赤いリボン
私の家が完成した。俊介さん、それから矢田さんと共に家の至る所の説明や住宅設備の案内など、所謂「内覧会」を行った。矢田さんは相変わらずのお笑いのような口調での説明で私も俊介さんも大笑いしながら説明を聞き、そして終えた。矢田さんは私の交通事故をとても心配してくれていたようで私としてもそんなに思ってくれていたことに感謝の気持ちが沸き上がった。その気持ちを伝えると矢田さんは真っ直ぐ私を見つめ
「宗像さんがこのお宅で幸せになられる事を祈っております。施工個所など気になる所がございましたらいつでもご連絡下さい。」
と伝えて帰って行った。現場監督が矢田さんで本当に良かったと思った瞬間だった。
引き渡しは私の仕事の都合で1週間後になった。これから引っ越し業者にも連絡して預りの荷物も搬入してもらわなきゃ⋯。やることは沢山あるな。
「和香、おいで。鍵の引き渡しをしよう。」
俊介さんは今まで現場で使っていた鍵で解錠し、今まで使っていたその鍵より長さのあるマスターキーの束を私にくれた。束にはちょこんと赤いリボンが結んであった。
「100円ショップで買った安物だけどね。贈り物っぽくしたくて。」
「ありがとう!」
〈引き渡し〉ってだけで嬉しいシーンなのにこのリボンかさらにこの場面の眩しさを増す。
「このマスターキーで一度閉め、解錠してごらん。」
マスターで閉め、開けを繰り返す。
「マスターキーを一度使ってしまうとこちらの現場用の鍵は使用不可となる。」
俊介さんが現場用の鍵を挿入し回す仕草をしてももうそれは用を果たさずただの金属となった瞬間だった。
「上手くできてるのね。」
感心してしまう。建築の色々なことが実用的に上手い具合にかみ合い網目模様の様に見える。
「俊介さん、はい。」
リボンを解き、マスターキーの束からひとつを俊介さんに渡した。
「えっ?」
動転しているような俊介さん。
「実はね、大輝はアパートでこれからやっていくって言うの。戻らないから部屋が余ってしまって。大輝の部屋、空いているから⋯もし良かったらこの家で俊介さんと一緒に暮らして行きたいなって。大輝は俊介さんと住んで欲しいって⋯。」
俊介さんはじっと何も言わず私の話を聞いていた。
「ありがとう。いいのかな。」
俊介さんは鍵を受け取る。
解いたリボンを元通りに結ぼうとしたらチャリン、と金属が落ちた様だった。マスターキーを束ねていたリングでも落ちたかな。慌てて拾うとそれは、同じリングでもサイズの違う指輪の様で。
「和香、やっと気づいた。全然気が付かないから、こっちがヒヤヒヤしてたよ。」
俊介さんは私の手からその指輪を受け取り、私の左手薬指にそっと滑らせた。プラチナの台にダイヤを全周途切れることなく纏わせたフルエタニティリング。
「僕は和香と家族になりたいと思ってるから。この意味解る?」
ガサガサの手に不釣り合いな、この輝きは永遠の様に見えた。涙で視界が歪む。
「はい。これからも宜しくお願い致します。」
私たちは挨拶を交わした。
この幸せがずっと続きます様に⋯!
それから、俊介さんのマンションは元々賃貸だったため引き払い、私の家で俊介さんと黒猫たちで住むことになった。家のローンと生活費は今までと同じに折半ということに決めた。




