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パパと私  作者: 華南
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哀しみの恋詩 その1

Act.9 哀しみの恋詩 その1






僕が菜穂と出会ったのが、僕が6歳、菜穂が10歳だった…。

宮野家に引き取られた菜穂を初めて見たとき、僕は自分が今迄にない感情を持った事に驚きを隠せなかった。


自分の頬が熱くなり、鼓動は早鐘の如く動き、そして言葉が上手く紡げない。

菜穂の姿をただ見つめるだけで、その場から動く事すら出来ない…。


これが「恋」だと言うのをその後直ぐに理解するのだが、だが、初めての感情に正直に、戸惑った。


菜穂は…、とても素直で優しく、そしてとても明るかった…。


僕は菜穂の明るい笑顔に、いつも救われていた。

そう、僕の家はいつも暗い悲しみに閉ざされていたから。


僕の父と母は、いわゆる政略結婚だった。


父の一方的な申し込みに、母方の実家がいつも何も言えず、ただ従うばかりだった。


更科家は戦前、一介の商人だった曾祖父が戦争の混乱期に事業を拡大させ、日本有数の企業として名を憚らせていた。


ただ家の格式が無いが為、祖父も父も、名家である祖母と、そして元華族の家柄である母をお金にモノを言わせ、婚姻を結んだ。


父の場合、それはもっと強引な手で行われたと言えよう。


高校を卒業したばかりの母と強引に婚約を結び、そして母の心を無視して結婚した。


その理由は、「成月涼司」と言う存在が絡んでいる。


学生時代、涼司さんと出会った父は、彼の魅力に全てを奪われ、盲目的に愛を捧げた…。

それはまるで男女間が捧げる愛を超えた、まさに狂気とも言える執着。


母も、そして僕も真季子も、父の狂気の犠牲者であった…。




父は涼司さんの側にいたいが為に結婚を早め、跡継ぎである僕を母に生ませ、そして涼司さんと親族関係になりたいが為に、母に真季子を生ませた。


僕たちの誕生に愛等、何一つ存在しなかった…。


その理由は、父が涼司さんを盲愛したのと同じく、また母も涼司さんに全ての感情を奪われていたから。

そう、母も涼司さんと出会った瞬間、彼を深く愛してしまった…。




「愛情」とは子供の頃の僕にとって、理解しがたい感情であった。


ただ、真季子の事を思う気持ちが愛情で無いかというのを感じていたが、それ以上に憐憫と同情を真季子に感じていた。


真季子は生まれた時から母に疎まれていたから。

真季子が誕生した理由が理由がだけに、母の嫉妬とあらゆる負の感情が全て真季子に注がれていた。

毎日冷たく当たられ罵られ、時には手が出る始末。

母の瞳には真季子は娘ではなく、既に一人の女であり、愛する男を奪う憎しみの対象でしかなかった…。


そんな生活の中で僕と真季子は、他の5家に遊びに行くのが唯一の楽しみであり、心の拠り所であった。


同時期に生まれた僕たちは境遇が一緒なため、幼い頃から仲がよく、そして強い絆で結ばれていた。


僕は特に孝治と仲がよくて、一番、交流を深めていた。

そして真季子は…、皮肉な事に涼司さんを幼い頃からしたい、愛情を強めていった。


涼司さんも真季子の境遇を知っていたのであろう…。

真季子に深い愛情を注ぎ、大切にした。


それは真季子だけではなく、僕もそして他の5家の子供達をも。




僕は…、彼が子供の頃から苦手だった。


彼の慈悲深い瞳の奥に、捉える事の出来ない感情が常に宿っていた事を知っていたから。


彼は、無償の愛情を注ぎながらも、誰一人愛する事は無かった。


そう誰一人…。


そんな僕に、菜穂は人を愛する喜びを教えてくれた。

菜穂に会う度に、僕は僕が今迄持つ事のない、感情を持つ事が出来た。


心から笑い、人を深く想い、そして大切に想われる。


最初、菜穂は僕を実の弟の様に可愛がった。

生まれるべき弟を両親とともに亡くした菜穂は、僕にその弟を重ねたのであろう。


だが、僕は既に菜穂を一人の異性と意識していた。


どうすれば彼女に、男として認められる?

どうすれば今、彼女から注がれる愛情を、異性としての感情にかえる事が出来る?


僕は…、菜穂を愛している。


そう、深く愛しているんだ…!


そんな僕たちの関係に大きな転機が訪れるのが、僕が12歳、そして菜穂が16歳…。


何度も入退院をしていた菜穂が、心臓発作を起こし入院し、成人する事が出来ないと医師に宣言されたあの日を境に、僕たちの関係は大きく変わっていくのであった…。


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