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RUIRIN涙鱗 改正版  作者: 花殿ナイ


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第39話 天命

 その戦、俺には赤子を産湯につける程度のものであったが、流石に戦に続く戦で疲れ果てていて森で休む事にした。だがさらに奥の方からいくつかの叫び声が上がっているのが聞こえたのだ。


「また戦か・・・ま、嫌いでは無いが今は眠いのでな」


 とは言え、まぶたを閉じたもののやはり気になる。何より血が沸いて治まらない。

 向かってみると、そこは若い未熟なエルフばかりの村だった。

 小さなその村をヒト族が愛玩用や奴隷の確保の為に襲っているようだった。


 「はん!エルフの村か!奴らなんぞ、どうなろうが俺の知ったことか」


 始めこそ、そう思っていたがエルフ族とはいえ幼い子供達の悲鳴は耐え難かった。

 気がつくヒトの軍勢の前にひとり戦斧を振るっていた・・・。

 後少しで制圧、というところで眼前に突如召喚されたフェンリルに吹き飛ばされ気を失ってしまった。

 激痛で目が覚めたのだが半分腹を食い千切られて死にかけていた。それを助けてくれたのが旅のエルフ、ローライだった。


 彼は俺をドワーフだからといって見捨てたりはしなかった。それは、エルフの村を助けていたからではなく彼の旅の目的の為であった。純粋に種族を残したかったのだと。

 俺は彼から聞かされた。過去の大戦に意義などは無く、全てはヒト族を除く『種族の間引き』の為であるのだと。

 全てを根絶やしにしてしまっては存在意義がなくなる。我らエルフ族やドワーフ族は誇り高く眷属になどなろう筈も無い。巨人族もしかり。その点ヒト族は秀でた魔力を持たず身体能力も低い。そのうえ短命で繁殖力は強く群れる為に統制が執りやすい。だからヒト族を選び眷属としたのだ。女神は崇拝されるからこそ“女神”なのだ。

 つまり女神は、自身の存在を脅かす恐れのある種族を排除する為に戦の火種を自ら振り撒いていたと言うのだ。しかもそれと悟られる事のないよう工作を隠蔽し、むしろ災いから救った神だと崇拝に持って行くよう仕向けていたとはかなりタチが悪い。

 それに気が付いた彼は女神に合うべく旅に出た。

 方々を捜し回り、200年程たったある日、突然白い大きなフクロウに鷲掴みにされ遙か山の頂へ連れ去られる。そこで彼は女神にあったのだと。しかし交渉にすらならず、僅かばかりの手土産“魔封石”“魔力付与の羊皮紙”“一匹の子竜”を渡され帰らされた。

 それ以来、せめて種の絶滅だけは避けねばならぬと各地を彷徨い歩き、争いを鎮めては種の存続を説いて回った。

 彼の導き出した答えは「僅かばかりの自尊心で滅びるならばそれを棄て、運命に逆らわず今は耐える」というものであった。

 俺は感銘をうけた!それからというもの俺は彼に師事を受け方々を旅して回った。


「何故我らは女神の都合とやらで滅びなければならないのだ!だが、抗えぬ・・・!!

おのれ女神!おのれヒト族!!」


 ・・・当然納得などしてもらえる筈も無く、幾つもの部族がヒト族に戦を仕掛けては女神の加護の前に滅びていった。


 やがてヒト族がギルドを立ち上げるとそれはさらに加速し、獣人族は根絶やしにされ巨人族や妖精は姿を消し、エルフ族やドワーフ族は迫害に堪えながらひっそりと暮らすことになるのだが、ヒト族への恨みからあちこちで小さな戦が起きては悲劇を生んだ。

 それを最小限に抑える為に、彼は女神に近しいある者の『女神の像を建て監視されているという意識を持たせる』と言う助言に従うことにしたのだ。だが、やはり一人では各地に建てるのは難しい。そこで俺は魔法のロールをもらい受け魔力を得て彼の助けとなるべく尽力したのだ。


 ・・・月日は恨み辛みは薄れさせ、ヒト族は何も知らぬまま過ごし、女神によってもたらされたヒト族にとっては平和な時が流れた。


 しかし、なぜか最近になって突然またもや戦があちらこちらで始まったのだ。ただ前の戦とは大きく違う。今回はヒト族が戦を起こしたのだ。女(・)神(・)の(・)加(・)護(・)に(・)護(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)だけの弱き者が、自分らは特別な存在なのだと大いなる勘違いにより他種族を弾圧しにかかったのだ。なんと愚かな事か・・・。


 しかし救いもあった。俺は旅の疲れを癒すためこの城に戻ったのだが、付近に新しく街が出来ていたのはお前も知っているだろう。

 初めは多様な種族の難民が身を寄せ合うだけのキャンプのようなものだった。誰もが希望を無くし生者の墓場のようなあの街でひとり、若いヒト族のオンナが不思議な踊りで傷を癒して回っておった。

 当然、それを良しとは思わない連中もいた。他者から疎まれキズつけられても、それでもそのオンナは


「種族など関係ありません。傷ついた者は等しく救われるべきなのです」


 などと我が師と同じ事をぬかしおったわ!俺は惚れたよ。そのオンナを強く護りたいと願った。フフッ・・・勝手に術をかけてやった時には滅多に怒らないあのオンナも流石に怒っとったっけな・・・。俺の城へ来いと幾度も誘ったがその度に


「私の天命は多くの方々を癒す事。ごめんなさい」


 だと。だから俺はこの城に籠もりながらオンナを遠くから見守ることにした。


 だが・・・俺はもう、疲れた・・・。師はとうの昔に天寿を全うされて、相も変わらず戦が減る事もなく、あのオンナも老いてやがては死が待っているだろう。なんと虚しい事か。頼るべきはお前なのだが、お前は魔法を拒む。

 ・・・本当に疲れたのだ・・・。どうか、もう構わないでほしい・・・。独りになりたいのだ。こんな下らない戦に巻き込まれ続けるのはもう、まっぴらごめんだ!!


