誕生日プレゼント
美佐子は長野の実家に戻った。引っ越しを手伝おうとしたが、殆ど引っ越し業者が行っており僕は最後の確認位で終わってしまった。物がなにもない僕の家。こんなに広かったんだ。引き戸や対面キッチンの位置、色んな所に拘って設計したっけ。僕はこの家を売りに出すことに決め、今度この家に興味を持ってくれた若い夫婦と会う約束をしている。
美佐子は僕が真由美に渡した30万は毎月1万ずつ返済すると言った。事実、美佐子は毎月僕の口座に1万を振り込んでくれた。元々樹里の保険会社から和香へ巡ってきたお金だから僕はそれ自体には執着はしていなかったけど、きっと美佐子としては返さなければならないと決心した金額だったのだろう。両親のりんご栽培を手伝って、そんなに現金収入が美佐子にまで回ってくるのか僕にはもう関係のないことだけど、陽菜が生まれる前からの一応、家族として同じ時間を過ごした人なので元気でやって欲しいと願う。彼女は美人だし、僕と同い年だけどまだ若いと思う。生活を変えてやり直すことに遅くはない。僕だって和香とあの新しい家で今までとはまた違う生活をしているのだから。死ぬまで生活は続いていく。形は変えても網目模様の様に途切れない。
和香はずっと変わらずに陽菜を支えてくれた。和香は自分の事よりも陽菜ばかりを優先するので僕はありがたい気持ちと申し訳ない気持ちもあり、先日の和香の誕生日に何が欲しいものはあるか?と尋ねてみたら
チェーンが欲しい、と言った。理由を訊くと僕が贈ったリングを仕事中に左手薬指にすることは出来ないからチェーンに通して首から下げていたいという。実は和香が産婦人科に行った日はチェーンを買いに行こうとしていた時だったらしい。そうだったんだね。僕もあの時お客さんから貰ったケーキを和香に渡したかったんだよ⋯。僕は仕事の帰りにプラチナのチェーンとチーズケーキを買い帰路についた。プラチナはリングと同じ素材に合わせ。チーズケーキもあの時貰ったケーキと同じ店のもの⋯。時を戻したい。
「和香、誕生日おめでとう。」
プラチナのチェーンとケーキを渡す。弾ける様な笑顔。
「ありがとう!」
和香は早速チェーンにリングを通し僕に渡す。僕に後ろ向きに立ち引き輪を引いて着けて⋯とねだる。かしこまりました。プラチナの白い潔さが和香の胸元で煌めく。それを大切そうに洋服の中に入れた。
「こうして服の中に入れておきたくて。肌身はなさずってこのことだね。」と。
「うん。ありがとう。似合ってる。」
色の白い和香にはゴールドの輝きよりもプラチナの白さが似合っている。僕の選択は正しかった。
「それはそうと、このリングは一応プロポーズのつもりなんだけど、結婚いつできるのかな?」
互いに結婚したい気持ちはある。なのに具体的に進展しなかった。それは和香が流産してから何となく、「自分達だけが幸せになったらいけないのではないか」といった誤った認識が和香にも僕にもあった。寧ろその事で僕たちの絆や互いを思いやる気持ちが増したというのに。
「うん。ありがとう。幸せです。出来たら、陽菜ちゃんが進路決まったタイミングがいいのかなって⋯。」
和香は服の上からあのリングの位置を把握し、鳩尾の辺りに手を当てた。
「陽菜のこと、そこまで考えてくれてありがとう。そうだね。陽菜の進路が決まるまで待とうか。」
お互い見つめあって納得した。その時、予備校から帰ってきた陽菜が
「ただいま!これ見て!」
と紙を差し出した。模試の結果で、地方の看護大と公立の看護学校が何とか合格圏内に入っている結果だった。
「陽菜ちゃん!頑張ってるね!その調子ね。最高の誕生日プレゼントだわ。」
と和香も自分の事のように喜んでくれた。
「和香さんへの誕生日プレゼントにしたくて!」
陽菜も輝きいっぱいの笑顔。3人で喜び、お祝いの夕飯のハンバーグを僕たちはぺろっと平らげた。




