004
もうすぐ新学期がはじまるけど、私は公立の中学校(共学)だし、彼は私立の男子校。会うことも無い。
これは、家を探すしかない。
時計を見ると、九時四十五分。
「少し探してみるかな…」
どうしてか分からないけど、もう一度会いたかった。会って話しがしたかった。
この近く…と言っても漠然としていて分からないけど、誰かに会ったら聞いてみよう。
そう思いながら、私は歩き始めた。
でも、そう言うときに限って誰にも会わない…。
むぅ…。
なんてこと。
家を通り過ぎる時に必ず表札を見たけれど、やしおじって言う名前はなかった。
「あ、そういえは、やしおじってどういう漢字なのか聞かなかった……」
がっかりして帰ろうとした時、何軒か先の大きな家が目に止まった。
「……まさか…ね」
その家の前まで歩いて行くと通り過ぎる時に、表札を見る。表札には『八潮路 右文』とかかれてあった。
「八潮路……はちしおみち……じゃないよね。って……これがやしおじ?」
立ち止まって家を見上げてしまった。
かなり大きな家だった。庭も広いし、そもそも家が二つある。
一軒家と平屋が廊下のようなもので繋がっている感じ。もしかしてああいうのが離れっていうのかしら。
観察をしていたところで、突然後ろから声を掛けられた。
「何か御用ですか?」
「はっ!? えっ、あっ…その…」
振り返ると綺麗な女の人が立っていた。
美しいって看板を背負ってるんじゃないかってくらい綺麗な人。
「あ、あの…この家の方ですか?」
「ええ。そうです」
にこっと微笑まれると、たじろいじゃう。
「あ、あの。とがくんのご家族の方でしょうか?」
「あら、都雅のお友達?」
その女性はそう言ってうふふと可愛らしく笑った。
「どうぞお入りになって」
「え、でも…」
「女の子のお客様なんて久しぶりなの。とってもうれしいわ」
「はぁ…でも、お友達と言われるほどじゃないですし…」
「いいのいいの」
再びにこっと笑って、私の手を引く。
結局八潮路宅にあがる事になってしまった。
入った玄関はやたらと広くて、段差があまりなかった。靴は一つも出ていなくてすっきりしている。
驚いた事に向かい側に大きな龍の絵が飾ってあった。
そういえば父親が画家だっていってたっけ。
うぅ…夜中には見たくない迫力。
リビングに行く間の廊下にも絵が飾られている。山の絵と鳥の絵。どちらも名前が分からないし、素晴らしいのかどうかも私には分からない。
ただ、リビングに入って目に入ってきた絵には驚かされた。
等身大に近い大きさの和服の見返り美人絵だった。
「凄い……」
言葉にできるのはそれだけ。それ以上言葉がでなかったし、思いつかなかった。
ただ着物を着て振り返っている女性。
その絵からモデルはさっきの女の人だと分かったけれど、その美しさをそのまま絵に閉じ込めたよう。
写真みたいな絵ってわけじゃなく、美しさを描いた絵だった。
「この絵…」
振り返って言うと、にっこりと笑ったその人は、小さく頷いた。
「ええ、私がモデルです。そういえばまだ名前を言っていませんでしたね? 私は八潮路 真鶴。都雅の母親です。マナちゃんって呼んでね!」
「母親って……お、おっ、お母さん!?」
「はーい。そうです。ところで、あなたの御名前は?」
「あ、私は…」
名前を言おうとしたとき、階段を下りてくる足音が聞こえた。
「何の騒ぎ?……」
見間違いようも無いミルクティー色の髪。八潮路 都雅だった。