 済まないが、もう、誰とも会わん。


俺は、この我が一族の城を墓としよう。さらばだ。我が兄弟よ・・・。



 「まぁ、長くなっちまったがシグの記憶は

こんなもんよ。まったく・・・疲れたのなんのと言っていたが、一番は心の支えとなっていたヒト族の女に目途がたたんかったからだろうに!もっとも、それを知ったのはつい最近のことだがな。

 ・・・さしずめ、エルフからシグを尋ねろと言われて来たのだろう?ローライの倅もアイツが死んだことは知らんかったか・・・だが、俺が知りうる限りはこれで全て話した」


「・・・シグさんは女神の居場所に繋がるようなことは何か言ってませんでしたか?」


「さあ?なかったと思うがな」


「フン、まあ、繋がるようなものはアイツが最後に俺になすり付けおったこの魔法位なものだが・・・。コレは、どうやら譲る事ができるらしい。・・・いるか?これがあればいくら非力なヒト族といえど、並みのエルフよりも強力な魔法使いになれるぞ!?」


「・・・いや・・・有り難いが、遠慮します。オレが欲しいのはそれじゃない・・・。

強大な力は不幸を生みますから」


「はっ!!いいねぇ!!いいじゃねぇか!!バッハッハ!!・・・もしも、この力を欲したときにはお前はそこまでの男。その昔、俺の事を知り嗅ぎ回っていた奴がいた。ギルドから来たと言っていたが、そいつにも同じ事を聞いた。当然欲したさ。だがな、バッハッハ!!そいつは気に喰わんから、魔法で木にかえて暖炉にくべてやったわ!!・・・お前さんの言った通り、不幸にしか、ならん。俺のようにな」


「でも、まあ・・・話しが聞けてよかったです・・・女神への手がかりが見つからなかったのは・・・残念ですが」


「フン。ローライの倅から何か預かってはおらんか?おるだろう?そこの荷より魔力を感じるわ」


 確かにある。先生の手帳、だったな。しかし、読めない古代エルフ文字以外は大したことは・・・。


「ええ、先生の手帳だとかで。ただ、古代エルフ文字で読めない箇所が・・・ローレイさんでも読めないそうで・・・」


「どれ、貸してみろ!俺を誰だと思ってやがる!転生を繰り返し誰より長く生きるドワーフ、ギグ様たぁ俺の事よ!!」


 ギグは時折「ムムッ」とか「やはりな」とか声を漏らしながら、全てに目を通した。


「どうでした!?なにか分かりましたか!?」


「バッハッハ!!読めんかったわ!!」


「なっ!!」


「嘘だ!バッハッハ!!・・・フン、殆どが女神の所業の裏付け調書のようなもんだった。先刻の話と何ら変わらんわ」


「・・・そう・・・ですか・・・いや、有り難う御座います」


「フン。まあ、気を落とすな!俺の知らん事も書いて在ったわ!どうやら、女神より貰い受けた竜、ずっと連れ回しておったようだか、デカくなりすぎて自ら北山の祠へ移り住んだようだ・・・その竜ならば、或いは。どうだ?役に立ちそうか?」


「それは願ってもない情報です!!女神からの、ってんなら、女神の居場所も知っているかもって事ですもんね!!

・・・ギグさん!!酒もらいます!!ぐびっ

・・・ダァ~~!!きっくなあ~!!喉焼ける!!でも、うんめ~~!!運命を感じますね!!」


「・・・大丈夫か??つまらない事など言いおって・・・酒毒にやられたか?」


「大丈夫ですよ。うん。彼はいつもあんなです」


「そうか。大変そうだな・・・とにかく、その竜を探してみるといい」


「重ね重ねありがとう御座います!ひとつ気になることがあるのですが、なぜオレ達に声を掛け、親切にしてくれたんです?」


「・・・なに・・・その鈴が彼奴の・・・いや何でもない。とにかく竜だ。見つかるとよいな!我が友よ!!」


「友!!ああ、ギグさん、あなたとはもっとゆっくり酒が飲みたいですよ!!用事が済んだら、必ずまた会いに来ます!!それまでお元気で!」


「おおよ!まっとるぞ!!では、よい旅を!!」


「よい旅を!!」


 フン・・・行ったか・・・若造が・・・。

見つかるとよいのだがな、女神の涙とやらが。

 ・・・シグの奴からは、そんな話出てはこなかったが・・・。

 まあ、彼奴なら或いは・・・そんな気がするわ。さて、あやつらの旅の無事を祈ってもう一杯、飲むとするか!

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