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王都鬼襲 二

(なんで日本人が!)


 私の動揺は民衆の声に掻き消され、誰の目にも止まらなかった。


「彼らこそ! 我が国の、いや、世界の希望となる方々です! 

 年齢は皆様まだ16。しかし侮るなかれ! その力は、能力は、我が国最強の騎士アリシア・アルテミシアが認めるほど!

 必ずや魔物を討ち滅ぼし、我が国に栄光をもたらして下さるでしょう──!!」


 民衆が湧き上がる。

 男も、女も、老人も、子供も。皆が手を上げ、獣のような声を上げていた。


(なんだ、これ……)


 その光景に、何か、違和感を覚える。

 周りを見渡せば、殆どの人間が雄叫びを上げていた。

 私のように違和感を覚えて周りを見渡している人間は、見渡す限りで二人。


 こんなに、騒ぐような事なのか? 魔物の凶暴化なんて聞いた事が無いし、そもそも安全な王都に住む市民が気にするような事なのだろうか。


 考えすぎ、か?

 でも、なんだろう。変な違和感が、私の胸に纏わりつく。


(……帰ろう)


 日本から来た勇者の事は、一旦置いておく。

 そもそも、今日の宿すら無い身だ。また野宿なんてしてられない。


 私は声を上げて狂乱する民衆に背を向け出口に向う。



「帰るのか?」


 会場から出て、すぐ。声を掛けられた。女性の声だ。


「せっかくの披露会だ。もっと楽しんでいけ」


 開かれた会場の扉。

 その片側に、背を付いて腕を組んでいる女性が居た。

 真っ赤な髪をポニーテールにした、何というか、キリっとした感じの20代くらいの女性だ。

 白地の服に、要所だけを守る鎧。腰には兵士たちも下げている見慣れた剣を凪いでいる。この人も兵士の内の一人なんだろう。


「……いえ、顔は見れたので。それに王都に来たばかりで今日の宿も無いんですよ」


「そうか、王都は初めてなのか?」


 女性がこちらに近づいてくる。

 ガチャリ、と鎧の音が鳴る。


「ええ、まあ」


「そうか、なら商業区画と平民の住居区画の間が宿泊区画。宿屋が最も密集している場所だ。そこだけにあるとは限らないが、空きは見つかるだろう」


「そうなんですか、ありがとうございます」


 未だ、民衆の声は聞こえる。


「私の名はアルシアだ。困ったら、いつでも声を掛けてくれ。とは言っても、多忙な身だがな」


 アルシア? それって確か、さっき言ってた最強の騎士の名じゃなかったか?

 この人が……?


「どうした?」


「い、いえ! ご親切にありがとうござます。それでは」


 私は今度こそ、王城から抜け出した。

 ここにも、ミアたちの匂いは無かった。



  ◇  ◇  ◇  ◇



「──んん、んふぅ……」


 久しぶりのベッドと毛布の感触。

 やっと見つけた宿での睡眠から覚めると、疲労した体が、もっと休ませろと言ってくる。

 その願いを聞き入れ、また安らかな微睡みに堕ちそうになる。


『ヨミお姉ちゃん! この服可愛いかな?』


 だが、それは許されない。


「『水よ……』」


 球体状に作りあげた水に顔を突っ込み、無理矢理意識を覚醒させる。


「──っふぅ!」


 私がちゃんと制御しているので水は飛び散らない。

 さて、完全に目が覚めた。カグヤちゃんの捜索を始め──


 ぐぅ〜


 睡眠の要求を無視した仕返しかのように、腹が音を立てる。


「…………ご飯を、食べてから」



  ◇  ◇  ◇  ◇



「おはようございます、お客さん。ちょうどお昼ですよ。今出しますね」


 二階にある部屋から一回へ下りると、若い女の子(私と同じくらい)が声を掛けてきた。

 ここの一階は食事処としても営業しており、泊まっている客には通常より少し安い値段で提供されると言っていた。


 私は空いている席に座り、どこを捜索しようかと思案を巡らせる。


(あの電話では“家”と言っていた。家が密集している区画を探すか?

 ……一般階級である私は、貴族階級が住む区画には近づけない。もしそこの区画に居るなら、探すのは骨が折れるな……)


 一般階級の人間は貴族階級の人間が住む区画へは近づけない。

 これはどこの街でも同じだった。

 それは王都でも変わりないようで、昨日王城へ行く途中に近くを通った時に嫌な視線を向けられたのを覚えてる。


(もし行くなら、夜か)


 それまでは、一般階級が住む区画を洗う。

 ついでに、王都の地形と勇者の情報も探そう。


「はい! こちらが今日のお昼ご飯ですっ!」



  ◇  ◇  ◇  ◇



 調べた所によると、この王都は円形状に広がっており、六つの区画から構成されているようだ。


 一つ、商業区画。

 二つ、ハンター区画。

 三つ、住居区画。(貴族階級)

 四つ、住居区画。(一般階級)

 五つ、宿泊区画。

 六つ、学園区画。


 王都を中心とし、北から時計回りに住居区画。(平民)宿泊区画。商業区画。住居区画。(貴族)学園区画。ハンター区画と並んでおり、区画の真ん中を貫いている大通りと区画を繋ぐ横道がこの王都にはあるようだ。

 私は商業区画を通って王城へ行き、そのまま宿泊区画で宿を見つけた。

 一般階級の住居区画はすぐ隣の区画だ。しかし、貴族階級の住居区画が一般階級とは反対の位置にあるため、移動に時間を取られる恐れがある。


「すいません、このくらいの、赤鬼の女の子を見かけませんでしたか?」


「んー知らないねえ。鬼なんて珍しいから見かけたら耳に入るはずなんだけど……」


(やっぱり聞き込みは効果無しか……)


