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温度

 「実は姪が事故っちゃってね⋯参ったよ。ほら、前に話した、姉の子。そう樹里。うちの近所のアパートにいるんだけどね。この前免許取ったばかりでさ⋯また姉貴が甘やかして軽でも買えって金振り込んできたもんだから⋯」

健太が意気消沈した様な覇気のない声での愚痴を美佐子は聞いていた。折角時間をやりくりして健太と会っているのに。しかも健太じゃなく事故ったのは姪の樹里。

「でも⋯健太は悪くないでしょ。事故ったのはその樹里ちゃんなんだから。保険屋さんから連絡は?」

勿論保険会社を介して手続きはしていると健太は言った。

「それならもう保険屋さんに任せてやるしかないわよ。お相手は?重傷?」

こういう時の保険会社なのだから。

「それが⋯あの⋯、被害者の方は女性で、腕を骨折してて、どうも宮島さんの知り合いのようなんだ⋯救急病院に行ったら宮島さんがいて⋯。」

「えっ?知り合い?」

誰だろう。美佐子には見当がつかなかった。

「実はうちで1回見積もって提案した施主さんで、うちでは予算オーバーでどうしようもなくて、宮島さんの事務所を僕が紹介した人なんだ。」

「そうだったの⋯気の毒ね。」

俊介のお客様の〈知り合い〉ね。わかったわ。

「それが⋯宮島さん、病院で自分がパートナーだって言ってて⋯」

「えっ?パートナー?」

「いや⋯よく分からないんだ。パートナーと言えばある程度は話を聞いたり手続き出来るからそう申し出たのかも知れないし、一緒に住んでいるとも言っていて⋯」

他の女ともうそんな仲になっているのだろうか。前夫は。一緒に住んでいる⋯まさか、もしかしてあのショールームで俊介と一緒にいたあの女?お揃いの眼鏡の?あの女?

「掃除するときは僕に言って。外せるから」って一緒に整流板を外してたあの女?まさか。

「でも、宮島さん変わったよな。前はちょっと冷たい感じだったけど大分丸くなったっていうか⋯眼鏡と髭で大分イメチェンしたのもあるけど⋯あの施主さんの影響かな?宗像さん。宗像⋯和香さん。あっ、俺達のことはバレてないから大丈夫。」

「うん…。宗像和香さん⋯ね。私みたいにならないといいけど。」

「えっ?どういう意味?」

健太がギョッ、とした眼差しで美佐子を見つめるも美佐子は返事をせず、健太の首に手を回しキスをした。健太はただただ美佐子の唇を受け入れるしか出来なかった。健太の中でだけ、口づけの温度が違うのを感じていた。

美佐子のバッグの中で着信を知らせるも音量を切っているため持ち主に知らせることが出来ないスマートフォン。陽菜の学校からと俊介からの着信を美佐子に伝えることは出来なかった。

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