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Offbeatscore  作者: 四方紅霞
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005

「あら、都雅。お友達が」

「え? あああ、あの。友達ってわけじゃないんです、お母さん」

「やだ~、マナちゃんって呼んでくれなきゃ嫌」

 こ、これが母親……。制服をきれば高校生ですって言っても通じるくらい若い。

「マナちゃん」

 そう呼んだのは息子である都雅本人だった。

 息子にまでそう呼ばせてるのね……。

「何かしら、都雅?」

「誰でも家にあげるのは止めて欲しいんだけれどね」

「あら、お友達じゃないの?」

「名前も知らないよ」

「…あら、そういえば名前を聞いていなかったわね。教えてくださる?」

 私の右手を両手で包んでそう尋ねてきた。瞳がきらきらしている。

「…わ、私の名前は…」

「名前は?」

「九網 獅狩です」

「くもう、しかる?」

「はい。九つの九に網でくもう。ライオンの獅子の獅と狩りをするの狩で獅狩といいます」

 この名前のせいで私は大変な苦労を強いられた。

 まず、名字。くもうと読まれることは少なく、〝くあみ〟とか〝きゅうあみ〟って読まれたりする。

 それから一番大変だったのは名前。

 しかると聞いた人はかならず「ひかる?」と聞き返してくるし、獅狩と言う字をみて、最初は首を捻る。それからしかるという振り仮名をみて、殆どの人は男の子だと間違えるのだ。

 これからの女の子は獅子を狩るくらいの勇気を持つ子でなければならない…なんていう父のわけの分からない理由でつけられたなまえだった。

 もっとも私はこの名前気にいっているんだけど、いちいち説明するのが面倒なのよね。

 両方の祖父母から猛反対にあったにもかかわらず、呆れた母親を前に書類を出してしまったらしい。 

 未だに親戚から獅狩って呼ばれることは無く、しーちゃんって呼ばれる事がほとんど。

 なので、二人の反応があまり良くないものでも、別に平気だと思っていた。

 本当にそう思っていた。 

 でも、二人の反応は私が想像していたものとは違っていた。

「獅狩…まぁ、可愛い名前」

「…は?」

「素敵な名前ねぇ…そう思わない? 都雅」

「そうだね」 

 八潮路 都雅はそう言って微笑んだ。

 二人の反応が理解できなくて私はぽかんと口を開けたまま目を瞬かせた。

 何か複雑な心境。

「か、からかってません?」

 思わず言うと、二人はそろって不思議そうな顔をする。

「何で?」

「え、だって。大抵の人は…」

「自分の名前、嫌いなのかな」

「そんなことないよっ。確かに面倒な名前だけど、私はとっても好きなんだから!」

「だったら。いいじゃない?」

 気が抜けたように頷くと、真鶴さん(さすがにマナちゃんって呼びづらい)が私の頭を優しく撫でてくれた。

「可愛いお友達ができたわねぇ、都雅」

「……ところで何をしに来たの?」

 真鶴さんの言葉には反応せずに、私に向かってそう言う。

「……よく、分からなかったんだけど…。どうやら友達になりたいみたいね」

 と他人事のように私は答えてしまった。

「そう。……分かった」

 ふぅとため息をついた後、私に向かって右手を差し出す。

「それじゃ、よろしく」

「あ、こちらこそ」

 握手を交わすと、今度は真鶴さんが握手を求めてきた。

「はい、握手。うふふ、楽しい」

 何だか子供みたいな人。息子よりはしゃいでいるけど、でも、憎めない感じだった。

 真鶴さんに、私は「都雅」と、都雅は「獅狩」と呼ぶように決められてしまった。

 まぁ、都雅くんって感じでもないかも。

 獅狩ってきちんと呼ばれるのは物凄く久しぶりだったので、くすぐったい気分だった。

「獅狩」

「何?」

「獅狩の家は近くなのかな」

「うん、最近引っ越してきたんだ」

「ああ、そうか。だからオレを見ても逃げなかったんだね」

「知ってたら、逃げるの?」

 私の質問に答えずに都雅はそばにいる真鶴さんの方を見た。

「先生が来たら二階に上がってもらって。部屋にいるから」

「分かったわ。あら、でも今日は遅いのね?」

「三十分遅れるって言ってたよ。それじゃ上に行こうか」

 最初の言葉は真鶴さんに、最後の言葉は私に向かって言って都雅は階段を上っていく。

 私も都雅の後を付いて階段を上った。

 二階に部屋は三つあるみたいで突き当たりのドアを開けたので、そこが都雅の部屋らしい。中へ入ると、何だかすっきりとした部屋だった。

「どうぞ」

 勧められたのは勉強机付属の椅子。

 私がそこに座ると、都雅はベッドに腰掛けた。

「さて、さっきの質問に答えるけど」

「知ってたら逃げるっていうのね」

「うん。ところで、ここの場所は誰から聞いたの?」

「場所を聞いたわけじゃないんだ。近くって聞いたから探しただけ。見つかるとはあんまり思ってなかったんだけどね」

「そう…。他に色々聞いたでしょ?」

「うん」

 素直に頷くと、都雅は苦笑した。


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