表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/51

この僕に愛を

 事故の加害者、田中樹里が花束を持って見舞いを兼ねた謝罪に見えた。とても緊張した面持ちと今にでも泣きそうな顔。大輝達に土下座しようとするので一先ず止め、話し合うことにした。樹里は教育学部の学生ということで教師である大輝と共通点があったようだ。話が盛り上がっていた。和香も理解を示し、今回は示談にしようとお互い納得の上で解決の道へ話を進めた。

樹里が帰った後、「宮島さん、手伝ってくれてありがとう。感謝します。特に清拭の時は女性同士の方がいいみたいだから⋯。」

大輝は陽菜にお礼を伝えた。陽菜は和香の食事や清拭、着替えの手伝い等を自ら積極的にしてくれた。それは、好きなひとの母親だからなのか、単に大輝と一緒にいたいのか、それともリストカット仲間と思っているのか、それとも⋯夏休み暇だから?ボランティア?理由は良くわからなかったけど、あえて大輝から尋ねることもしなかった。陽菜は学校にいる時よりも輝いていた。水を得た魚の様な。もしかしたら、看護や介護に向いているのかも?と感じた。陽菜はまた手伝いに来たいというので、次の日時を約束し病室で待ち合わせすることにした。

約束の日時に病室へ向かうと和香の姿は無かった。看護助手がシーツ交換をしていて、その間散歩にでも行ってくると随分背の高い男と歩いて出たそうだ。宮島さんも来てたのかな。陽菜はシーツ交換をしている看護助手の動きを食い入る様に見ていた。もしかして興味あるのか?

「この前の、田中さんと先生、スゴい盛り上がってて⋯全然会話に入れなかった。」

「そりゃそうでしょう。加害者と被害者家族なんだから。」

何を言っているのか。

「違う⋯教育学部の話とか⋯」

「?⋯教育学部の学生と教師ですから、共通項があっただけです。」

「私の気持ち全然分かってない!!」

もしかして⋯あの自傷行為をした場面と被るので、さすがにまずいかもと大輝は咄嗟に考えた。

「もし、その答えが僕のことを好きだということなら、僕の母親を助けてくれていることも好きなひとの家族を助けたいという宮島さん、あなたの大切な気持ちですね?⋯ありがとうございます。その気持ちが本当なら、卒業後の進路は4年制の看護大に進学して、看護師になり僕の母親以外にも困っている人々の力になって欲しい。そして宮島さん自身も自傷行為から立ち直って欲しい。看護学校ではなく、看護大学です。宮島さんの気持ちが本当に本物なら、僕の願いを叶えてくれませんか?あなたはまだ若い。大学に進学すれば沢山の輝いた出会いがあります。それでもまだ僕を好きでいてくれるなら看護師になって僕を迎えに来て下さい。僕はここで教師として待っています。宮島さんはまだ1年生ですから看護師になるまで何年もあります。それでも、それでも僕の事を好きでいてくれるなら、ずっと貫いてくれるなら、それは愛に変わると、僕は信じています。僕は人を愛することが分かりません。だから、この僕に愛を教えてもらえませんか?」

本心だった。そして、こうした無理難題なことを言えば陽菜は僕を諦め、そしてそのうち忘れるだろうと高を括った。少なくとも文系の陽菜の成績では地方の看護大はおろか、看護学校すら難しいだろう。何となく介護や看護に興味がありそうなのでこんな台詞が、口から出任せに出てしまった。我ながら。

陽菜は泣いて諦めるだろうと思ったら

「分かりました。」

と両手を握りしめ、出ていってしまった。

あちゃ⋯もしかして逆効果だったのかな、なんて大輝は呑気に考えていた。まさか陽菜が本気に考えてるとは思ってもみなかったからだった。


 散歩から帰ってきた俊介と和香は大輝達の会話を病室の廊下で盗み聞きしてしまい入るに入れないでいた。自販機前のベンチにでも行こうかとした矢先に陽菜が走って帰って行ってしまった。

「⋯まさか、大輝があんなこと言うなんてね⋯陽菜ちゃん自傷行為って?本当?」

和香が心配するので黙っていたけど、陽菜の学校での事件を話した。

「そうなんだ⋯私が何か役に立てるといいんだけど⋯。」

「ありがとう。和香は十分僕と陽菜の支えになっているよ。」

と伝えた。

「それにしても⋯今日はびっくりすることが沢山ね。」

クスッと笑った和香の左手を僕はまたしっかりと握った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