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Offbeatscore  作者: 四方紅霞
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006

「近くに寄るなって言われなかった?」

「関わらない方が良いって言われた」

「だろうね。そう言われた理由は、分かるよね? 獅狩は見たはずだから」

 あの路地の事を言っているんだと分かった。

 思い出すと、ちょっと怖いけど私は頷いた。

「そばいると関係なくても巻き込まれるかもしれない。それでも、友達になりたいの?」

「脅さなくてもいいじゃない」

「でも、怪我するかもしれないよ」

 そう言って都雅は目を伏せた。

「言っておくけど、私に脅しは効かないから。こうと決めたら譲らないのが私の信条です」

「そう……分かった。でも、その性格は直した方がいいんじゃないかな」

「なんでよ…」

 都雅は不服そうな私の顔を見て笑う。

「そうしてきたオレが、そう思うから」

「でも、直らないでしょ」

「……まぁ…ね」

 二人で顔を見合わせて笑った。

「そういえば、さっき言ってた先生って家庭教師のことだよね」

「そうだけど…何か?」

「美人の先生?」

 都雅はきょとんとした顔をして見せた。

 あれれ。

 嘘だったのかな。

「都雅が、家庭教師の先生と付き合っているという話を聞いたのですよ?」

「……ああ。そうなんだ。……現在の家庭教師は男の人だよ」

「現在の…と言う事は、前は女の人だったんだ」

「うん」

「付き合ってたの?」

「……獅狩は、女子大生が中学生と付き合うと思うの?」

 まぁ…そう言われればそうかもしれないけど。

 普通に考えれば…ありえない…かな。

「付き合わない…よね。うーん」

「そうだよね」

「で」

「で?」

「付き合ってたの? 付き合ってなかったの? 答えてないよ」

「誤魔化されない…ね」

 どうやら煙に巻くつもりだったらしい。

「誤魔化されません」

「……獅狩には驚かされることが多いよ。……付き合ってた」

 半信半疑だったから、ちょっと驚いた。

「本当だったんだ…へぇ。凄いね都雅って」

「何で?」

「都雅から告白したの?」

「いや、向こうから」

 さらに驚いた。けど…まぁ、都雅だったら分かるような気がする。

 中学生には見えないもんね。

「付き合ってた…と言う過去形って事は」

「うん、別れたよ。オレの事が分からないからってね」

「はぁ…なるほど」

「納得しないでくれるかな」

 苦笑しながら、都雅は窓を開けた。

「他にご質問は? 獅狩」

「全部答えてくれるわけ?」

「もう、ここまで話したんだから、いいよ。ただし、それが終わったら今度はオレの質問に答えてもらうからね」

「いいけど。時間ある?」

「あ、そうか。もうすぐ来るね。…仕方ない、次回にしよう」

都雅はくすっと笑った。

 いたずらを思いついたようなそんな笑い方だった。

「何? 何で笑ったの?」

「面白いなと思って」

「何を?」

「今まで友達らしい友達もいなかったし、質問攻めしてくる人もいなかったからね。質問に答えるって意外に自分を見つめなおせたりするものなんだなって、ちょっと思ったんだよ」

 私は友達になると質問をやたらするせいで、面倒がられたりする。

「質問をたくさんするって…おかしいかなぁ?」

「人によるんじゃないかな。オレは構わないけど……付け加えておくとね、誤解する人もいるかもしれないよ」

 言葉尻に引っかかって、私は首を傾げた。

「誤解する人…? 何か誤解するようなこと…言ってる?」

「分からないなら良いよ。今はね」

「……何か思わせぶりで、嫌な感じ」

 私が頬を膨らませて怒ると、都雅は口元を綻ばせて笑った。

「中学生だろう、もう少し分からなくて良いよ」

「自分だって中学生のくせに…!」

 そうだね…と笑いながら都雅は呟いた。

「そもそも、気づくくらいならオレの部屋に来てないよね」

「ん? 何で?」

「下の階に母親がいるとはいえ、今はこの部屋に二人しかいないよ」

「うん、そうだね。…でもそれが何かあるの?」

 私の言葉に、都雅はふっと短く笑う。

「なによーぉ」

「ごめんごめん。でも獅狩って面白いね。わざとじゃないよね?」

「だから…何が?」

 都雅は何かを堪えるかのように一瞬動きを止めた後、いきなり笑い出した。それも大きな声で。

「そんなに大笑いしなくてもいいじゃない…」

 左手で額を押さえながら、笑い続けている。

 その時、トントンと軽くドアをノックする音が聞こえた。

「どうぞ…」

 笑いながら都雅がそう言うと、男の人が部屋に入ってきた。

「よう。楽しそうだな」

「こんにちは、先生。紹介します、友達の九網獅狩です」

 都雅はまだ笑いながらノートに私の名前を振り仮名付きで書くと、その男の人に見せた。

「獅狩、こちらは家庭教師の伊武先生。伊武伊織先生だよ」

「いぶ、いおり先生?」

「〝ぶ〟の方のイントネーションを上げてくれよ」

 そう言って笑った伊武先生は、都雅と同じくらいの背丈だった。うん、まぁでも。都雅が高すぎるわけだからね。

「先生のニックネームが最高に面白いんだ」

「ニックネーム?」

「あっ、こら」

「〝オリーブ〟って言うんだよ」

「オリーブ……?」

 伊武先生は、はぁぁっとため息をつく。

「イオリ・イブ。中学の英語の時間だったっけなぁ…。自分の自己紹介を英語で言いなさいって言われて、言ったら。そういうあだ名を付けられちゃったんだよ」

 イオリイブ。

 イ…オリイブ。

 イ…オリーブ。

 あぁ…なるほど。


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