着信履歴
私が目覚めた、そのとき。
夢の中で泣いていたのだろうか。
まどろみながら、 頬が微かに濡れているのを感じていた。
まだ、 乾いていないそれは、 生温かった。
「今、 何時なのだろう」
ぼんやりと薄暗い天井を眺め、 朝が来るのを待つ。
体が思うように動かない。
ギシギシと軋む音さえ聞こえてきそうだ。
頭が麻痺したように、 もやもやしている。
まだ覚めていない頭で、 アイツの事を考えた。
携帯のバイブが、 机を叩く。
隣の部屋の机の上で、 奇妙な生き物のように小刻みに震えているのが見えた。
いつもなら速効で見るメールも、 今朝は何だか見に行くのさえ億劫だ。
送信者は見当がついている。
多分、 アイツからだ。
「絶対に取ってやらない」
そう心に決めた。
何度も何度も、 小刻みに震えながら、 携帯電話が机の上を滑っていく。
「朝っぱらから、 何考えてんの」
憤慨しながらも、 手に取ることはしなかった。
ゴトリ。
大きな音を立て、 仕舞には、 机の上から落下した。
「あ〜ぁ」
ため息とも、 諦めともつかぬ声が口もとから零れる。
やっと重い腰を上げて、 携帯を取りに行く。
ベッドの軋む音が、 やけに大きく響いた。
その時、 けたたましく着信音が鳴った。
ビクリと肩を震わせ、 携帯を取り上げようと腰を屈めた時、 着信音はピタリと止まった。
静まり返った部屋で、 一人、 やるせない気持ちだけが漂っていた。
空が白々と明けてきた。
暗黒の空から、 次第に朱鷺色へと変わる空を、 ベランダの冷たい硝子に顔を押しつけながら眺めていた。
そして、 少し高くなった空を眺めながら、 朝の冷たい空気を思いっ切り吸い込んだ。
部屋に戻り、 徐にテレビのスイッチを入れた。
毎日、 たわいのない出来事が過ぎていく。
朝のニュースはそんな出来事の羅列でしかない。
興味のない事は、 ただの雑音でしなかった。
すぐさま、 テレビのスイッチを消す。
スーッと消える画面の真ん中に、 見覚えのある名前が見えた。
一瞬だった。
「何、 同姓同名?笑えるぅ〜。 何やらかしたの?」
沈んでいた顔に笑顔が少し戻った。
もう一度テレビをつけてみる。
よく見ると、 現場の地図と名前だけの、 簡単なニュースだった。
「朝から他人の死亡事故のニュースなんか、 見たくないっつーの」
急に、 手に持っていた携帯が気になった。
着信履歴には、 アイツの名前が刻まれている。
時間は午前4時58分。
「全く、 迷惑な奴」
くすりと微笑みながら、テレビの画面を見る。
同じ時刻を刻んでいた。