鬼の休日 終
『みんな注目! 遂に“透視眼鏡”が完成したのよ! この眼鏡越しに女を見れば、それはもう凄い事になる事間違いなし!』
『あんたも女だろうが!』
『ほーん、面白そうだな。貸せ』
『もう、#$%のえっち。いつも見せて上げてるのにー』
『おお! 見える、見えるぞ! 5(&=君のDカップと≪∀>÷君のAカップの悲しい落差が見える!』
『……皆さん、真面目に──』
『いや、≪∀>÷の胸が小さいのは元からでしょう。じゃなくて、あんたも女なんだしあばばばばば!!!』
『──何か言いました?』
『何も言ってないですぅぅ!』
『∅>∀君も掛けてみるかい? 草食系脱却だ』
「──いや、遠慮しときますよ、÷_&さん」
◇ ◇ ◇ ◇
「っはぁ! はぁ、はぁ、はぁ……」
なん、だ? 今の夢……。
靄が掛かって、音も途切れ途切れだった。
でも何か、私にとって大切な思い出のような気がする。
「あれ、というかここ──」
どこだ?
見慣れない壁と匂いだ。そもそも私、なんでこんな所に──
「支部長! 彼女が目を覚ましました!」
新品の家具特有の輝きを放っていた扉か開かれ、タオルを持った女性が入ってきた。
女性は私の姿見ると、声を上げてどこかに行ってしまった。
(ん、どこかで嗅いだ事のある匂いだ……)
扉の方から、懐かしいような匂いが漂ってくる。
汗と血と、獣の匂い──
「──!!」
体の痛みを無視して立ち上がる。
私は何をしていた! カグヤはどうなった! 敵は!?
「目が覚めたようだね。さて、話をしようか」
「……誰だ」
扉から、先程の女性を連れて、50代くらいの男が入ってきた。
「君を襲った襲撃者の情報が知りたいんだが」
「……………………」
◇ ◇ ◇ ◇
「ッチ!」
『──現場に居たのは気絶した君が一人だけ。襲撃者や、君の連れの姿は目撃されていないよ』
(最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ!)
「師匠!」
別館の、私たちの部屋。
「──クソっ!」
誰も居ない!
◇ ◇ ◇ ◇
「ツクモさん居ますか!?」
本館、ツクモさんとカグヤちゃんの部屋。
……誰も、居ない。
「クソがっ!」
(何でだ何でだ何でだ! 何で誰も居ない! 師匠は何も言わずに居なくなるような人じゃない!
敵に負傷させられたカグヤちゃんをどこかで治療してるのか? いや、ならツクモさんを寄越すはず!)
嫌な予感が、する。
最悪の想像しか浮かばない。
アイツらはカグヤちゃんを狙ってた。今はこれしか分からない。
師匠は今日、人と会うって言ってた。
だからそれまでの間、私がカグヤちゃんと居た。
──これが敵の作戦なら?
既に師匠は倒されてて、カグヤちゃんもどこかに連れ去られた? ツクモさんも、目を付けられて──
「いや、まだだ」
黒い騎士に殺されそうになった時、誰かが私を助けてくれた。
私の前には、青い翼を持った獣人の女の子。
カグヤちゃんの前には、ピエロマスクを付けた女の子。
獣人の方は誰なのか検討も付かない。鳥系の獣人の知り合いなんて居ない。
でも、ピエロの方。
『──カグヤちゃんの保護成功っス。それと、負傷者一名。流石に二人は運べないっスね』
こう言ってた。
つまりピエロはカグヤちゃんをどこかへ運んだ。
それに、あの声。
「“覚えてる”──!」
温泉で後ろから私の胸を鷲掴みにしてきた金髪の女の子。
名前はミア。部屋の場所も覚えてる。
これは100%空耳なんかじゃない!