 それもそうだ。

 カグヤちゃんは何者かに狙われてる。

 それを(恐らく)保護したのがミアたちだ。聞き込みで居場所が分かる程度だったら、逆に怒る。


「はあ……成果無しか……」


 もう、五日経っている。頼みの綱であった匂いは既に掻き消え、手がかりは王都の家に居るという情報のみ。


(大丈夫かな……)


 陽が落ちてきている空を見上げ、この王都のどこかに居る妹を想う。


(結構人見知りしてたし、襲われた後だし、安全な場所に居ると良いけど……)


 私がしている事はもしかしたら、余計な事なのかもしれない。

 私がカグヤちゃんを見つければ、敵も見つけるかもしれない。

 師匠とツクモさんが居るんだし、私が居なくても大丈夫なのかもしれない。


 でも──


(私の、妹なんだ)


 出会って少しだけど、私たちは家族だった。

 それに、カグヤちゃんが知っている私は、敵に殺されそうになっている私だ。私が生きているという事を伝えたい。


「……あれ、ここどこ?」 


 気づくと、暗い裏道のような所に迷い込んでしまっていた。


(スラムか……)


 職が無くなり、金が無くなり、身寄りが無くなった浮浪者たちの最後の居場所。

 どこの街にもあって、どこの街でも見て見ぬふりをされてきた場所。


(面倒くさいな)


 スラムで女一人という事は、とても面倒くさい。

 私は普段面倒事を避けるために偽りの首飾りで黒鬼だということを隠しているが、ハンターギルドとここでは逆にそれが仇となる。

 力が無い者は奪われる弱肉強食の世界。それがスラムだ。


「──おい、待てよ壌ちゃん」


「こんな所に一人で来るなんて馬鹿だなァ……」


「女ぁ……久しぶりの女だぁ……!」


(……あー、ウザい)


 これが嫌なんだ。

 女だから、黒鬼だからって向けられる、不快な視線。

 そしてこういう輩は大体弱くて脆い。だから、ちゃんと力加減をしないと怪我をさせてしまう。


「……苛々してるんですよねぇ……今」



「あぁん? 俺たちに掛かればそんなモンふっ飛ばして気持ちよくしてやるぜ?」



(あー、ダメだ。力加減が出来そうにない。逃げようかな)



 跳躍の為に屈んだ瞬間──


「ぐっ……!」


「なんだこれ……」


「く、くそぉ……!」





「え?」


 行く手を阻んでいた浮浪者たちが、急に倒れだした。

 苦しむように体を抑え、やがて動かなくなる。


(毒か!? いや、変な匂いはしない。これ一体──!?)



「いやー。こっちでも面倒くさいのに絡まれて、ヨミちゃんも大変ですねぇ」


 前方から誰かの声が聞こえる。


「!?」


 やがて、その姿が闇から現れる。


「何故こんな所に? 薬はちゃんと飲んでいますか? 魔道具の調子は? 最近起こった面白い事でも──ああいや、私の店で、ゆっくり話しますか?」


 黒い外套を深く被った小柄な人物が、手を降って現れた。


「あなたは──!」



  ◇  ◇  ◇  ◇



「こんな所で合えるなんて思ってませんでしたよ、商人さん!」


「私もですー。最近は集落の方に行けてなかったので心配でしたよ」


「私、旅に出たんです! だって、母さんが食事に媚薬を混ぜてくるんですもん!」


「あははー。まあお母さんなりに考えた結果なのでしょう。それで飛び出して来ちゃったんですか? 薬は?」


「そ、それは悪いと思ってますよ。薬は現地調合してます。商人さんが作り方を教えてくれたおかげです」


 スラムに程近い、小さな一軒のお店。

 そこに私は居た。


「ほうほう、参考までに見せてくれます?」


「これです。商人さんのよりは薄いですけど……」


「いやいや! 十分商品として売れますよ! ……まあ、表には出せませんが……ね」


 私が差し出した青い液体が入っている瓶を眺める、この人物。

 外套で素顔は見えず、声もどこかくぐもって男か女か分からない小柄な人物。

 知らない人間が見たら、どこからどう見ても不審者。

 しかし、私にとっては師匠に並ぶ恩人である。


「それで、今はハンターをやっているんですね」


 この人は商人さん。

 私は本当の名前も素顔も知らない。


 しかし、私に偽りの首飾りや精神安定薬をくれて、そのレシピも教えてくれた大恩人だ。

 度々黒鬼の集落にやってきては、私に色々な知識と道具をくれた。


「王都は来たということは、ダンジョンですか? 魔道具なら売りますよ?」


「いえ、ダンジョンに入る予定は無いんです」


「? まあ、鬼族は長寿ですからね。生き急がなくても時間はたっぷりあります。学園にでも入るんですか?」


(どうする。言うか?)


 この人は恩人だ。

 小さい頃からの知り合いで、変な格好をしてるけど信頼出来る。それに、この人ならもしかしたら──


「商人さん。私、人を探しているんです」



  ◇  ◇  ◇  ◇



 ──何故だ。



「魔力測定、C級」


「精霊適正、0」


「次は魔法実技です。一番得意な魔法を使ってください」


「はい!」


 何故なんだ。


「『炎をよ・我が意に従い・紅蓮の意思を以て・敵を焼き尽くせ!』」


 何故なんだぁぁぁぁああああ!!!!!




 私は王都にある王立フォリア学園の入学試験場に居た。


「次、No.601。ツクヨ」


「……はい」


(何で、こんな事に……)



プロローグや序盤の文の軽い修正を行いました。

話の流れは変わっていませんので読まなくても大丈夫です。

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