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Unlocked Unreal

作者: 黒月緋純

※今やってる二つの、未来編(仮)として流してくださいw

 長い、一ヶ月だった。

 日本国首相・円条一磨にとって、途轍もなく長い一ヶ月になった。

 実に長い、長すぎた。みっともなくも、スーツを脱がずにソファーにひっくり返る程度には。


 連日にわたる諸隣国からの挑発行為。

 平和を求めながら、それを止める行動をしない、武装反対派の連日のデモ。

 不祥事を嗅ぎ付けては焚き付けるマスコミへの対応。

 様々な事に忙殺され、前首相がぶっ倒れたのが二年前。


 多分、気の休まる日など、1日としてないのだろうな。

 そう呟きながら、首相に就く事を内諾した日が懐かしい。

 政治家としては若すぎると言ってもいい年齢で首相に成ってしまったが――


「まあ、仕方ない、か」


 円条ーー面倒だな、此処からは、俺の主観で行こうか。


 数年前まで、俺は、自衛官だった。空自で空を飛んでいた。

 詳しく何処の駐屯地に居たとか、そう言う事は省く。

 だが。

 ある事件を切っ掛けとして、主にネット辺りのヒーローになってしまった。

 有り体に言えば、某国の飛行機を撃墜した訳だがーーまあ、詳細は追々。


 兎に角、状況が目まぐるしく動いた。気がついたら、政治の師匠ーー後の総理の秘書になり、その一年後には新人議員だ。意味が判らん? 当人もだ。


 でもってだ。前の総理がぶっ倒れた辺りで、とある論が立った。

「思い切って、若い、多少キツイ位はっきりと物を言える、果断な奴を総理にしてはどうだろうか」

 出所はどうもはっきりとはしない。某動画サイトの政治系の生放送とも、それに関して話してた某掲示板サイトとも言われているが――本当の真相は藪の中だ。


 で、俺は担ぎ出された。いや、寧ろ、小谷新之助という、大本命の若手への対抗みたいな形で引きずり出された、と言っても良いが――何の間違いか、最終局面で、相手が引いてしまった。


