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否定

 遠くで鳴り響いていた救急車のサイレンの音は急に大きくなり、近くで止まった。コインパーキングの精算機に硬貨を挿入しようとしていた矢先だった。車で帰路につくのは渋滞に足留めをくらうだろうか。それこそ一刻も早く帰りたい気持ち。そわそわして落ち着かない自分。早く宗像さんの笑顔に会いたい。笑顔で「おかえりなさい。」って言ってくれるかな。そして僕も笑顔で「ただいま。」って。なんて幸せな想像。⋯でも、何だが異様な胸騒ぎというか嫌な予感みたいなのがあり、一旦車をパーキングに預けたまま様子を伺ってから帰路を考えようと思った。多分あの信号のない十字路?いつも危ないなと思って運転していたところ。この嫌な胸騒ぎをどうにか抑え込みたい。やはりあの十字路に人だかりが出来、救急車が到着していた。やっぱり。迂回して帰ろうと踵を返してパーキングにもどろうとしたその視線に、見覚えのある自転車が道路に倒れていた。普段倒れ込むはずのない道路のど真ん中に。その自転車のやや離れた場所にまた見覚えのあるユニフォームを着た女性が横たわっているのが目に飛びこんできた。道路には血痕が。それは、紛れもなくつい先程まで愛を互いに確かめ合い、熱く見つめ合い抱きしめ合った宗像さんに似ているけど。似ているだけ。えっ?嘘だろう。傍らには初心者マークがついたピンクの軽自動車のドアが開放されたままの状態と呆然と立ち尽くす若い女性。救急隊員が倒れている女性に「大丈夫ですか!分かりますか?救急車です!」と伝えている。恐らく近所に住む主婦とおぼしき年配者が救急車要請したのだろうか。救急隊員に早口で話かけている。「急ブレーキの音とね、ドン!って凄い音がしてね⋯私びっくりして、出てきたのよ。女の人が倒れてるから、直ぐ救急車呼んだの。」警察も来た。事の重大さに気づく。目の前の光景が現実のものでない気がした。宗像さんに似てるけど、似てるけど⋯まさか。認めたくない。認めない。道路には僕とお揃いのあの丸眼鏡が飛ばされていた。辛うじて眼鏡の損傷はないようだった。倒れている女性の顔を宗像さんと違うと確認して帰ろう。宗像さんはマンションで待っているはずだから。人だかりをかき分け近づく。誰か否定してくれ。宗像さんではないと。もしかしてこれは夢かも。幸せに浮かれすぎて。

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