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卒業

 ホームからの帰り。和香と車から降りて歩く。和香の家には駐車スペースが限られる為近所の月極駐車場を借りている。僕がほら、と左手を左後ろにいる和香に後ろ手に差し出すと彼女は近寄り、僕の左手の薬指と小指を右手で握った。この握り方は美帆子そのものだった。お座りができるようになった美帆子を膝の上に乗せてあやすと美帆子は僕の左手の薬指と小指をぎゅっと握って離さなかった。無意識に行動する和香が美帆子と重なってしまうのだった。

「⋯?どうしたの??」

和香が僕の顔を覗き込む。

「ううん。なんでもないよ。夕飯何にしようか考えてた。」

「じゃがいもがあるからふかす?」

「そうだね。」

歩きながら話をした。和香は僕の薬指と小指を握りしめながら

「今日陽菜ちゃんの操上合格の発表日でしょ⋯陽菜ちゃん大丈夫かな⋯?」

と心配そうに。

陽菜は都内と長野の看護大、それから千葉の看護学校を受験した。千葉の看護学校は合格、長野の看護大は補欠合格、そして都内の看護大は不合格となった。第一希望の都内の看護大が不合格となったため、陽菜は落ち込んでいたが長野の看護大の操上合格の連絡を今は待っている状況で、その結果発表が今日⋯。和香は本当は都内の看護大に行けるなら、この家からも通えるし陽菜を支えられると言った。千葉の看護学校でも割と東京寄りのため通える。しかも姉と楓の母校のため、和香としては陽菜を心配するあまり近くに置いておきたい気持ちもあった様だった。然し陽菜はあくまでも看護大志望で、大輝とのあの約束を果たすためにも長野に行きたい様だった。浪人をすればその分大輝との約束を果たす期間が長くなる。繰上合格するなら長野に行きたいと。

家に到着すると陽菜も帰宅していた。陽菜は長野の看護大のホームページにある受験者用のサイトに一人では怖いから一緒にアクセスしようと言ってきた。サイトでももう解禁になる時間だ。和香はそうね、一緒に見よう。と言い陽菜を落ち着かせようとした。じゃがいもを蒸し器に入れ深呼吸しながら。すると俊介のスマホが着信を知らせる音が鳴る。僕たちは「もしかして⋯」と目を合わせた。俊介はスマホを取る手が若干震えていた。和香は両手を握りしめ、あの首から下げたチェーンの先にあるリングの上に重ねた。着信の番号は長野の市外局番⋯

「もしもし⋯宮島です。」

俊介は答える。

「美佐子です。」

なぁんだ。美佐子か、といった空気が僕たちを包む。長野の自宅の固定電話から掛けてきたようだ。

「あのね、こっちの、長野の看護大から私に電話がかかってきてね、連絡先私にしてたのね?それでね、陽菜が繰上合格だからって入学の意思を確認したいって。直ぐに電話して⋯入試課のサワダさんて方⋯電話番号は⋯」

美佐子は随分早口で一気に喋った。陽菜は固まっている。受験者用のサイトを開くと陽菜の受験番号が繰上合格者の欄に載っていた。

「陽菜ちゃん、おめでとう!大学に電話しよう。」

和香は陽菜を促し電話をさせた。

「はい!入学します!」

それから慌ただしく入学手続きをし、陽菜は長野に行く準備をした。陽菜の高校の卒業式は俊介と和香も出席した。教員の席を見ると大輝も背広に白のネクタイ姿で着席していた。

「ねぇ、見て。大輝も緊張してるのかしら。」

和香がクスッと笑い俊介と隣同士に父兄席に座る。

「大輝先生も色々感慨深いと思うよ。陽菜は本当に看護大行くしね。」

 その日の夜、布団の中で和香と話をすると和香は泣き出した。

「陽菜ちゃん、本当に長野に行ってしまうのね。陽菜ちゃん長野に行ったら美佐子さんに取られてしまうんじゃないかって思ってしまって。陽菜ちゃん可愛いから本当に心配で近くに置いておきたくて。大輝との約束の事もあると思うけど、本来は陽菜ちゃんは看護師になりたいんでしょう?千葉の看護学校じゃ駄目なの?って言ってしまいたかったの。だけどそんなの駄目ね。陽菜ちゃんの希望じゃない。私は笑顔で見送ってあげないと。私は陽菜ちゃんの応援団なのだから。団長よ!」

僕の胸で泣きながらも笑顔にもなって。

「僕たちもそろそろ子離れしなきゃいけない時期に差し掛かってるみたいだね。それにしても和香が好きなのは陽菜なのかい。僕じゃないのかな?僕がこんなに隣にいるってのに!」

そっと和香に口づけを。僕たちも卒業、なんだよと。






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