友達以上、彼女未満…?
Act.7 友達以上、彼女未満…?
「い、何時から知っていたの?」
帰り道、カフェに立ち寄った私達はケーキとお茶を注文し、話し始めた。
(先程から寄せられる視線が痛い…。)
忍の姿を見た途端、店員だけではなく、中にいた客の視線の全てが集中した。
それ程、忍の美貌は注目の的であった。
春菜の問いに、忍はやんわりと微笑み返事をした。
「最初から」
にっこりと微笑む姿に、春菜は戦慄を憶えた。
「兄が侑一さんの娘さんが俺の学校に転校すると言ってたからね。
名字が違うけど、直ぐに解ったよ。
侑一さんにとてもよく似ているから。」
忍の意外な言葉に春菜は思わず、飲んでいた紅茶を吹き出しそうになった。
「ど、何処が?」
春菜の動作をどう感じ取ったら、忍は微笑みながら言った。
「観察力が鋭い所」
「…」
「侑一さんはね。
あんな風に見えるけど、兄の親友の中で一番、観察力に優れている。
まあ、他の人もそうだけど、あの人は特別だよ。」
「坂下君は余り、六家の人々と交流はないと真季子さんから聞いていた。
でも、違っていたのね。」
「いや、基本的には余り付き合いはない。
だけど、兄貴がよく「一光」に俺を連れて行くんだ。
そこで兄貴達がよく集いをする。
その集いに俺も何度か参加した所為で、自然と六家の方達の人柄が見えたんだ。
俺に気遣って、余り過去には触れないが言葉と動作を見ると、つい、ね。
その中で侑一さんは一番、鋭い…。
君はよく似てるよ、侑一さんに」
パパの意外な一面を忍に聞いて春菜は首を傾げた。
「でも、驚かなかったの?
パパの年齢を知ってるでしょう?」
「ああ、それが何?」
忍の平然とした態度に逆に春菜が狼狽えた。
(まさかそんな答えが返るとは夢にも思わなかった…。)
「じゃあ、ちなみに聞くけど…、もし、仮に貴方の身内が亡くなった恋人の写真に毎朝、話しかけ、愛を捧げてるのを見たらどう感じる?」
忍は一瞬考えて、こう答えた。
「その人は、亡くなった恋人の死を受け入れたくないんだね…。
それ程、愛しているというのでは無いのかな?」
「…見ていてどう思う?」
「各個人の主観の問題だよ。
「彼女」がそれを行って自分を保てているのなら、何も言う事では無いのでは?
その人は…、幸せなんだろう…?」
真季子の表情を思い浮かべ、春菜は考え込んだ。
確かに何時も頬を染めて幸せそうに微笑んでいる。
そう、自然な笑みだ。
「…」
「君は変わっているね。
どうして俺にそんな事を聞く?」
今度は忍に不思議がられる番だ。
「多分、坂下君が私とパパが似ていると言ったから、かな。」
「…」
「君は俺の事を何処迄聞いているんだ…?」
忍の言葉に一瞬、躊躇する。
そして意を決した様に口を動かした。
「ある程度は…」
春菜の返答に忍は深いため息をついた。
「…そうか」
忍の言葉に春菜は一瞬、喉迄言葉がでかかった。
(坂下君、貴方は何処迄記憶が戻っているの…?)
その問いは残酷だと思い、春菜は言葉を下ろした…。
「で、どうして私が貴方に交際を申し込んだと嘘を言ったの?」
春菜の急な言葉に忍は微笑んだ。
「一つは君を守るため。
もう一つは…、俺の心を覗き込んで欲しく無かったから。」
忍の言葉に言葉を無くす。
「君の動きを封じるには、俺と付き合う様に仕向けるのが一番の得策だと思った。
期間限定なら、回りも文句は言わないし、事情が事情だしね。
そうだろう?」
最もだ…、と春菜は忍の言い分を渋々受け入れた。
(こいつ、悔しいけど本当に頭がキレる!)
「で、守ると言うのは?」
春菜の言葉に、やれやれ、とおどけた様子を見せる。
意外な忍の態度に春菜は面食らった。
「…君の視線に僕が気付いたというのは、俺に好意のある人間が感じないと思うかい?
君、観察力は鋭いけど、案外、自分の行動には鈍感なんだね?」
くすり、と微笑む姿に春菜は一気に真っ赤になった。
(ば、バカにされた…!)
「…君って本当に話が分かるから助かるよ。」
「…褒めてくれて有り難う」
「ある期間を過ぎたら別れたと言えばいい。
お互い納得済みでの解れと言えば、何も残らないだろう?
君も、回りも。
そして、君は俺の情報をある程度、集める事が出来る。
それが目的だろう、俺に視線を投げ掛けていたのは?」
もう何も言えなかった…。
「坂下忍」は…完璧だった。
そう思った春菜だが、ただ一つ、これだけは言いたかった。
「では、期間が来て私と別れたら、視線の先の女生徒と付き合うの…?」
忍の表情が一瞬、変わった。
春菜は見逃す事が出来なかった。
歪んだ表情を見せ、鋭い瞳で春菜を睨みつけた。
初めて見る「坂下忍」の顔…。
「…だから心の中を覗こうとするなと言ってるだろう…?」
声のトーン迄変わっている。
どうも地雷を踏んだ様だ。
びくりとしながらも春菜は、自分の主張と突きつけた。
「私には聞く権利があると思うけど、彼氏さん」
にこりと微笑む事がどうにか出来た春菜に、忍は視線を投げ掛けた。
険しい表情に、弛みが走り、そしてくつくつと笑い始めた。
自然な笑みだった。
その笑みにぽかんとする春菜を見つめながら、忍はこういった。
「本当に、君って面白いね。」
とても楽しそうだ。
「…さあ、どうだろうね…。
俺は彼女と付き合うのかな…。」
「…」
「それは神のみぞ知る、と今は言っておくよ。」
思いっきり肩すかしを食らった春菜を見て微笑みながら、忍は会計へと向ったのであった。