王都鬼襲 一
「──とは行ったものの。王都か……」
私が今居るこの国の名はアルセリア王国。
その首都である王都アリアまでは、調べた所によると馬車で5日はかかるそうだ。
私が気絶していた数時間の間にどうやってミアたちが王都に行ったのかは分からない。分からないが、王都に居るのは確かだ。
「5日……5日か」
遅い。私は今すぐにカグヤちゃんに会いたいんだ。そもそも5日なんて経ったらミアたちの匂いが確実に消えてしまう。そうなったら手がかりが無くなる。
「よし、走ろう」
馬車なんて鈍足な物に乗ってたらいつまで経っても着かない。
黒鬼が走れば、多分2日で着ける!
傷は治ってるし、荷物は最低限にして、王都まで全力疾走だ!
◇ ◇ ◇ ◇
「っはぁ……はぁ……はぁ……!」
やばい……もう走れない!
全力疾走で走り続けるなんて無理に決まってるだろう! 数十分前の私!
「せめて歩こう……くそ……」
身体強化を掛けて走ってたからかなり距離は稼げたと思うけど、その分疲労がヤバい。
「疲労回復の魔法が使えればいいのに……」
生憎私が使える回復魔法は傷を塞いだりする程度の簡単なものしかない。
「よし、そろそろ走ろう」
夕暮れの平原の中、私は王都へ向けて走り出した。
◇ ◇ ◇ ◇
「──朝、か」
朝特有の肌寒さと温かい日差し、そして鳥の鳴き声で目を覚ました。
「………………」
周囲には、血塗れになった狼や切り裂かれた鳥の亡骸が転がっている。
“最低限の荷物”の中にテントは無い。
故に私は平原のど真ん中で睡眠を取らざるお得なかった。
焚き火などをして体温を保っていたが、やはり魔物は襲ってきた。
それなら問題は無い。問題なのは私の体が想像以上に疲れていた事だ。
ミアの匂いを探す為に街中を探し回っていた事や襲撃を受けていた事により私の体は私が思うよりも疲労していた。
焚き火を作った頃にはもうヘトヘトで直ぐにでも寝てしまいたかった。
でも私は一人。誰かが番をしなくてはならない。
半分寝て半分起きているような状態での魔物との戦闘はかなり応えた。
「……行かないと」
持ってきた荷物は腰に下げるタイプのポーチ4つと背負うタイプのリュックが2つ。
疲労が抜けていない状態のまま、私は走り出した。
◇ ◇ ◇ ◇
「私王都って初めてなんだよねーっ!」「学校に入ったら絶対彼女を作るぞ! 巨乳の!」「この私を待たせるなんて、何様のつもりなの!?」「あー疲れた! 俺はギルドに行ったら速攻で寝るぞ……」
「貴族階級の方々はこちらです」「こちらはハンター専用になります」「一般階級はこっちだ!」
…………着いた。
(4日掛かってしまった……)
巨大な外壁の下には大きな門があり、開いた門の前にそれぞれの人間が自身の身分に相応しい列に並んでいた。
私はハンターだから、あっちか……。
ハンターの列は比較的人が少なかった。
一番並んでいるのは一般階級で、次に貴族階級だ。
(商人はどこから入るんだろ。……どうでもいいか)
「ハンター証の提示をお願いします」
「はい」
ハンター証とは、自分が何ランクのハンターだとかが書いてある板だ。
身分を証明したりできて便利らしい。私はあまりこれを使う機会が無いので実感は無い。ちなみにCランクハンターはシルバーのハンター証で、全体が銀色だ。割と格好いい。
「確認完了致しました。ようこそ! 王都アリアへ!」
私は巨大な門をくぐり抜け王都へ入る。
(……疲れた)
疲労で死にそうだ……まずは宿屋を探そう……。
王都の大通りは荒波のような数の人が居る。ミアの匂いは、数が多過ぎて嗅ぎ分けられない。
(くそ、どこも空いてない……)
見かけた宿屋の全てに入り空きを確認しているが、どこも満員だった。
今はちょっとした広場にある長椅子で休んでいるところだ。
「ヤバい……眠い……」
この3日、禄な睡眠を取れなかった。
そろそろ私、倒れるんじゃないか?
「──おい! 王城で勇者様のお披露目があるらしいぞ!」「ほんと!? 行かなくちゃ!」「どんな人なんだろうなぁ……」
「ん?」
ふと、そんな会話が聞こえてきた。
……勇者?
『おい! アンタがグズグズしてるから、“奇術師”が来ちまったじゃねえかよ!』
『勇者も来るっスよ〜』
ミアは勇者も来ると言っていた。
つまり、勇者はミア側の人間。
勇者……。なんとなく男のイメージがある。なら、部屋でした唯一の男の匂い……あの青髪の男が勇者なのか?
(……行ってみよう)
◇ ◇ ◇ ◇
王城と言っていたので、私は城に来ていた。
王都のどこからでも見える、それはもう大きいお城に。
どうやら今日は一般開放されているらしく、王城の近くは人でごった返している。
人の波に従って歩くと、パーティー会場のような所についた。
城に来てから兵士の姿が目に入っていたが、この会場では特に多い。
会場では飲み物と軽い食事が振る舞われていた。
「皆さん! 彼らが近年の獰猛化する魔物への対抗策として異世界から召喚された勇者様方です!」
会場のステージ上ではスーツを着た男が演説のようなものをしている。
ステージ周辺には兵士が沢山居て、一定以上は近づけなくなっている。
(結構良いタイミングだったかな)
今から勇者が登場するようだ。
どうやら勇者は複数人で、更に“異世界から召喚された”とか。
(私やその勇者たちからしたら、こっちが異世界なんだけどなあ)
私は会場の端の壁に寄りかかり、勇者が来るのを待つ。
「来た!」「おお、あれが!」「若くないか? まだ学園に入っている年齢な気がするぞ?」
ステージの袖から、勇者と思われる人物たちが現れた。
「──は?」
「多いなぁ、人」
「皆、私たちに期待しているのよ」
「すっご。この人たちアタシらを見るだけに集まってきたの? すっご」
「うぅ〜緊張するよ〜」
「……ダる」
勇者は5人だった。
その中に、青い髪の男は居ない。
それどころか、髪の色は殆どの勇者が“黒”だった。
黒髪に、どこかの制服を着た5人の勇者たちは──
「──日本人、だと……?」
完全に、確実に、どこからどう見ても、日本人だった。