一話
千古に戦あり。
百年におよぶ国々の騒乱に民は飢え、人々の心は渇いた。
十王戦争と呼ばれるこの戦いは、その名の通り十の王が覇権を争い行われた。
一人の神仙ヴァシシュタはこの戦乱を治めるよう神々より言い渡される。
下界より遠く離れた雲の上、高き山々が連なる霊峰。その一角に座し瞑想にふける青年がいた。彼の肩に小鳥が止まり何事かをさえずった。それを聞いた男は静かに目を開くと、霧たちこめる山々のさらに奥へと歩を進めた。
その先には水天宮と呼ばれる荘厳な建物が存在し、そこに座す者こそ世界を支配する神々の一柱ヴァルナであった。
「偉大なる父ヴァルナよ。火急のようがあると伺い参上しましたが」
「よく来たなヴァシシュタよ。お前も動物たちから聞いていよう、いまの下界では醜い争いが進み、十王達は我も我もと覇権を虎視眈々と望み、それぞれが疑心暗鬼にとりつかれ互いに牽制しあっておる。そして、そんな現状になによりも迷惑をこうむる民たちのことを」
「もちろん聞いております。しかし、私にはどうすることもできません。なぜなら我ら神仙は下界のことに手を出さぬのが神々の取決めではありませんか」
「うむ、ところがこの度、そのことで向こう側から破約があった。決して手を出さぬ下界のことに一人の神仙が派遣されたのだ。名をヴィシュヴァーミトラという。どうやら十王達をまとめ上げ統率し新たなる国家を築くつもりのようだ」
愚かなことをヴァシシュタは内心で独りごちた。かつて神々との間でも戦乱があった。それは下界の戦いとは比較にならないほどの大きく長く続けられ、神々が絶滅しかけるほど狂喜の闘争であった。
やがてわずかに生きながらえた神々によって緊張緩和デタントが行われ、緩やかにそして確実に世界は復興しつつあるというのに。
「なぜ、‘奴ら’は今になってそのようなことをするのでしょう?」
「わからぬ。だが、我らも手をこまねいて静観するつもりはない」
ヴァルナの声音には確固たる意志が含まれていた。
「では、我々も十王達の誰かを擁立するおつもりで」
「いいや。ヴィシュヴァーミトラが何を策していようと構わず叩き潰し、下界の騒乱たる元凶の十王そのすべてを罪とし断罪するのだ。それがお前に言い渡す密命となる」