身の能力によって入れるクラスが決められている。




 Eクラス──何故入ろうと思ったのか疑問に思われる程酷い。最底辺故に見向きもされない。


 Dクラス──一歩踏み間違えれば最底辺。所謂落ちこぼれ。


 Cクラス──Bクラスへの昇格とCクラスへの降格に板挟みに合っている。常人級。


 Bクラス──優秀な生徒が集うクラス。自分の力の自覚とAクラスの実態を知っている為比較的落ち着いたクラス。ただの平民が入れる限界。


 Aクラス──真の化物、または貴族商人の子息令嬢が入れる。一番上のクラス。




 と、こんな風に。

 まあこの知識は商人さんからの入れ知恵だが。


 私はその中で、Dクラスに入る事になった。

 恐らく教官を倒して無かったらEクラスになっていただろう。

 最底辺一歩手前だ、危ない危ない。


「はーい! それじゃあ今日は基礎的魔法学について教えますよー!」


 黒板の前ではエミリー先生が文字を書いている。

 私はそれを、窓側の列の中間辺りで日向に当たりつつ眺めている。


「はい、それじゃあ魔法の属性は基本的に何種類ですか? 分かる人ー?」


 属性の種類は火、水、風、氷、地、光、闇、無の8つだったかな?


「はい! 8つです!」


「はーい、正解でーす。魔法の属性は基本的に火、水、風、氷、地、光、闇、無の8つと言われています。

 細かく別けると多くなったり少なくなったりするからややこしいんですが、この国では8つです。

 それと、魔法の分け方にはもう一つ種類があります。何か知ってますよね?」


 陰と陽です! と、教室のどこかで声がした。


「はい正解! 国や地域毎で違う属性の分け方とは別に、この陰と陽という分け方は、世界共通だと言われているんですよー。


 余談ですが、世界には上げられた8つの属性とも違う魔法を使える人も居ます。その様な人を『希少属性保持者』と言い、その珍しい魔法は希少属性と言われています」


 希少属性。

 それもギルドで聞いた事があるし、前に不思議な力を使う人とも会った事がある。


(凄かったなあ……)


 色々と理解を超えた人だった。


(もう一度会ってみたい気もするけど……)


 何故か、あの人とはもう会えない気がする。


「えー話が逸れましたが、この陰と陽という分け方は、体の中で魔法を使うか、体の外で魔法を使うかという違いです。

 炎を生み出して操作するような魔法は陽魔法。

 身体能力を強化したり体の強度を上げるのが陰魔法という感じです。


 これは種族毎に得意不得意があり、エルフとかなんかは陽魔法が凄く得意で、陰魔法はからっきしな人が多いみたいです。

 鬼はその逆で、陰魔法が得意で陽魔法が苦手です。

 どちらも珍しい種族ですが、このクラスにはエルフの子が一人だけ居ますね!」


 視線がある所に集まる。

 私もそれに釣られて見ると、顔を真っ赤にした金髪の女の子が、恥ずかしそうに顔を下に下げていた。見ると耳が長く、確かにエルフだ。


「まあ、鬼の子は居ませんけどね……」


 エミリー先生の呟き、内心で計画通りと笑みを浮かべる。


(あー、髪が前にきて邪魔だなーっと)


 普段なら角がある位置。

 そこに指が触れ──そのまま、何も無いかのように通過する。


 そう、今の私は姿を偽っていただけの前までとは違う。物理的に角を消す手段を手に入れたのだ。

 もちろん、商人さんのおかげで。



  ◇  ◇  ◇  ◇



 ゴーーーン! ゴーーーン!! ゴーーーーーン!!!


「はい! 午前の授業はここまで! お昼は一階にある売店で買うか、持参した物を食べて下さいねー」


 3つの鐘とエミリー先生の言葉が終わると、どこかしこから疲労が乗った声が聞こえてくる。

 私はそれを聞き流しながら、売店を目指す。


 どうやら学園の売店は2つあるらしく、一つは平民用の売店、もう一つは貴族用の売店と、公には言われていないがこれがこの学園の常識らしい。


 私が目指すのは勿論、貴族用の売店だ。

 私が学園に入った理由は、勇者の情報を集めガクヤちゃん捜索の糸口を掴む事だ。勉強なんてどうでもいい。


 勇者には国が付いている。だから使うとしたら貴族用の売店。

 もし売店に来なかったとしても、その売店は勇者たちが入ったAクラスに程近い場所にある。

 方向音痴設定で、どうにか勇者たちの元へ近づく。



「──ねえ、なんでBクラスの雑魚とDクラスの落ちこぼれがここに来てるわけ?」


「ほんっと、身分を弁えてほしいですわ」


 一瞬自分に言われたと思ったが、どうやらそうじゃないみたいだ。


「──金で得た地位で姫様を侮辱するとは、スライスにされたいか? 豚共」


「うぅ……ら、ランス、やめよう?」


 

 貴族用の売店の前で、二組の生徒が言い争っていた。


「豚、ですってぇ……? あなたたち死にたいの? 私が誰だか分かってるのかしらぁ??」


「汚い飼育小屋から逃げ出した家畜だな。随分躾が悪かったみたいだ、唾まで飛ばす」



 片方は金髪縦ロールの二人組だ。

 どちらも女。見るからに貴族で、プライドが高そうな人たち。

 豚豚言われているが、全然細い。モデル体型とまで言っていいくらいには。


 もう片方は後ろ姿しか見えないが、何故かこちらも両金髪。

 男と女の二人で、男の方がバスバス罵声を浴びせている。


(勘弁してほしいな……)


 今、ここには注目が集まっている。

 そして、曲がり角でバッタリ割と近い位置で遭遇してしまった私もまるでこの喧嘩に参加してるような目で見られている。



 その間にも口論は続き、ギャラリーも多くなっていく。


「誰か豚ですかっ! 私が身の程を弁えない愚か者に親切心で教えてあげたのに! 黙って頭を垂れればいいのですわっ!」


「貴様は薄汚い犬畜生に頭を下げるか? 地を這う虫に気を向けるか?」


「あなたねぇッ!!」


(もう勇者どころの話じゃなくなって来てる……一旦帰ろうかな)


 と、私が決断する一瞬前──


「あなたたち、少し騒ぎすぎよ?」


 ウェーブがかかった真っ赤な髪を腰まで伸ばし、更に一本の剣を腰に帯刀した一人の生徒が、四人の間に割って入った。


「入学早々騒ぎ事を起こすなんて、随分な度胸ね?」


 どこかで見た顔だと、私が思い出そうとする瞬間──


「探していたわ、ツクヨさん。さあ、行きましょう」


 彼女が、私の手を取った。




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