003
あれから何度かあの公園に行ってみたけれど、一度も彼を見たことはなかった。
男って呼んでたけど、制服から判断して中学生らしかったし名前も知らないから『彼』と呼ぶけれど。
中学生!
見た感じ高校生って言ってもおかしくないくらい大人っぽかった。
三軒先の家の息子さん(山崎 賢吾っていうんだって)が同じ制服を着ていたので聞いてみたら、有名な男子校の中等部の制服だって教えてくれた。
左の襟に学年のバッチをつけるらしいけど、彼のバッチは見なかった。
何年生かはわからないけど、もしかしてあの髪の色を言えば分かるかも!
と思って早速聞いてみると、案の定教えてくれる。
「ああ……ミルクティーの髪って言ったら一人しかいないからね。彼は八潮路 都雅っていうんだ。この近くに住んでるよ」
「そうなんですか?」
山崎さんは私より一つ年上。つまり中学三年生なので、一応敬語を使う。
「知らない? 八潮路って名字」
「やしおじ…ですか? うーん…」
「知らないか…まぁいいけど。結構有名な画家なんだよ。で、彼はその人の息子」
「へぇ…」
「息子って言っても孫みたいな年齢差らしいけどね」
「…詳しいですね」
まぁねぇ…と言って苦笑する。山崎さんの母親が噂好きらしい。
「近所に暮らしてれば、いやでも耳に入ってくるし。確か…君は今月から中二だったよね?」
「ええ」
「あいつも同い年だよ」
「同い年!?」
「そう、中等部二年だ」
絶対年上だと思っていたので、驚いて口をぽかんと開けてしまった。
「ちょっとした逸話があってね。小等部四年の時に高等部一年のテストを解いて採点してみたところ七十点だったそうだ」
「ええ!? 小等部四年…というと十歳でですよね」
「そうだね」
信じられない。
「でも、そのテストどうやって手に入れたんですか?」
「ああ、あいつの家庭教師が姉妹のテストをかりて同じ問題用紙を作ったんだって。そう言えば家庭教師っていえばさ」
「はい?」
「何でもその家庭教師とあいつ、付き合ってるらしいっていう噂があるんだよね」
「……へぇ……」
「その家庭教師………二十三歳だぜ?」
「……はぁ?」
「ちょっと羨ましいよなぁ」
なんて言うので、じっとみつめたら慌てたように咳をして誤魔化した。
「と、とにかく。何で興味を持ったかは知らないけど、近づかないことをお薦めするね」
「どうしてですか?」
「見たんなら分かっていると思うけど、ああいう風体だし、それに喧嘩が絶えない奴だしね。かかわるとろくな事ないよ」
そう言いながら腕時計を見る。
「そろそろ行かないと部活に遅れるから」
「あ、もう一つだけいいですか?」
「何?」
「ああいう風になったのは何時頃からですか?」
「……さぁ…覚えて無いけど…小等部の初めからだったような気がするけどね。それじゃ」
「あ、ありがとうございました」
軽く手を上げて山崎さんは小走りに去っていった。