一話:ナガレボシ
彼はいつも通り一日を始めた
彼はいつも通り一日を過ごした
だから彼はいつもと違うことをしてみた
「以上で校長先生の御話を終わります」
気を付け、礼
「表彰に移ります。表彰を受ける生徒は……」
ざわざわざわ…
校長先生の話って長いよな……
眠い~~……
ってかあの人ダレ?生徒会の人?
そんな声が聞こえる朝礼。
どうも副会長の黄道天です。あ。天とかいて「じゅうろく」と読みます。
母によるとこの名前は『十六→一六→一大→天!!』らしいです。母曰はく、「え~、だって短い名前の方が格好いいし~、何より市役所に提出するときラクだし~」らしい。今も昔もノリでなんでもやる人だからなー…会社でもノリでつくった商品案が採用されて大ヒットだったし……
えっと、話がそれてしまいましたね。父はかなり前に死んでいます。顔は覚えていませんが、よく絵を教えてもらったことはうっすらと覚えています。
高1ですが生徒会副会長と美術部部長です、えっへん。
以上で、あの日できなかった自己紹介を終わります。あ、表彰状の授与が終わったみたいですね。
「以上で朝礼を終わります。」きりつ、きおつけ、れー。そんな表現がしっくりくるなぁ、と天は全校生徒をみて少し眉を八の字にして苦笑した。
…………
朝礼後の教室、先生はまだ来ていない。
朝礼があったので授業が遅れている。生徒たちは喜びを隠せず(隠そうともせず)友達と喋っていた。
そんなガヤガヤとした教室とした教室の一角、天は一人、外を見ていた。
外の桜は、かろうじて桜とわかるくらいまで散っていた。
「こんなはずじゃ…」教室と窓に薄く映った自分を交互に見て、再び溜息をついた。
今度こそ友達、できると思ったのに……
…………
幼くして父を亡くした僕を養う為に母は働き始めた。僕が生まれる前からノリとカンだけで生きてきた母はその持前のノリとカンで出世、出世、出世……全国お父さん達がみていたら開いた口の顎が外れて戻らないくらい出世したのだ。
母は度重なる出世の度引っ越した。勿論、僕もその度引っ越した。ペースで言うなら三か月に一回…驚きの出世スピードだ。
――絶対連絡するからな―― ……何回言われたっけ、一回も連絡ないけど……
そんな僕にも人生の転機。やっと一か所に住むことになった。母が海外の企業にヘッドハンチングされたからだ。前述した通り母はノリで生きている人なので即OK→海外へやっと解放された。
しかし、しかしだ。入学当日に自転車に轢かれて気絶してしまったのだ。意識を取り戻したのは放課後。なんという有様だろうか。
二日目、やっと自分の教室に足を踏み入れた。僕の席は一番後ろの窓側。
先に説明しておくと僕のクラスは僕を含めて37人。6×6にしたら必然的に一席余る。
何を言いたいのかというと、僕の隣には誰もいない。後ろも勿論いない(いたらいたで怖い)。だから初日来られなかった人が二日目に隣の人と仲良くなる、なんていうこともなかった。こういう時他のグループに『いれて』と頼める人は勇者だ、僕にはそんなことできない。普通の人でもそうだろう。
つまり、何が言いたいのかというと、僕の隣には唯一自然に友達になれる隣の席のこがいないのだ。
「何黄昏てんの!!」後ろからコツンと小突かれた。後ろを向くといたのはショートカットを更に動きやすいように小さ目のリボンでポニーテールにした、見るからに『元気っ娘』といった感じだ。
「……射手さん」
「いえすあいあむっ!!」テンションマックスで答える射手さん。何を隠そう、彼女こそが僕を轢いた張本人、射手桜さんだ。
「いえ、もう桜が散り終わるなぁ、と思いまして。」
「あー、わかるわかる。あの頃は満開だったのにねー」
「あの頃といっても4週間前ですが……」
「細かいことはきにしなーい」僕を轢いたのは大事かと思われますが。
「まぁ、話しかけたついでに黄道!!星座と血液型教えて!」はい?
