私だけのギフトを胸に
幼い頃、うちは貧乏だった。
誕生日のプレゼントはもちろん、サンタも来てくれない。
父が「鈴子みたいな悪い子にはな。サンタは来ねえんだよ」と、クリスマスの前日に必ず、釘を刺す。
物心ついてからの数年は、本気で自分が『悪い子』なのだと思い込み、落ち込んでいた。
私は考えた。どうしたらサンタに来てもらえるだろうと。学校の宿題も完璧にこなしたし、部屋の片付けもした。そして、病弱な母の手伝いも率先してやっていた。
私は私が考える、可能な限りの『良い子』を目指した。クリスマスに、ただプレゼントをもらいたい一心だった。
或る年のクリスマスのことだった。
『良い子』のはずの私に、ようやくプレゼントが届いたのだ。
朝、起きると、紙で作った大きな靴下の中にちょっとした膨らみがあって、私は興奮した。
中を見ると、一枚の板チョコ。
うちは貧乏でお菓子なんて滅多に食べられなかったので、私は心底、そのチョコが嬉しかった。今まで頑張った甲斐があったのだ。
嬉しくて仕方がなかった私は、その板チョコを持って、近所の友達に自慢しに行った。玄関でチャイムを鳴らす。
すると、友達が家から出てきて「鈴子ちゃん、サンタさんにプレゼントもらった?」
「これ」と、私は持っていた板チョコを見せた。
「あれ? これって……パチンコの景品だよ」
「えっ」と驚いてしまった。
「そんなはずない」
「パパが時々、もらってきてくれるのと同じチョコだもん」
「そんなのウソだ。智子ちゃんのウソつき」
「私ウソつきじゃないもん。じゃあ、うちのパパ呼んできてあげる。パパに聞いたら?」
そして、そこで私は真相を知った。今までプレゼントがもらえなかったのは、うちが貧乏だからで、しかもその貧乏は、父のギャンブル好きによってもたらされていることを。
私は、板チョコを握りしめたまま、うちへと帰った。玄関の門を開けると、換気扇から肉じゃがの匂いがして、私は急に泣きたい気持ちになった。
その時、母が貧乏の中でなんとかやりくりして、私のおなかを一杯にしていることを、唐突に理解したのだ。
「今までのこと意味なかったんだな……」
門をゆっくり閉めると、涙があふれた。
けれど、私はそこで『良い子』をやめることはなかった。なぜなら母に愛され、母を愛していたから。
「鈴子は賢くて優しい子だね。それは神様がくれた鈴子だけのギフトなんだよ。だから、大人になっても大切にするんだよ」
母の遺言は今でも、この胸にある。




