王都鬼襲 三
「ふむふむ、ヨミちゃんはその子を探しに王都へ来たと」
「そうです。商人さん、何か知ってる事はありませんか?」
私は商人さんに今の状況を話した。
正直、私一人ではこの広い王都で手がかり無しにカグヤちゃんを見つけられるとは思わないからだ。
この人なら、もしかしたら──
「あるよ」
「本当ですか!?」
「うんうん。その集団、ちょっと聞き覚えあるかなぁ」
「教えて下さい! どんな些細な事でも構いません!」
商人さんに詰め寄る。
私はついている。こんな所で手がかりが掴めるなんて。
「……ヨミちゃんは、黒鬼の集落から出てきたんですよね? もうハンターとして、ちゃんと稼いでもいる」
「お金ならあります」
私もCランクハンター。そこそこの稼ぎはある。
カグヤちゃんの為なら、いくらでも出そう。
「ふふっ。分かってないですねぇヨミちゃん。情報の対価はお金じゃない。情報なんです」
「情報……」
……つまり私は、ミアたちの事を知りたいなら、それ相応の情報を商人さんに提供しなければならないのか。
(無い……)
無い。私には無い。
ミアたちの情報と釣り合うだけの情報なんて、私は持ってない……。
「………………」
「ちょ、そんな顔しないで下さい。私はヨミちゃんを虐めたいわけじゃないんですよ?」
「…………わかってます」
結局、振り出しに戻った。
(今日はもう、宿に帰ろうかな……)
既に陽は落ち、輝く月が夜天を照らしている。
「──という事で! ヨミちゃんには私が求める情報を集めてきてもらいます!」
「え?」
商人さんが求める情報を集める……?
「ん? どうしました? 私はヨミちゃんを虐めたいわけじゃないって言いましたよね?」
「──! ありがとう商人さん!」
やっぱり商人さんは優しい!
私は感極まって商人さんに抱きついた。
「それじゃあ早速準備をしましょう。ツクヨちゃん」
……ツクヨちゃん?
◇ ◇ ◇ ◇
「まずは魔力測定です。こちらの石版に手を乗せてください」
「は、はい」
何個かある長い列の最後尾。第一試験の最後が私だった。
周りを見渡せば、教員と思しき人たちは一仕事終わった感を出して体をほぐしたりしている。試験を受けに来た生徒の視線も感じる。というか私が最後だから、結構な視線を感じる。
(手を乗せる手を乗せるだけでいいのかな?)
試験官たちが座る机には長方形の石版が置かれている。
商人さんから教えてもらった情報では、これで魔力量の測定をするらしい。
私は石版にそっと手を置いた。
石版が、夜を思わせる暗色を放つ。
(綺麗……)
「次はこちらの水晶を両手で持って下さい」
次に出されたのは、なんの変哲も無いただの水晶だった。
私はそれを持つ。
……何も起こらない。
「魔力測定、E級」
「精霊適正、0」
「うわ、まじ?」「E級? 平民でもDはあるらしいぜ?」「あんなので学園に入ろうだなんて笑っちゃう」「ていうか精霊適正0って……相当心が汚れてるのね」
「それでは、一番得意な魔法を使って下さい」
「はい。身体強──」
「見て! あれって勇者様方じゃない!?」「おお! 本物だ!」「格好いい!」「可憐だ……」
「……化」
「──あっ! はい。もう大丈夫です」
「そうですか。ありがとうございました」
ざわざわと受験生が騒がしくなる。
どうやら勇者たちがやってきたようだ。
(受付、私でギリギリだったんだけどな……。流石勇者)
「すいません! 訓練が長引いてしまい……」
護衛と思しき兵士を連れてやってきた勇者の内の一人が頭を下げる。それに合わせるように、他の勇者も頭を下げた。あ、一人下げてないのが居る。
「いえいえ! 全然大丈夫ですよ!」
おお、凄い態度の差だ。
まあ、国がバックに付いてる勇者に強くは当たれないか。
「それでは、第一試験を始めます。内容は、魔力量と精霊への適正検査になります」
◇ ◇ ◇ ◇
「……あの、商人さん。ツクヨって誰ですか?」
「ヨミちゃんの偽名ですよ」
偽名って……。もしかして私、これからかなり黒い事をさせられるのか?
