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番外編: 青い鳥だった?

突然現れた過去の男からのメッセージ

あまりにリアルで衝撃を得た

開封せずにそのまま非通知に

ブロックしない私は何なんだろう

ヒロとの攻防戦は、いまは休戦のように静まり返っている。

既読の灯りはときどき点るけれど、そこから先に進むことはない。

互いに言葉を選びすぎて、いまはただの沈黙だけが続いていた。


そんな折、不意にスマホの上に現れた文字。


――「お前が欲しい」


心臓が一瞬止まった。

画面の上に浮かぶその文字は、あまりにも生々しく、そして懐かしかった。

指先が震えることはなかったけれど、胸の奥のどこかが鈍く疼いた。


彼は、十数年前の人だ。

私が日本から突然消えたあの日から、何度かメッセージは届いていた。

けれど、一度も返事はしなかった。

返事をすれば、引き戻されるような気がしていたから。


二年前、アメリカから帰国したとき。

迷いの中で一度だけ彼に連絡をしてしまった。

彼は結婚していた。

「それならそれでいい」と思った矢先、半年後に「離婚したから来い」と言った。

徹夜で説得され、言葉を尽くされ、私は思わず言った。


――「もしかしたら、あなたは私の青い鳥なのかもしれないね」


そのときは行くつもりでいた。

彼の瞳には必死さが宿り、その熱が私を動かすような気がしたから。

けれど土壇場で、私は裏切った。

足が前に出なかった。

それは後悔ではなく、本能だったのだと思う。

求められることと、そこに飛び込むことは、決して同じじゃない。


そして今。

再び「お前が欲しい」と彼は言う。

あのときと変わらぬ直線的な言葉。

ただ欲望だけを剥き出しにした、不器用な叫び。

けれど、私の胸にはもう響かない。

懐かしさすら消え、ただ「またか」と小さく笑う自分がいた。


私はペンを取り、紙の上に女を描いた。

黒いワンピースに長い脚。

片眉を上げ、唇をゆがめ、嘲るように笑う。


「ふんっ、あんたなんか」


挿絵(By みてみん)


それが、私の返事だった。

言葉ではなく、絵に託した返答。

既読をつけて黙り込むヒロと、欲望をまっすぐ投げつける過去の男。

二つの対照的な沈黙と叫びを前にしても、私はもう揺らがない。


少し前の私なら、どちらかに引き寄せられていただろう。

沈黙に耐えられず声を上げるか、欲望に絡めとられるか。

でも今は違う。

私はただ絵を描き、静かに眺める。

そこにいるのは、誰にも翻弄されない私自身だ。


揺れる女であることをやめた瞬間、

私はやっと、少しだけ自由になった気がした。

青い鳥だったのだろうか。

まだチャンスがあるのだろうか。


そう問いながらも、揺れる心の底で

――この人ではない、と直感は告げていた。

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