「……絶対に迎えに行くから」
◇ ◇ ◇ ◇
「……やっぱり、誰も居ないか」
ミアの部屋は、やはりもぬけの殻だった。
「まあいい。誰か居るなんて最初から思ってない」
ここに来たのは、別の目的の為だ。
「一、ニ、三、四……五、六」
(六人か)
この部屋には、六人分の匂いがある。
「私が会ってるのは、ミアとリーシャとマリー……と、青い髪の男。随分なハーレムだこと」
六人分の匂いの中で、男は一人だけ。後は全て女だ。
「──さあて、始めよう。黒鬼を舐めるなよ?」
◇ ◇ ◇ ◇
「──あれ? 君どこかで会った?」
「そうですね、一昨日に酔った貴女に絡まれました」
「え〜うっそごめん! あたし酔うと絡んじゃう癖あってさぁ〜」
「いえ、気にしてませんよ」
「そうなん? じゃあ──」
「貴様! リア様から手を離せ!」
「──なーんであたし、いきなり君に首締められてんのかなーって」
魔石城本館、受付前にて。
「──匂ったからです」
「襲撃者を囲め!」「「はっ!」」
(……三人か、邪魔だな)
護衛、なのだろう。
カグヤちゃんくらいの少女たちだ。
「あーお酒の匂いとかダメなタイプ? それでオコなの君?」
「そっちの匂いじゃないですよ。
この街で六人分の匂いがするのは、貴女だけだ」
「……まーたアイツらか」
「動くな!」「貴様は包囲されている!」「逃げられないぞ、襲撃者め!」
「それはこっちのセリフですね。
動くな。あなたたちの主の命は私が握っている。少しでも攻撃する素振りを見せた瞬間、このまま首を締めて殺す。あなたたちが私に何かをする前に、確実に」
「くっ!」「卑劣な!」「リア様!」
「あーそれで、君はあたしに何を求める?」
(あの時会った酔っ払いのお姉さん。この人から匂いがするのも、そこそこの地位にいるのも、驚いた)
「話が早い人は好きですよ。それじゃあ、ミア、リーシャ、マリー。この三人とその一味が今どこに居るか知ってますか?」
「知らん。──ぐっ!」
「……真面目に答えろ。機嫌が悪いんだ」
「──はっ! いや、知らんもんは知らんでしょ〜。ただ、アイツらの拠点は王都にあるよ」
「はいそうですか、とは言えないですね」
「そうは言ってもね〜」
(……まずい、これ以上はギルド関係者に顔を覚えられる)
「彼らの素性は?」
「ふふん、それはトップシークレッツなのだよ!
ただ、あたしも助かりたいし? ──“起動”!」
「!? 何を!」
彼女がそう叫んだ瞬間、彼女が首に下げてるネックレスに嵌っている石が光を放った。
(間に合わない! もう既に何かが発動している──!)
恐らくこの状況を打破出来る何か。
距離は0。確実に喰らう!
………………………………………………………………
『どうした、リアさん』
「あーレイ君?」
それは以外にも、攻撃や逃走の手段などではなく──
「今どこに居んの?」
──電話だった。
『ん? もう王都の家に帰ってきてるけど。今忙し──』
「はい。これでいい?」
「……………………はい」
「じゃ、手離してね。ほらほら、民間人は散った散った! もう終わりよ、ちゃんと温泉に入っていきなさいよー!」
「襲撃者を捕らえろ!」
「……はっ!」
まずい、予想外過ぎて意識が飛んでた!
いつの間にか女性も離してしまっている!
でもあの男の声は、ミアの部屋で聞いたものと同じだった。
つまり、場所は王都で間違いない! 居場所を掴めた!
(後は護衛を巻くだけ──!)
「双方注目!」
静止の声が掛かる。
私と、私を囲んでいた彼女の護衛。
何故かどちらも、素直に聞いて止まっていた。
「今のは、“本物の襲撃者”が襲ってきた時、君たちがちゃんとあたしを守れるかの訓練だったのよ!」
「「「なっ!」」」
護衛たちに同様が走る。
「……へ?」
勿論、私にも。
「結果から言えば駄目駄目ね〜。何あの対応、孤児院に逆戻りしたいの?」
「ま、待ってください!」「そ、それだけは!」「いやだいやだいやだぁぁ!」
「んじゃ、さっさと連携の見直しでもしてきなさい!」
「「「は、はい!」」」
護衛たちが散っていく。
「……なぜ?」
意味が分からない。なんであんな嘘を……
「あの子らは大切なの。君結構強いみたいだから。戦ったら傷つくかもしれないでしょ?
じゃ、また温泉に入りに来なさいよ〜」
…………そう言うと、彼女は行ってしまった。
「ああもう! グズグズしてる暇は無い!」
既にチェックアウトは済ませてある。
荷物は別の場所に置いてあるので、それを回収して速やかに王都へ向かう。
今は、それだけを考えろ。
「今行くよ、カグヤちゃん」
妹を返してもらうぞ。