姪
どれくらい時間が経過したのか分からない。きっとそう長い時間じゃないだろうけどやたらに時間が長く感じた。
「ご家族の方どうぞ。」
看護師から処置室へ案内された。
ピッ⋯ピッ⋯ピッ⋯
規則的な電子音。パルスオキシメーターと心電図。左腕には点滴。口元には酸素マスク。本当に先程まであんなに抱きしめ合っていた宗像さんとは別人の様だ。ただ、規則的な電子音のお陰で宗像さんは生きてくれたと悟った。それだけで。生きてくれた。それだけで僕は安心できた。医師の説明によると右腕の開放骨折と打撲、顔は擦り傷程度だという。ヘルメットのお陰で頭の損傷はほぼなく、不幸中の幸いだとの事だった。入院はリハビリも入れ一ヶ月弱位かかると言われた。宗像さんは生きてくれた。それたけで。ありがとう。
「和香。僕だよ。俊介。」
パートナーと名乗り出た手前、名字で呼び掛けるのは他人行儀な気がして。どさくさに紛れて名前で呼んでみる。和香は目を半分位開いてちゃんと僕を見てくれている。少し頷いた様にも見えた。和香、素敵な名前だね。そして自分のことも名前で名乗る。元気になったら俊介さん、って呼んで欲しい。呼び捨てでもいいよ。呼びやすい方で。今日は応急処置をして明日専門医が手術をするという。入院に必要なものと手続きはとりあえず明日と言うことで一旦帰ることになった。帰りたくないけど。帰ったところできっと眠りにつくことは出来ないだろうから。和香の左手を少し握ってから。明日またすぐ来るからね、と約束して。本当は側にいたいけど。和香と別れ処置室の廊下に出ると何故か佐野健太と若い女の子がいた。
「えっ?佐野?どうした。」
佐野は深刻な顔で、その女の子は泣いていた。
「実は、姪なんです⋯。」
事故の加害者、ピンクの軽自動車を運転していた若い女の子は佐野の実姉の長女(佐野の姪)だという。福岡から上京してきて佐野の自宅近くのアパートに下宿しており、田中樹里と言った。18才の大学生で免許を1週間前に取得したばかりで今回事故を起こしてしまったそうだ。
「本当に申し訳ございません。」
ふたりが土下座しようとするも止める。ここで僕に土下座されても仕方ない。というか、それは違う。謝る相手は和香だから。僕にじゃないから。