 とある、討論番組の収録の後のことだ。

「円条――俺は引くよ」

「小谷さん――あのですね」

「いや、何も言うな」

「――いや、あの――」

「俺では、あんな風にバッサリと切っては捨てられない――はは、政治の世界に浸かりすぎると、迂遠に成っていけないな」


 相手の論客のおばちゃんが、何時までも第二次の賠償責任について言って来たので、つい、

「そんな風に何時までも終わらないから、こちらも防備を整えなければいけないんですよ?」

「例えば、何かの拍子に仲が悪くなったお隣さんが、金属バットもってニヤニヤしてたら警戒するでしょう? それと同じですよ」

「家族を守るためには、セキュリティーを考えるでしょう? 国防は、守る対象が大きくなっただけの話です」

 ――そんな事を言った気がする。賠償責任が済んでるだろって話が、なんで帝国主義がどうのになるんだか――


「兎に角、俺は降りるよ。必要なら幾らでも使ってくれて構わない」

「――いいんですか? 秘書の人、俺は人使いが荒いって嘆いてますけど――」

「なに、意味と意義があるなら構わんさ」

 爽やか、眩しい、これは確かにおばちゃんたちには大人気だよな、この人。


 気が付けば総理になっていた。若すぎるとの声も上がったので、一旦解散総選挙したら、議席数が若干伸びてしまった。当てに何ねえな、テレビの世論調査も。


「――おい、起きろ」

「む――」

 いかん、寝ていたか。

 目の前の客人がクツクツと笑う。

「無防備だな、一国の宰相とあろう者が、番も付けずに」

「そういうお前さんこそ、一人でほっつき歩いてもいいのか?」

「俺を殺せる程の者なぞ、そう居ないな。『勇者』でも持ってくるか?」

 目の前に居る客人――目が覚めてきた。炯々と光る朱色の目は、実に楽しそうだ。

「こうなった世界でその使命の為に果たして何が出来るやら――いやいや、生まれてすら来れるか」

「――まあ、精々殺されずに居てくれや――国賓扱いで発表した以上、『魔王』でもお客様だからな」


 件のテロップから、一週間が経とうとしていたある日。

 俺は、車から出るに出られない状況に陥っていた。


 各地の視察に飛び回り、帰ってきたところへデモ隊とぶつかった。

「――何やってるんだか、『本社』は」

 隣でぼやくSPの笹谷さんが、青い顔をしている。心配せんでも、君の責任は問わんよ。

「やっぱりどっかからこっちの動きが漏れてると見るべきかな、これは」

「面目次第も無いです、総理」

「いや、笹谷さんは良くやってるから、気にしないで下さいよ」

 俺みたいな若造の、しかもド級の失言王にSPにつくとか、可哀想になるわ。

「――出るか、いっそ」

「え、ちょちょ、総理!?」

 言うが早いか、俺は車から降りた。


 一瞬、デモ隊も警備の人たちも、静まり返った。


「――通して頂ければありがたい。それとも、公務を妨害して、間接的に被災者達を殺すかね?」


 その声を皮切りに、再び怒号怒号怒号だ。

 「人殺しは総理を辞めろ」とかのプラカードも見える、うむむ、まだ誰も殺して無いんだがなぁ。

 そんな暢気な考えが頭をよぎりながらも、ジリジリと門の方に近付いていく。


「――奇っ怪な国だな。自分達を守ろうと必死な者に向かって、罵倒の言葉を浴びせるのか」


 怒号の中、不意に通った一声で、罵声は静まった。

 と、同時に――周囲が一遍にざわつきはじめた。

 その理由は、直ぐに分かった。


 デモ隊の人垣が、ジワジワと割れていく。

 その真ん中を傲然と歩いてくる影があった。

 まるで、何かの歌劇から抜け出したかのような、煌びやかな衣装。

 射抜くような視線は、赤であり、その肌はやや浅黒い。

 その顔は芸能人でも中々居なそうな整った顔立ち――

 そして、角。

 背には、翼。

 何よりも、その周囲に漂う――コスプレの類では有り得ない、その『圧』。

 御伽噺に、ファンタジー小説、ゲームやラノベ――それらで幾たびも語られた――

 いや、恐らくは、人類が無意識に想定するだろう、『魔王の形』が、そこを歩いていた。


 反戦デモ隊も、SPも。全員が全員硬直している。

 無理も無い。現実離れしたことが起こったこの一週間ではあるが――

 今目の前にいる、この『魔王』の存在感たるや――

「――貴殿がこの国の宰相――でよいかな?」

 ――俺に用かよ、参ったな、ハハハ。

「――宰相とは、古風な仰りようですが、確かにこの国は皇を頂いておりますので、合っていましょうね――日本国首相・円条一磨です」

 応答したのは、意地だった。若輩だろうが人間だろうが、一国の政治の矢面に立ってる意地。

「魔領ルグ・アルバ国、魔王アールヴァース=フィド=アザクと申す――この国の皇に会談を賜りたいのだが、可能であろうか?」

 ――何を言ってんだこいつ。

「――即日の回答は出来かねます。宿を取りますので、数日間回答をお待ちいただけますでしょうか?」

 そして、俺もナニ言ってんだ――

「相判った。よしなに頼む」


 以降は、蜂の巣を突付いたような有様だった。

 何故あの様な約束をしたのか、何か有ったらどうするのか、信に足る相手なのか、人間の近隣諸国を無視していいのか。矢継ぎ早に国会内で浴びせられた質問に、円条はただ一言で答えた。

「礼節を守って会談を申し込みに来た相手を、しかも文化も何もかも違うなりに最大限の礼節を通してきた相手の王族に、出来かねる、帰れと言うのは、余りに無礼でしょう」

 近隣国からは遺憾であるとか色々な言葉が飛び交ったが――いっそ平和な連中だとすら思う。

 情報によれば、ロシアはシベリア方面に現出した現象に観測隊を送ったが、一兵残らず未帰還。

 アメリカは――情報統制しているのか、不気味なぐらい静かだが、SNSの類を見る限り、平穏無事とは行かない模様だ。

 中東には得体の知れない一群が現出、現地の武装勢力が突っ掛かったらしいが――戦闘域と思われる場所には、突っ掛かっていった連中の残骸が半径100メートルほどに転がされていたと言う。おお怖い。世界は正しく、混沌の坩堝に落ちた。


