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オイラ

 一部修正しようとしたら、2話の半分をが反映されてない状態で確定を押してしまう大事故の為、再投稿となりました。


 もう3DSのブラウザで修正とかしません!

 濃藍に薄く伸びる空の下、コブ池から村へと近づく度に赤橙の灯火が暖かく体を迎えてくれる。ひよひよに跨りトテテっと村の門をくぐり抜けて民宿へ向かう。



 辺りからは夕餉の香り、帰り途中なのだろう、急ぎ足の村人がチラホラ。



 檜皮色(ひわだいろ)した木造建築の民宿、煙突からはポクポクと棚引く。民宿の裏手へと回り、ひよひよから降りる。両脇に固定してある鞄を外し、そこからブランケットをひよひよの背中にかけてあげる。



 「夜は少し冷えるからね。後でお水貰ったらごはんだから待っててね」



 「きゅーぅ」



 多分早く戻って来いよってニュアンスな返事だと思う。ひよひよと私は小さい頃から友達であり家族だけど、やはりそこは走竜と人間。会話はできないけど心で、気持ちで通じ合ってると信じてる。



 産まれたばかりの頃は、きゅぃーきゅぃー言いながらひよひよと足音立てて私の後ろをついてきたけど、今じゃきゅるるって唸るし足音もトテテだ。顔も可愛いから成長してイカつい。まぁ笑顔は昔のままだけど。



 荷物を持って表に戻ると、木戸をギィィっと開けお婆さんが出迎えてくれた。



 「おやぁー、おかえりぃー。コケ池でゆっーくりしてたみたいだからぁ、いいもの

見れたみたいだねぇー」



 「はい、とてもとても素敵な体験できました」



 「そぉーかい。そぉーかい」



 花柄エプロンの似合うお婆さんが乙女のようにニコリと微笑む。



 「それじゃぁー、荷物を部屋までぇ、運ぼうかねぇー」



 「この鞄とっても重いんです。お婆さんに持たせるなんてダメ、絶対」



 「おやおやぁー、そぅかい。部屋はそこの階段あがってぇ、すぐあるからねぇー。それとお風呂はないからぁー、代わりにお湯ちゃんすぐに持って来てあげるからねぇー」



 奥でコトコトとお湯を沸かすポットの音が聞こえる。きっと準備をしていてくれたのだろう。



 「はい、ありがとうございます。出来ればお茶が飲みたいので小さいポットも」



 「へぇーへぇ、体拭くときと一緒でいいかぃ?」



 お婆さんが奥へと戻るので、トツコトと階段を上り扉を開けた。



 檜の合板で統一された壁と床、淡紅藤のシーツがメイキングされた小さいベッドと同じ色のカーテン、すぅー、と空気を吸うとやわらかくて優しい、女性的で優雅な、それもシルクのような肌触りの良いさらさらとした香り。凄く上質な檜のようだ。



 何より1番目を引いたのがロッキングチェア。強化プラスチックで形成された真っ赤な貝殻、チューリップの花びらのような丸みの下は、通称エッフェルと呼ばれる金属の足があり、木製のロッキングアーチへ繋がっている。



 「滅びの時計時代にあった高価な椅子があるだなんて!」



 思わず荷物を置いて椅子へ座る。シェルは硬いのだけれども、お尻がすっぽりハマって背もたれの角度も嫌味がない。何時間座っても疲れなさそうな――



 ぎたんばこん、と椅子を漕いで遊んでいたら、トツコツと階段を上る音がする。



 「お湯ちゃんとポット、扉の前に置いてくからねぇー。お腹すいたらぁ下に降りてきぃー。爺さんの店教えるからねぇー」



 「あっ、はい。ありがとうごじゃいま……あいたっ」



 ぎたんばこん、と遊んでいるのがバレたら恥ずかしいので、急いで立ち上がったのにロッキングアーチへ躓きかける。余計恥ずかしい……



 「おやおやぁ、案外お転婆さんなんだねぇー。ゆっくりしぃー」



 またトツコツと音をたて、お婆さんが階段を降りていく。



 ポットとお湯の入ったタライを部屋の中へいれ、鞄から5つの小さな遮光瓶を取り出す。瓶にはローズオットー・スウィートオレンジ・イランイラン・ジュニパーベリー・シダーウッドと、ラベルが貼ってあり、各々がエッセンシャルオイル、わかりやすく言うとアロマオイルなんです。



