007
「可愛いですね」
「風貌とはかけ離れてるだろ?」
言われてみると、確かにオリーブっていう感じではない。
体育会系の感じ。
がっしりした体格で、格闘技でもやってそう。
「構内で呼ばれると恥ずかしいものがあるんだけどな」
「みんなに愛されてる証拠じゃないですか?」
都雅が笑いながら言う。
「からかわれてるの間違いじゃないのか? まぁ…いいさ。ところで、この子は同級生?」
「先生…オレの学校男子校ですよ」
「あぁ…そうだった…うん」
照れくさそうに笑った仕草が、意外に可愛いんですけど!
じーっと見ていると、それに気づいたオリーブ先生がまた照れくさそうに笑った。
はぁ…可愛い。
「獅狩って、こういうの好み?」
「こらこら、こういうのってのは何だ」
オリーブ先生は苦笑しながら言うと、都雅の頭をポンと軽く叩いた。
「随分、仲が良いんですね」
ほのぼのとした気分でそう尋ねてみる。
「まぁ…長い付き合いだしね」
「長い?」
「都雅のお袋さんと知り合いなんだよ。兄弟子…いや姉弟子?…ううん、何ていうんだろうな」
「弟子?」
「空手だよ、空手の…つまりは先輩なんだ。都雅が生まれる前からね。初めて会ったのは、俺が五歳の時だったか…」
彼方を見ながらオリーブ先生は、ほぅ…とため息をついた。
「真鶴先輩は当時十九歳。そん時からの付き合いだ。うん。あの時はまさか結婚してたとは知らなかったなぁ」
「えっ、十九で結婚してたんですか?」
「いや、十八の時らしい。そうだよな? 都雅」
「そうみたいですね」
ひいふうみい…と年齢を数えてみる。
「という事は、現在三十四歳?……いや若いですけど…見た目はもっと若いですよね」
「あの頃から変わってないと言っても過言じゃないだろうな。うんうん。もしかすると、今の方が綺麗かもしれん」
「凄い…」
真鶴さんが空手をやっているところを想像しようとしてみたけど、難しかった。
「あれは…ある意味化け物に近い美しさだ」
「誰が化け物なのかな~?」
ドアが開いて、真鶴さんが入ってきた。
「はっ! いや、これは、その。ええと、ですね」
にこにこと微笑んでいる真鶴さんの前に、おろおろするオリーブ先生。
面白い。
っていうか、やっぱり可愛い。
「はい、コーヒー。伊織くんはお茶ね。はい、獅狩ちゃんは紅茶」
「有難う御座います」
トレーの上にはカップが二つに湯飲みが一つ。
「ありがたく頂きます」
最敬礼でもしそうな勢いで、オリーブ先生はそう言って湯飲みを取った。
「あ、私下へ降ります。勉強の邪魔しちゃ悪いので」
「あら? それじゃ、私と一緒に飲みましょう。伊織くん、よかったらお昼食べて行ってね」
返事を待たずに真鶴さんは部屋を出てしまう。
「こ、断れなくなってしまった…」
「まぁ、あれがマナちゃんの手だからね。何か用事でもあるんですか? 先生」
「いや、特にはないが毎回ごちそうになるのは、どうかと…」
「断っても、どうせ説得されるだけでしょう?」
「はぁ…そうなんだよなぁ…」
強そうなオリーブ先生も真鶴さんには弱いらしい。
それを知っている都雅は楽しいらしかった。
「それじゃ、私、下に行きますね」
「ああ、また後でね」
都雅に手を振って、部屋を出ると階段を下りる。
キッチンからは楽しそうな鼻歌が聞こえてきた。
勧められたカウンターの椅子に座る。
「真鶴さん」
「あら~、マナちゃんって呼んでってお願いしたわよ~。ね?」