 ――落ちたんだが、なあ――


 転移してきた――或いははなから並列して存在していた世界が、一つに縒り合わさり――何の因果か日本は魔領と呼ばれる魔族の支配域のド真ん中に。空に竜飛び、地には亜人たち。正に魔界国家日本だ。それ故、俺は国会を緊急で中断し、各地に素っ飛びまくった。

 しかし、大半の人間はパニックを起さないどころか、ざらっと馴染んだ。

 まあ、割りと良識的だからな、転移してきた魔族。

 閣僚の一人なんかは、

「田舎のおばあちゃんが、ミノタウロスと並んで縁側でお茶啜ってて、なんか涙が出ました――『畑仕事手伝ってくれとるんだよ〜』とか言ってて……」

 とか言ってたし。

 もっと凄いのは――まあ、有体に言えばオタク連中か。


『【ガイ】いきなりドアドンされて、出たら鬼っ子が立ってたんだが【ジン】』

 なんか大層カッカしておいでです。

 >オッパイうp

 >オッパイうp

 やめて、殴り殺されそう(リアルに

 訛りが強くてナニ言ってるかわかんないんだよ、翻訳してくれ。

 >どっち方面?

 多分東北かな? ダーツかなんかで聞いた事ある

 >文面に起せ、解読班探してくる


『情報求む、猫娘のはぐれっ子拾っとる、オカンら知らん?』

 3歳だとよ、うあうあ言ってて分からんがはぐれたぽい

 >通報した

 >通報した

 おまえらwww困ってるんだよ、助けてよwww

 >リア充死すべし慈悲は無い。とりあえず、猫のダメそうな物は食わすな

 >写真上げろ、そんでみんなで『お母さんを探しています』で貼ろうず

 >先ず警察に。いや、猫の人だと交番には聞かないかもだが、

  親切な人が案内してるかも知れん


『こんにゃくに襲われた』

 台所で跳ねてる。どうしよう。

 >魔領人だが、それは多分コンニャクじゃなくキューブゼリーだ。

  捕まえてお湯掛けろ。

 >もう弐ちゃんこなしてる有能な魔領人が居る件

 お湯で大丈夫なの? 爆発しない?

 >魔素が抜ければただのゼラチン質になるはず。

  お湯でもいいし冷凍でもいいが、とにかく相手の細胞壁を壊すんだ。

 >手馴れてるwww本物の方降臨www


 こんなのがまあ、パカパカとあちこちに乱立していた。

 中には『ハーピー姉ちゃんと歌ってみた』なんて動画も上がってたな。魅了の唄だから少し不味いって聴かされて、うpした当人に消してもらったが――もまいら、順応性たけえな。

 まあ、魔王アールから人間は食わんと聞いて、さっそく緊急会見を開いたから、その甲斐もあったかも知れない。


「魔族は人なぞ喰わん。一部の種は吸血も嗜むが、襲い掛かって貪るのは気品の無い行為として同族から蔑まれる。気位が基本的に高いからな。獣の様な行為は嫌われるのだ」

「へえ。そうなんですね、血以外吸えないのかと」

「偏見だな。パスタだろうが何だろうが食うぞ? いや、寧ろ貴族が多い分、贅沢者が多いかも知れんな。ニンニクを嫌うとか言うのは、基本的に感覚が鋭敏だからだろう」

 軽い匂いも刺激臭になり得る、と戸郡トゴオリ書記官は書き込む。

「というより、吸血と授血で相手を眷族とするのは、余程の相手か余程の事情がなければ、な」

「なんです? 言葉を濁されますね?」

「くく、はっきり言おうか? あの連中の審美から言えば、ホイホイと眷属を増やすのは、『獣姦』に近しい行為らしいぞ」

「じゅ――」

 おい、困った顔でこっち見んな。そのまま書けばいいだろ。


 そんなこんなで、魔王アールの協力もあり、日本は一躍、『一番魔族に詳しい国』に――いや、そもそもが詳しい人も多いから、躍り出ては居ないか。うん。

 問題は山積してるが――種族違うくせに、こんなあっさりと馴染めるとか、日本人てやっぱり特殊なのかもしれないな。外人板で「日本はやっぱり日本だったぜバーローwww」とか言われるのも分からんでもない。


「気象庁が頭抱えてたな――瘴気雲とか意味分からんと」

「それを言うならこちらもだがな。抱えの星占が喚いとったわ」

 知らんがな、星占いの事まで。


 世界が混乱の渦の中。

 そうして一つの歴史が始まる。

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