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理性という名の敗北

佳境へと入っていく。

二人の駆け引きが始まった。

ガードを固くする男の中に、りんは静かに入り込んでいく。

押しては引き、その一手一手が、長く深い時間を刻んでいった。


「しばらく、距離をとりましょう」


ヒロが打ち込んだその一文は、

彼の限界だった。


自分でもわかっていた。

これは、拒絶じゃない。

ただの防衛本能。

この女にこれ以上、心を揺らされる前に――逃げておく。それだけ。



でもりんは、何も言わなかった。

ただ、アルバムに新しい投稿を増やしていった。


そこは鎧のないヒロの姿

りんと話した憩いの時間


ヒロはスマホを見るたび、強がるしかなくなっていった。


自慢話、彼女には響かない。


でも、それしかできなかった。


強く見せることでしか、自分を守れない。



ヒロは、スマホを伏せた。


「……この女、怖い。」


でも本当は――

怖いのは、惹かれてしまう自分だった。


『無言のアルバム』


俺が「距離を置こう」と言ったとき、彼女はあっさりと頷いた。

返事は短く、感情も表に出さず、ただ「わかった」とだけ。


そのあとの数日間、LINEも来なかった。

俺の言葉を受け入れたのだと思った。

きっと傷ついたのだろう。

そう思っていた。


…だが、違った。


沈黙の中で、彼女は静かに動いていた。

アルバムに、何気ない写真が一枚、また一枚と増えていく。

何のコメントもなく、タグもない。

ただ、そこに在るだけ。


それが、妙に効いた。

彼女が“まだここにいる”という事実を、無言で突きつけてくる。


アルバムにはまた、新しい写真が増えていた。

頬杖ついてる女のイラスト、多分りんなんだろう。切なさそうだ。


俺への手書きのメッセージ、これは風にスカートがたなびき黙って立っているだけ。

「待ってるよ」と聞こえてくる。


それらはまるで、静かに積み上がる石垣のようだった。

逃げ道を、少しずつ塞いでいく。


「…参ったな。」


そう呟きながらも、スマホを閉じられない。

距離を置くはずだったのに、

俺はますます、この女の世界に足を踏み入れていた。


俺はというと、またやらかした。

距離を置くはずなのに、沈黙が持たなかった。

つい、自慢話を送ってしまった。

言わなくてもいいことを、見せなくてもいい余裕を演出してしまった。


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