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四葩 (よひら) の月  作者: 八興 心湖翔
一章 ひなびた家とながい月
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交わり

 濡れそぼった髪のままでキッチンに行き、腕を掴んだ。少し驚いた表情で皿を置く。そのまま引っ張ると、リビングのソファまで連れて行った。

「髪がまだ……風邪ひいちゃうよ」

「大丈夫です」

 

 上から見下ろしながら、シャツに手を伸ばした。下からボタンを外していく腕を、華奢な指が掴む。

「でも、ご飯が冷めるから……」

「あとでちゃんと食べます」


 玄関ホールで痩せた背中を見た須臾(しゅゆ)の後、もう歯止めがきかなかった。出会うまでは通年をとおし、考え事ひとつ湧かない日常下だった。選んだ道が険しいとは思わない。ただ、会えない時間が惜しかった。この人が、多忙な日々を照らしてくれていた。


 おもむろに手を降ろしていくと、拒みながら首を振る。その首筋に唇を強く押し当てた。白い喉に舌を這わすと、小さな声を洩らした。


 持ち上げて膝に抱え上げる。頭を振って抗う仕草に煽られる。洩らす吐息を唇で塞ぎ、ゆっくりと突き上げた。薄闇に縁取られた白い身体が燐光を帯び、揺れ動く。見慣れた美麗な背筋は、指で辿るだけで容易に想像がつく。律動を速めると、わななくように仰け反った。


 首に回してくる細い腕に口づけながら、後ろに倒れないように支えた。鳴くような喘ぎが耳に反響する。抑止できないまま、愛おしい唇の中を愛撫した。


 この人を奪う世界、モノクロームのいっさいを変えてやる──この俺が。記憶のひだに混在する醜悪を削ぎ落とし、自分に存在する二五六階調へといざなう──。


 近ごろ、SNSで片っ端からサーチエンジンをかけていた。モーメントのキーワードは〈グレースケール〉だ。




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