001
他サイトからの転載です。
初めて彼を見たのは、確かまだ雪の残る三月だった。
印象的だったのは目。
次に目に入ったのはその背丈とミルクティーのような色の髪だった。
私より随分と背が高かったうえに、丁度通り過ぎようとした路地から出てきたところで目が合ってしまった。
見上げてしまったために目を合わせてしまったと言う方が正確かもしれない。
ぞくっと寒気が走る鋭い目つきだった。
ぶつかりそうになったことに何も反応はなく、まるで私なんかいないかのように歩き去っていく。
「……な、何あの人」
立ち去る背中を眺めながら立ち尽くしていると、彼が出てきた路地からうめき声が聞こえた。
それも複数の声。
私は恐る恐る路地へと足を踏み入れた。
両親からは変なところで勇気を使うなって言われてたりするんだけれど。人助けならばいいよね…なんて考えた。
何となく足音を立てるのが躊躇われて、ゆっくりと抜き足差し足で奥へと進んでいくと、地面に蹲っている黒い影を見つけた。
数えると、五人。一人だけ壁にもたれかかる様にして座っている以外は、苦しそうに体を丸めるようにして呻いている。
「あの~大丈夫ですか?」
他にかける言葉を見つけられなかったのと少々怖かったのもあって、すり足で近付きつつそう言ってみた。
返事はなし。
その時の私が出来る事と言えば、救急車を呼ぶことと警察を呼ぶことぐらい。
なので、一応声をかけた。
「救急車と警察呼びましょうか?」
壁にもたれかかっていた人が、よろよろとしながら…それでも慌てたように立ち上がった。
「大丈夫ですか?」
「い……い」
「え?」
「いら…ない」
「……え、でも」
その人は他の倒れて蹲っている人を無理やり起こそうとしていた。
「ちょっと、無茶ですよ」
暗がりに目がなれてくると全員が同じ制服を着ているのに気づいた。どこの制服かはこの時は分からなかったけれど。
「やっぱり呼んできますよ、近くに交番ありましたよね?」
返事を待たずに路地を出ると、交番へと走る。
近くにあるなら、電話するより早いはず。
知らせに走って、おまわりさんを連れて路地に戻ってきた時には、そこには誰もいなかった。
「本当にいたの?」
なんてこっちが疑われる始末。
何で逃げるのよ?
唖然としている私の肩を軽く叩いて、おまわりさんは苦笑しながら「それじゃぁね」と言って交番へと戻っていってしまう。
そりゃね。
訴える人がいないんじゃ仕方ないけど。
本当にいたんだってばー!
さっきぶつかりそうになった人の顔、覚えてるのに!
と。
まさか街中で叫ぶわけにもいかず。
私は釈然としないまま、その場を離れた。