「いやー、最近占いに凝っててさー」よくみると射手さんは左手に何かをもっていた。
…いや、これは魔術とか呪術の類の本では?
「これホント本格的なんだよっ!」でしょうね。
「まだ誰にもやってないから実験台になって欲しいんだよね」嫌な予感しかしない。実験台という言葉がまずいけない、カエルの解剖とかを思い出してしまう。
「というわけでー、教えてっ!」……何を言っても無駄だろうと確信。諦めて教える事にした。
「8月26日だから…獅子座ですね。血液型はA型です。」
「サンキュー。えーっとねぇ…おっとその前に」
ブチィ!
「いたいッ!!」髪の毛を抜かれた!ブチっ、なんて可愛いもんじゃない。ブチチチっ!だ。
「いやね、その人の遺伝子情報が必要なんだよ。血とかだったらなおよしだったんだけど、いきなりサクッとやるわけにもいけないでしょ?」いきなりブチ、いやブチチチもどうかと思いますよ。もうすぐ16にして涙目ですよ。
「えっと今度こそ…このレンズに通して…よし見えたっ!この1年の間に多種多様の出会いアリ、らしいよ!」お、それは嬉しい。生まれてこの方出会いと呼べる出会いは殆ど無かったからなぁ。
「でも、気を付けていい出会いばかりじゃないから」
「……気を付けます」まぁ、大丈夫でしょう。悪いことはいいことで中和される、とおもいますし。
キーンコーンカーンコーン……
「おっともうこんな時間!じゃっ、またねー!!」次の授業の為、射手さんは急いで自分の席へ……って僕も準備しなきゃ! 天は滑り込むようにしてロッカーへ突っ込んだ
…………
キーンコーンカーンコーン……
放課後、部活の時間である。
「黄道じゃねー」「さようなら」ダッシュで走り去る射手さんに挨拶をする。相変わらずの足の速さだ。美術部の僕はゆっくり美術室にいくとしよう。
僕が現在所属している美術部は総勢3名。僕、副部長、そして部員もう一人。一年生の僕が部長になれることから解るようにこの部活は廃部寸前なのである。廃部を免れるためにはコンクールなので銀賞以上の賞をとるか部員をあと2名以上勧誘して正式な部活に戻さなければならない。じゃなければ廃部だ。
それなのに……
「なんで一人も来ないんだああああああああああ!!」心からの叫び。どうやら他の部員は諦めて他の部活動をしているようだ。
僕はというとコンクールに出すための作品作りがあるのだが……まだモデルが決まってない、いつもデッサンの練習だけで部活の時間が終わってしまう。
「……」この時間はとてももったいない。予習もしないといけないし……帰ろう
天は部室の掃除をし、ジェイソン(石膏像の名前)を定位置に戻して帰路についた。
…………
寝る前、今日の状況を思い出し、考える。
今日の部の状況は酷過ぎる。
なんで一人も来ないんだ……?
もう諦めたのか?
部長としてなんて部員に言おう……
どうすればこの状況を打破できるんだろう……
天の頭の中を疑問や悩みが飛び交う……頭の中にモヤモヤとしたものが溜まる……
「……外の空気でも吸おう」天は父の形見である筆を手にとりベランダに出た。
「出会いあり、か……」今日桜に言われたことを思い出す。
「部活で出会えればいいんだけど……」と呟いてみる。気をまぎわらせる為に手に持った筆を掲げ、星空をなぞる。星の点結び、といったところだ。
その時
「あっ、流れ星! ……ん?」確かに流れ星自体は珍しい。しかしこの流れ星はこっちに向かってきているのだ。10km、5km、1km…どんどん流れ星が近づいてくる。
「うわあああああああああああああああああ!?」ししし死ぬ、死んじゃう!
自分の恐怖心に従い天は固く目を瞑る。終わった、と思った。無駄と思いながらも衝撃に備える。
しかし想像していたような衝撃がいくら待っていてもこない。おそるおそる目を開ける。
「な、なんで……?」流れ星が自分の持つ筆に吸われている。そしてそのまま流れ星は消えた。
「え?え?」何がおこったか分からない。焦る。あたりを見回す。何も変わっていなかった。いつもと同じだった。
自分の持っている筆以外は