 タライの中にスウィートオレンジを2滴、爽やかさと共に小春日和の太陽のような温かい

香りが広がる。



 次にイランイランを1滴、女王の中の女王と例えられる南国のエキゾチックな花の香りが混ざる。



 最後に値段が高いのでロースオットーをちょっとだけ垂らし、華やかなバラのうっとりとする甘い香りがアクセントに追加する。



 甘く気高くそして温かみのある香りがするタライのお湯に、タオルを潜らせて絞る。服を脱ぎ体の中心から上へ、髪を拭き、最後に手足の汚れを取った。



 ローズオットーは高いし、スウィートオレンジは光毒性(ひかりどくせい)が少しあるので昼間使えないけど、私のお気に入りブレンド。光毒性のあるオイル使って日光浴びると、お肌焼けちゃうので注意なんです。



 服を着替えたら椅子に座って、コケ池の写真入りで途中まで記事を書こう。鼻歌交じりで椅子をズズっとベット脇のサイドボードまで移動させ、着替えとコップを2つ取り出して、コップはサイドボードへ、着替えを早く終わらせた。



 2つのコップにポットのお湯を入れてっと、蒸気を愉しむ方法で、1つ目のコップにジンの甘く爽やかな、それでいてウッディーなジュニパーベリーと、これまたウッディーで甘く、バルサム調が融合したシダーウッドを各1滴。両方ともヒノキ科でお部屋の香りと相性がいいんです。

 


 もう1つのコップが温まったので、お湯を捨てて入れなおし、鞄からマテ茶のテトラパックを沈ませる。



 そう言えばこの鼻歌なんだっけ?  少し考えたら小さい頃、母がよく聞かせてくれた歌だったのを思い出した。



 ポケットから透明なセルフレーム調の眼鏡を取り出し顔にかけ、カメラのメモリーをサイドテンプルのスロットへ差し込む。椅子に座ってぎたんばこん、としながら眼鏡の電源を入れると、目の前はスクリーンが広がる。



 「さて、仕事。仕事っと」



 スクリーンを直接指でタッチしたりスライドしながら、鼻歌交じりで作業する――





 「ぎゅるるぅ」



 外からひよひよの催促が聞こえて作業が止まる。



 「あ、いけない。ひよひよのごはん忘れてた。あと、私もだ」



 スクリーンの保存ボタンを急いでタッチし、鞄から乾燥携帯餌(カリカリ)とお詫びのジャーキーを取り出して扉をお尻でバタンと閉め、階段を駆け下りた。



 「おゃ、まぁー。駆け下りる程お腹すいたのかいー。待ってねぇー、いま爺さんがやってるお店教えるからぁねぇー」



 「あ、いえ。ひよひよの…って走竜にごはんあげるの遅れて催促されちゃって」



 「ぎゅるるうぅ。ぐりゅぎゅうぅ」



 「ほら、あれです。慌しくてすいません、お皿に水いただけませんか?」



 「ひよひよちゃんねぇー、可愛らしい名前だことぉ。ちぃーと待っててなぁ。婆っちゃが持ってくるからなぁー」



 お婆さんが奥へと戻り。カチャカチャと音を立て、深皿に入れたお水を渡してくれた。



 「皿はその場に置いといていいからねぇー。それと、あんたぁーのごはんだけどなぁー。裏手をちょっとがし右に曲がるとぉ、爺さんがやってる店があるでぇ、そこで食べてきぃーしゃい」



