出会い
柔らかい桜が舞う中、僕は誓った。
僕の愛する人をひと時も忘れることなく、愛し続けようと。
同情なんかじゃない、体裁なんかでもない、僕は好きだから誓った。
桜と共に、僕は彼女を。
男で看護師をしていた僕は、まわりに珍しがられた。自分でもわかっていたけど、同僚が全員女性というのは多少頭の後ろがムズムズするような感触だった。それでも、やりがいのある仕事だったし、力仕事は得意だった。なにより、幼い頃に看護婦さんに憧れていた僕は、この職に就くことができてとても嬉しかった。家族にも、親族にも妙な目つきで見られたが反対はされなかったし、1年目が終わる頃には両親は近所中にしつこいくらいに言いふらすようにもなっていた。
そんな仕事にも慣れてきた3年目のときに彼女と出会った。
一目惚れだった。仕事中だということを忘れて10秒くらい見つめていたことは恥ずかしいが覚えている。窓の外で小麦色の葉が一枚ずつ落ちる中、廊下ですれ違った彼女を僕は見つめていた。
美しかった。
白いワンピースの上にジーンズ生地のジャケットを羽織り、長髪をなびかせ、背筋を伸ばして歩く彼女の姿。
その姿は病院には似つかわしくなく、自分が看護師だということにも頭が回らなかった。
歩くその足は止まることはない。常に一定のリズムでまるで踊っているように軽快だった。
本当に、美しかった。
我ながら単純な理由だと感じるが、顔が可愛かったから惚れた、そんな中学生のような恋心を彼女には抱かされた。外はすこし肌寒くなり、肌を露出している部分が冷たくなるような季節に入っていたが、彼女を見つめていると自分の身体は柔らかく暖かくなった。自分の捲くっている腕を触って確かめても、確かに暖かい。燃えるようなものではなく、点け初めの暖炉の火のような心地よい暖かさだった。
僕はしばらくその感触を喜び、それから我に帰り、仕事へ舞い戻った。
それが彼女とのはじめての出会い。
しかし、現実は僕に優しくはなかった。
彼女は生まれつき目が見えない病気だと、仕事終わりに同僚から聞いた。同僚は隠さずもせず、不思議がりもせず僕に淡々と事実だけを述べた。当たり前だ、ここは病院なのだから。彼女が健常者のわけはない。気づいてはいたが、彼女の威風堂々とした姿からは少し意外に思えた。目が見えない……?
僕は暖炉の火がすこし、消えかけるような残念さに見舞われた。彼女は目が見えない。光を知らない。その現実は直面させるのではなく少し遠回りから僕を攻め立てる。冬の空気を少し混じらせた秋の風が僕の周りをからかうように。
その日の夕日が沈み終わって幾分落ち着いた頃、僕は車を家の駐車場に止め、肌寒い空気に縮こまりながら車中でずっと考えていたことに終止符を打とうと思いふける。
これは報われない恋だ。彼女は目が見えない。どれほど大変なことかは容易に想像できる。そもそも話したこともないんだ。今日初めて見て、顔が可愛かった、だから惚れた。いい大人が夢見ることじゃない。だいたい、看護師が患者と恋なんて……。
愛車の脇で考えれば考えるほど彼女のことが気になった。とても終止符など打てない。寒さに負け鍵を静かに開けて家に入った。
彼女のことは、もう。