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第三話 森と熊さん

最初に女神に人間の力を借りるなどと聞いた時にはあまりの事に数十分も呆けていたものだ。当たり前だろう。この事態がどんな神の力を持ってしても難しい事だったから。駄目もとでその男の元に行った時、俺は女神の意図をようやく知った。


あまりにも、美しく。そして恐ろしいオーラを纏う男だった。


白雪のように白い肌と濡烏の髪。どこを見ているのか分からない、黒曜石の瞳。俺を見ているのか見ていないのか。その不気味な人形のように整った容姿が、彼の魔力の強さをより際立てた。神に及ぶような、あまりに巨大で異質な力。今回の事を説明したら俺は殺されるのではないか、などと。神獣である俺が本気で思ってしまった。


「…とにかく、そういう事だ。異論はないな?」


否定だったらもはや打つ手がない、と考えていると、彼は確かに頷いた。胸に満ちた歓喜を押し隠し空間を引き裂く


「行くぞ、新たなる我が主人」


ふわりと空間へ彼を引きずりこむと、彼はわずかに顔を歪め、すぐに無表情へと戻した。さすがだ。もう現状を把握したのか。


「すまないな、乱暴な手で。異世界へ渡るにはこれしかないんだ。」


彼は相変わらず変わらない表情のまま、頷く事もしなかった。魔力の質が変わらなかったことから肯定と受け取る。しかし…


「こんな時にも動じない、か。」


なんというか、末恐ろしい奴だ。いまも十分恐ろしいが。




                       *




ある―日♪森の中♪熊さーんに、出会ったー


…生憎俺はお嬢さんじゃないし相手も「お逃げなさい」なんて言ってくれそうな紳士でもなさそうです。むしろヤンキーだよ…。コンビニの前にいるやたら威圧感があって通りにくいあの存在そのものだよ…。まぁ皆俺と顔合わせるとキョドるから怖いと思うのは遠くから見た時だけなんだけど…


「熊…」

「ウルフベアか…チッ、厄介な…!」


ウルフベアって何だよ!狼なのか熊なのかハッキリしろよ!内心そんな風に焦っていても熊は止まらない。至近距離ってわけでもないが捕まったらミンチだ。むしろミートソースになってしまう。あ、駄目だそんなこと言ったらもうミートソース食えなくなる。


「捕まって…シャン」

「捕まるって…!うっわ…!?」


風属性魔法で速力を上げて森を駆ける。いやいやいやいくら魔法使えてもあんなの倒せる訳ないだろ十代の諦めの早さ舐めんな!…いやこの場合年齢ってレベルじゃなく俺が臆病なだけですよねそうですねごめんなさい全国の十代の皆さん!


「刹那!後ろ気をつけろ!」


…?熊に追いつけるような速さで走ってるつもりはないが。臆病者の保身故にこういう逃走スキルは無駄に磨いてきたのだから。と、後ろを向く。


うん。トコトコってレベルじゃねぇ。


四足をついてそれこそ狼のように全速力で駆けている。それこそ森の樹木もなにもお構いなしだ。…やべぇえええええええ!!!!!怖い超怖い何コレェエエエエエ!!とにかく逃げなきゃ、なんて思っているとここでまさかの俺ドジっ子スキル発動だ。


コケた。


一応シャンが潰れないように手をついて襟元は守ったがこれ俺死ぬんじゃね?バッドエンドじゃね?何年かぶりかに真面目に死を覚悟した。



……変だな…いつまでも攻撃がこない。ゆっくりと立ち上がる。少し前に出るとそこは崖になっていた。あ、なるほど。俺を追っていた速度のまま突っ込んで落ちたのか。危ねぇぇぇナイスラッキードジ!俺のドジスキル産まれて初めてありがとう!


「…シャン…」

「無事、だが…お前は無事か?」

「あぁ…」


シャンはやけに感動したような目で俺を見ている。何だ?俺の脅威のドジっ子スキルにか?それとも森に入ったと同時にあんな熊に会う俺の運の無さにある意味の感動を感じているのか?…出来れば前者であって下さい頼むから。あぁぁなんか悲しくなってきた。もういいこの事を考えるのは止めよう。


「刹那、向こうから回って下に降りよう。この森からは早く離れた方が良い。」


そりゃそうだこんな熊の出る森危険すぎる。…あー熊といえばジーチャンとバーチャン思い出すなぁ。当時八歳だった俺が一人で熊捕まえて帰って来たの見て腰抜かして俺の事化け物呼ばわりしたんだっけ。…なんだろう。結構悲しい出来事だったのに客観すると結構バカバカしいのは。しょうがないじゃんまさか東京で熊を見るとは思ってなかったんだもん。アー駄目駄目気持ちが切なくなってきた。


「刹那?」

「あぁ…」


出来れば下の村に癒し系の可愛い女の子がいれば良い。


                        *


ウルフベア。奴らに挑み命を落としていった者達は決して少なくない。この森の主たるあの魔物を、魔法を使わずあぁもあっさり倒すか!その上さりげなく村のある方向へと走った。まるでこの場所の地理を知り尽くしているように。そんな魔法でもあるのだろうか。


コレでは神獣の自分の立つ瀬がないのではないかと心配になるほどだった。しかし、そう思っていたのもウルフベアを倒した後の刹那の顔をみるまでだった。


悲しそうな、切なそうな、苦しげな、そんな顔。


あぁ、コイツは。優しいのだ。強すぎる力に似合わず。ならば俺が、コイツを支えてやろう。


「刹那、大丈夫だからな」

「…あぁ」


どうか優しい君が傷付きませんように。ただ、それだけを望んだ。

これを読めばなんとなく分かるかと思いますが刹那の「家族に見捨てられた」という意識は半分あたりで半分外れです。それも追々…。


* で視点を区切っております。

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