「それで、私に集めて来てほしい情報とは?」
正直、私が集められる程度の情報なんて、商人でも集めれそうだ。
何か、私にしか出来ない事があるのだろうか。
「ヨミちゃんも知ってますよね? 勇者の事」
──ああ、やっぱり関わっちゃうのか。
なんだか、そんな気はしてたなぁ……。
「はい、知ってます」
「今、勇者が熱いんです! あのアルシア・アルテミシアが認める程の実力を持った異世界人!
凶暴化する魔物を討伐するための戦力として召喚された彼らは──なんと呑気にも学園に通うそうで」
ふむふむ。見えてきた。
「つまり、私が同じ学園に通い、勇者の情報を集めると。ツクヨは、学園に通う時の偽名って事ですね?」
「正解です! 差し当たって入学試験は明後日なので、明日もう一度ここに来てください。色々渡す物があるので」
◇ ◇ ◇ ◇
「No.602。キョウヤ・アサヒ様」
「はい」
呼ばれたのは、先程頭を下げた勇者だ。何となく、彼が勇者たちを纏め上げているような気がする。
(キョウヤ・アサヒ……。朝日京谷、かな?)
「こちらの石版に手を起いてください」
京谷……君。いや、さん? ……呼び捨てでいいか。
京谷が石版に手を起くと、石版が白銀色の光りを放つ。
「凄い、A級だ!」「私初めて見た!」「流石勇者様!」
「それでは一番得意な魔法を──」
「すいません。まだ結界の無い場所での魔法の使用はアリシアさんから禁止されておりまして……」
まだ魔法に慣れてないって感じなのかな。
でも、試験内容に得意魔法の使用が入っているし、通るの──
「そういう事なら、仕方ありませんね」
あ、いいんだ。
「魔力測定、A級!」
「精霊適正、75!」
(おお、流石勇者だ)
私が見ていた限りでは、これはかなり上の評価のはず。
「No.603。ユウカ・フジミネ様」
次に呼ばれたのは富士峰優花。
黒髪を背中まで伸ばして、委員長とか、生徒会長のような雰囲気を醸し出している。
「やり方は見ましたので」
優花は石版に手を起く。
石版が、金色の光を放った。
「魔力測定、B級!」
「精霊適正、70!」
「美しい……」「お、お姉様って呼びたい!」
「No.604。キリリ・サトウ様!」
「はーいっ。これに魔力流せばいいんしょー?」
そう言って石版に手を置くのは、髪を茶色に染めた、まさにギャルって感じの勇者。
サトウキリリか。佐藤、え? どういう漢字なんだろう……。
「魔力測定、B級!」
「精霊適正、63!」
「キリリ様だけ、髪の色が茶色だな……」「きっと、特別な方に違いない!」
「No.605。キリカ・ユメハナ様」
「は、はいっ!」
次の勇者は夢花桐花。
眼鏡を掛けた、気弱そうな勇者だ。ウェーブが掛かった髪を胸の前に持ってきており、他の勇者が検査している時はそれを弄っていた。
他に特筆すべき点は、巨乳だという事。以上。
「魔力測定、C級!」
ん。今のところ勇者の中で一番低いな。
「精霊適正、86!」
「86だと! 最高値である100までもう一息じゃないか!」「守って上げたい!」
「No.606。ユウト・サイトウ様!」
「チッ、やっと俺の番かよ……」
斉藤悠人。うん、普通の名前だ。
男にしては長い髪。前髪で目が半分ほど隠れ、更に猫背なのでちゃんと前が見えてるか心配になる。
「魔力適正B!」
「精霊適正36」
「ふ、ふむ……。まあ、勇者様なのだから、何か特別な力を持っているに違いない」「私、ああいうの好きかも!」
こうして、第一試験が終了した。
次の試験は第二試験。
内容は──教官との模擬戦。
私は、生まれて初めて掛けている眼鏡の高さをそっと上げた。
短編書きました。題名は小悪魔聖女です。