「色々とありがとうございます」



 私はお礼を言いながら頭を下げようとしたんだけど、ひよひよの催促がまた聞こえたので、お水を溢さないように走った。



 「おやおや、まぁー」



 なんて、お婆さんが呟いたとか呟かなかったとか。





 裏手に回るとひよひよが、どすんずすんと、足を踏み鳴らしぷんぷんしている。そりゃもう、凄いぷんぷんです。鼻息が湯気みたいに出てるんですもの。



 「ごめん、ごめん。お詫びにジャーキーあげるから許してね。ね?」



 ジャーキーを差し出すと、長い首を下ろし一瞬でジャーキーを口に咥え込んだ。一応許してくれたみたいで、もぐはむ、と咀嚼してる。仕事に集中してると時間忘れちゃうんです。もうしないからね?ひよひよ。



 ひよひよがおいしそうにもぐはむしている間に、乾燥携帯餌を深皿へと浸し地面へ置く。



 「こっちもちゃんと食べるんだよ?おいしくない顔いつもするけど栄養あるんだからね」



 ジャーキーを飲み込んだひよひよは、ヤレヤレだぜって顔をしてた。おいしくないのは理解できるんだけどね。干草でぐちゃにちゃにしたオートミールみたいだし。でも、ジャーキーばかりだと病気になりやすいから我慢してもらうしかない。



 「私はこのままご飯食べに行って寝るから、今日はこれでおやすみね。また明日も頑張ろうね」



 ひよひよの口へ軽いキスをしてから、おばあさんに教わった道へと歩く。鉄紺色(てっこんいろ)の空の下、どんな料理かなと空想しながら。



 「裏手からちょっとがし右に曲がってっと、あそこっぽいかな」



 レンガ調の四角い小さなお店からはわいがや楽しい声が聞こえてくる。入り口前の階段を3段あがると、賑やかというより猥雑とした居酒屋さんだった。



 「おう、坊ん主! ババアから話聞いてるよ。カウンターしか空いてねぇから、こっち座りな」



 頭に手ぬぐい縛った白髪で威勢の良いお爺さんが席を勧めてくる。確かにそこしか空いておらず、どこもかしこも人でぎゅうぎゅうだった。私は少しだけ怒ったフリをしながら木製のカウンターに足を進め席に座わる。



