変なの *2*
「どこで食べる?」
どこでも……と言葉を濁す彼はきっとさっきまでの自分に違和感を覚えているのだろう。好きなことをしゃべり始めたら止まらない、そういうタイプなんだろうな。
「あ、倉本くん、どの遊具が好き?」
少し考えてからぼそりと答える。
「滑り台、かな」
「滑り台じゃ食べられないよ」
マフラーに顔をうずめながら、そう言って笑う。
「じゃあ、広瀬さんは?」
「私は……ぶらんこかな」
小さい頃、お父さんに無理を言って庭にぶらんこを作ってもらったくらい、ぶらんこがすきだった。
「じゃあ、ぶらんこで食べようか」
腰かけて、腕を鎖に絡ませる。鎖部分なんて冷たくて、触れたものじゃない。
「なんで、ぶらんこが好きなの?」
「ぶらんこはずっと続くでしょ。漕げば漕ぐだけ続くから」
「なんか、素敵だね」
そう言った倉本くんは優しくほほ笑んでいた。なんか、今日はいろんな倉本くんが見られるな。
久しぶりのあんまんが楽しみで、思い切ってぱくつくとあまりの熱さに口から放り出したくなる。絶対に口の中やけどしちゃったよ、これ。
「あっつ……」
「猫舌?」
倉本くんは平然とあんまんを口にして、少しからかうように笑った。少し悔しくて、唇をとがらせながらも、へぇ、こんな風にも笑うんだ、なんて思ったり。
「いつもするの、募金」
確か、介助犬の募金だった。動物が好きなのはだいぶ分かったけど、募金までしている人はあまり見かけない。
「あっ……」
見てたの、と顔をしかめる。そんなにまずいことしちゃったのかな、とちょっと心配になっていると倉本くんは私の顔を見て、慌てたように否定する。
「違うんだ、その……嬉しいことがあった日にするだけで、毎日じゃ……」
そりゃそうだよね。毎日募金できるなんてどんなお坊ちゃまなんだと思ったよ、一瞬。普通の高校生はそんなに裕福じゃない。
「嬉しいこと?」
「絶対、笑わない?」
笑わないよ、と約束すると、彼は少しもじもじとしながら口を開いた。
「あの、その――広瀬さんと話せた、から……」
ぷしゅぅ、と音が聞こえてくるようだ。頬が一刷け朱に染まっていて、私まで恥ずかしくなってくる。
ああ、まっすぐだ。この人の言葉は。
隣で揺れていたぶらんこが、止まった。それにつられるように私のぶらんこも止まる。
「あのさ……」
倉本くんが小さな声で、でもいつもよりもしっかりした声でこちらを窺うような声色で言う。
「手、繋いでもいい、かな」
驚いて倉本くんを見るけど、彼は少し離れたベンチの下でうずくまったままでいるさっきの子猫に目をやるばかりで、決して私を見ようとしない。
なに、からかってるの。そう言おうと口を開けかけた時、倉本くんの頬がさっきよりさらに紅くなっていることに気付く。
そうだよね、この人がからかうわけないよね。
「そういうことは、聞かないでさらっとやってよ」
勢いよくふたつのぶらんこの間に手を出すと、微かにぶらんこが揺れる。ふいに起こった風が顔にかかった髪をさらりとはねのける。
「ごめん」
そう謝った倉本くんの顔はなんだかよく分からない緩んだ表情をしていた。
「変なの」
くすっと笑う二人の手が繋がって、ぶらんこが揺れた。