恋愛狂想曲 その2
Act.16 恋愛狂想曲 その2
「でも、克彦さんも毎日あれだけ音程の狂ったオペラをよく、披露出来るわね。
本当に音程が狂っているとは、思わないんだ。」、としみじみ、克彦さんの事を感心して言っていると、隣でパパが咳き込むのが聴こえた。
何事かと思ってパパを見ると、涙を浮かべながら必死になって笑いを堪えていた。
あのぽやぽやで、いつも穏やかに笑っているパパとは到底思えない行為だ。
「パパ…?」とあんぐりと見つめる私に、パパが笑いながらこう言った。
「克彦の、あのオンチなオペラは、実はワザとなんだ…」とお腹を抱えながら笑うパパの様子を私は見なかった事にしよう…と思った。
パパがもっと変だと言う認識を、実はしたく無い…、と言う誠に可愛らしい娘心だと思って欲しい。
でも、それ以上にパパの言葉に衝撃を受けた。
克彦さんのあの、オンチが演技????
「ど、どういう事なの?パパ。」
私の質問に、笑いを収めたパパが、けろりと言った。
「僕がああいう風に歌えと言ったんだ、克彦に。」
「パ、パパ…?」
「克彦に言ったんだ。
真季子と結婚したいのなら、毎日、真季子の元に通ってプロポーズする事。
そして、プロ顔負けの歌唱力を音程を狂わせてオペラを歌い愛を告白する事、てね。
あの音楽に対してプライドの高い克彦が、まさか本当に実行するとは思わなかった…。」
しれって、悪びれずに言うパパの目は、いつもの様に穏やかではなく、そう、まるでいたずらを成功させた子供の様に、きらきらと輝いていた。
(パパ、貴方は一体幾つの子供なのよ!)と、心の中で、更にパパに関しての評価が一気に下がった事は言う迄も無い。
「パパ、もしかして、それ6歳の頃からとは…。
言わないよね?」
流石に子供頃に、そんな知能は巡らないだろうと思った、私の考えがバカだった。
「勿論、6歳の頃から。
プロポーズの事に関しては。
でも音程を狂わせて歌えって言ったのは…、7年前だよ。」
一瞬、パパの目に鋭い光が宿った。
見る者を震わせる程、冷たい輝きに、私はまた、パパに対して、評価が変わっていた。
捕らえ所の無いパパの性格はまるで、坂下君の様だ。
ぽやぽやと優しく微笑み、私に限りない愛情を注ぐパパ。
それが私の知っているパパ…。
だけど、それが「更科侑一」の全てではない。
それをこの後、私は直に感じるのだが…。
ふうう、と溜息を零しながら、「どうしてそんな事を?」とパパに聞く。
「真季子を本気で愛しているのなら、どんな条件だって、飲み込むだろう?
それが出来ないのなら、本気ではないし、またそんな男に、大切な真季子を渡せない。
全く、何時になったら諦めるか、毎日指折り数えているのだが、止まる事をしらないしね。
僕もほとほと参っているよ、克彦には…」
そういうパパの目が寂しそうな光を称えているのは、パパにはナイショだ。
パパは、本当は解っているんだ。
克彦さんの愛が真実で、また何時かそれが現実になりうる事を…。
だって。
真季子さんの表情があれだけ硬くなるって、今迄に無い事だもの。
真季子さんも本当は解っているはず。
だけど…。
考えに耽っていると、パパが急にこう話しかけた。
「春菜。
急で済まないが、今日の夜、「一光」で六家の集いがあるんだけど、今回は僕が主催になるから、みんなに春菜の事を紹介しようと思っている。
だから帰宅したら、直ぐに準備を整えて僕の帰りを待っていて。」
「え…?」
にっこりと微笑みながら、パパが爆弾発言をした。
「パ、パパ?
だって、パパの幼なじみって、あの孝治さんと、克彦さんよね?
そんな人達が後、3人も存在するの?
わ、私、無理!
絶対に無理…!」
慌てふためいてパニクっている私に、パパがくすりと笑った。
「大丈夫。
克彦以外は、みんなマトモだから。」
にっこりと微笑みながら言葉を紡ぐパパに、私は心の中で突っ込んだ。
(いや、パパが一番怪しいのよ。
だって、31歳で17歳の娘持ちって、どう、マトモだと…)
パパの言葉を鵜呑みにしてはいけないと思いつつ、一瞬でもパパの答えをマトモに受け止めようとした己を罵った。
(ああ、「六家の集い」…。
行きたく無い。)
壮大の溜息を今日、何度、零したか…、私は知らない。
このお話を呼んで頂き、有り難うございます。
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