 「坊主じゃないですよ?これでも一応女なんです。ほら社員証に、リリーオ・アルネオ(♀)って書いてあります」



 薄萌葱(うすもえぎ)のケープに着けている社員章をみせた。



 「おうおう、それもババアから聞いてるよ。これぁオイラの挨拶だ、胸が平坦だから本当に坊ん主かと思ったがな」



 ニンマリと笑うお爺さんに対して、私もニンマリと返しながら。



 「怒ったフリも私流の挨拶ですよ。ホロビュー用旅行記の記事に此方の料理を紹介したいんですが、よろしいですか?あと、平坦は気にしてるのでやめてください」



 「おー!坊主は平坦な嬢ちゃんか」



 「ゲイル爺さんが取材だってよ。こりゃーすげーなぁー」



 「爺さん、初対面で言い負けてやがるぜ。珍しいもんみたぜ」



 なんて、方々から笑い声が飛び交う。これだけ混んでるのだから良いお店なんだろうけど……



 「取材なら別に構わねぇな。で、何食うよ?」



 ゲイル爺さんがメニューを見せるが、私はそれを手のひらで止める。



 「取材協力ありがとうございます。それでは、村の特産で一番おいしい料理をお願いします」



 「バーローめ、オイラの料理は何でもうめぇんだよ。待ってろすぐに度肝抜いてやるからな」



 またニンマリと笑ってお爺さんは、料理を開始する。私は眼鏡のサイドテンプルからメモリを抜いてカメラへと戻す。



 「そうだな、爺さんの料理はなんでもうまい」



 「婆さんに料理される以外は何でもうまいな。毎度喧嘩は負けてるもんな」



 「怒るとおっかねぇもんな、チェロキー婆さん」



 って方々から笑い声。



 「べらんめぇ、こちとら業と負けてやってるんでぇ」



 お爺さんは作業を中断して腕をまくり、辺りに対してポーズを取る。店中がニンマリと笑い次第に大笑いに、村中から愛されてるんだなってそう感じました。



 作業再開したお爺さんは、虹色マスを下拵えしながら説明してくれた。



 「この虹色マスは、村一番の特産でよぉ産卵期前だから、べらぼうにうめぇんだ」



 割いたマスのお腹側にローズマリー・生ハム・松の実・黒マッシュルームを細かく砕き詰め込んでいく。



 「これも全部近所の山でとれるんだ、マスと相性いいから味も抜群になるって寸法よ」



 マスの皮にパラパラっと高く塩を振りかけた後、青磁色せいじいろのスープをお鍋から深皿へよそい私の前に置く。



 「こっちはって言うと、クレソンと泥芋のポタージュだな。玉葱がどろどにになるまで煮込むのがミソでぃ」



 スプーンで口元まで運ぶと、クレソンの爽やかな青みが鼻を誘う。一口頬張ると泥芋のほくぽく感と玉葱の甘みが舌にトロリと溶けて、最後にクレソンの苦味が味覚を掃除してくれた。



 「凄い、本当に凄い。口の中にドロっと残らなくて、甘くて、ほくぽくしてて」



 「どーでぃ、どーでぃ。泥芋をキチンと裏ごししなきゃー、こうはならねぇのよ」



 お爺さんは嬉しそうにしながら、オリーブオイルを敷いたフライパンに火をかけ、マスを焼き揚げる。ローズマリーと松の実の香りが店中に漂う。これおいしい、絶対おいしい!食べなくてもわかります。いや、食べますけど。



 パリパリっと皮が鳴ると、平皿にマスを移しライ麦パンと一緒に置いてくれる。



 「これは虹色マスの山の恵み詰め込んだソテーでぇ。まぁ、名前ぇなげーから略してオイラスペシャルだ」



 プッっと私が笑うと、周りが大声で一緒に笑う。



 「じぃーさん、そりゃ略しすぎだろ」



 「いや、略してねぇだろ。むしろ何の料理かわかんねーべよ」



 「お嬢ちゃんへ格好付けすぎだぁ」



 なんてね。



 「あ、写真撮らなきゃ。それと、頂いてます!」



 「そんなん別にいいんだよ。チャチャっと撮影して食ってみろぃ」



 大きな魚の目みたいなレンズの蓋を開けて、電源を入れカシャリと撮影。カメラをテーブルに置き、ナイフとフォークでマスを一口サイズに切り頬張る。パリっとした皮の食感の後にマスの身がホロホロっと雪解けて、口内でじんわりとローズマリーの清涼さ、生ハムの塩気、松の実の香ばしさ、黒マッシュルームの甘みが充満して大合唱。



 「ん~~~~~~!!」



 おいしすぎて何も言えなく、足をフリフリ手をパタパタしてしまう。



 「その仕草みるとやっぱぁ、女の子だなぁ。嬢ちゃん達はうめぇもん食うとみぃーんな手パタパタするしな」



 「あ、いや。皮がパリカリして身もホロポロで、中身の具がジュワーって」



 「うめぇモンは、ただうめぇでいいんだよ。そうだろ?料理が冷めちまうからとっとと食いやがれ」



 お顔が真っ赤になりながら嬉しそうに喜ぶお爺さん。皆がその仕草に指をさしてからかう。



 「おい、何だよ。爺さんがテレたぞ」



 「テレたし、デレたな」



 「爺さんがテレたって可愛くねぇべ」



 「うるせぇやい!」



 いつまでもお店は賑やかで暖かくて、お爺さんは皆に愛されて、料理はおいしくて。それとコブ池はとてもとっても綺麗でこの村が大好きになりました。






 民宿へと戻るとお婆さんが扉を開けてくれてた。部屋の撮影許可を貰い2階にあがり記事を書き終わらす。カーテンの隙間から銀色月の淡い光が射し、ビオラ虫がもの悲しそうな演奏をする。


 私は電源を切った眼鏡をサイドボードへと置き、ベッドへと潜り込み眠る。





 ――明日も素敵な出会いがありますように――



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