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隣り合わせ

 救急隊員が横たわった女性をストレッチャーに乗せたところで漸くその女性の顔を見ることができた。それは、紛れもなく、その女性は、宗像さんに間違いなかった。認めたくなかった。宗像さんと違う所をどうにか見つけようと、もがけばもがくほどに共通点しか見えなかった。いや、本人なのだから共通点しかない。ないに決まっている。宗像さんは顔から少し血を流しているものの薄っすら目は開けているようにも見えた。右腕が明らかに日常生活であり得ない向きに曲がり骨が突き出ていたため救急隊員が固定を施していた。ストレッチャーはあっという間に救急車に吸い込まれていく。

「僕が⋯同乗します。」名乗り出た。

「ご家族の方ですか?」との救急隊員の問いに

「はい、パートナーです。」

と答えた。

「じゃあ。乗って下さい。」

宗像さんの名前、年齢や既往歴などを聞かれた。一番近い救急病院に直ぐに手配が取れた様だった。

「宗像さん、僕だよ。わかる?」

救急車が発車してから宗像さんに声を掛けた。宗像さんは焦点は合っていないものの、僕を見て口元が微かに動いたように見えた。

「なに?」

宗像さんの発する言葉が聞き取れない。目の前に起きていることが嘘だと言ってくれないか。

「ヘルメットのお陰で頭部に外傷はないようです。」

隊員がヘルメットを慎重に外しながら傷の有無を確認している。救急車はあっという間に救急病院へ到着し、救急の処置室へ宗像さんは運ばれた。

「ご家族の方はここでお待ち下さい。」病院の看護師から廊下のベンチを勧められた。救急隊員はここで帰るという。お礼を言ってベンチへ座った。僕が何としてでも一緒に帰れば良かったのに。自転車なんて置いて僕と車で帰っていればこんなことにならなかったのに。なんでこうしてしまったのだろう。帰り道ですら別れたくないと本心を言えば⋯そんなことを今考えても無駄だ。今は宗像さんの無事を祈るしか。どうか僕から宗像さんを奪わないで欲しい。つい今さっきまであんなに幸せで互いを抱きしめ抱き合ったのに。宗像さんは僕の腰のあたりに腕を回してくれたのに。あの感覚今でもあるのに。どうしてこんなことに。こんなにも幸せと不幸が隣り合わせだなんて到底受け入れられなかった。




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