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コンセント

 和香の土地は地盤調査を無事に終え、基礎工事に進んだ。

「着々と進んで行くのね。」

彼女のワクワクした感じ。これからもっと楽しくなってくるよ。期待していて。

矢田と宗像さんは頻繁に打ち合わせをしていた。いや、僕の印象では矢田が小さな事でも逐一宗像さんに連絡をとり会いに行っているといった印象だ。そんなことまだ後でいいし電話連絡でも済むことなのに。

矢田は最近離婚したばかりだった。不妊でかなりの治療をしていたらしいが、それがどうも矢田の方に無精子の原因があり、夫婦共に疲れ果てたようだった。夫婦ふたりでやっていくと聞いてからはふたりで旅行に行ったりして〈ふたりきり〉のその時間を楽しんでいると聞いていた。そのあたりから何かにつけ「うちは子供いないし⋯」が口癖のようになっていたのは僕にも気づいていたが、夫婦にとっては限界があったようだ。可愛がっていた猫までもを妻に取られ離婚したと聞いた。猫が好きなのは宗像さんとの共通点か。いや、僕だって同居してからは猫の魅力に取り憑かれたひとりだ。ソファでうたた寝しているときの胸辺りに乗ってくる重み。どれだけその重さが宗像さんだったら良かったと思ったことか。ちょっとがっかりして撫でていると前脚でフミフミしてゴロゴロ喉を鳴らして満足そうにするのが無性に可愛いかったりもする。

矢田は離婚してからカラ元気にしている様にも見えた。だからと言っては何だが、あいつは人恋しいのかも知れない。でもそれは僕も一緒だ。今はもう隣に宗像さんがいてくれることが日常になっている。宗像さんがいない日々は考えられない。それくらいに彼女の影響は大きかった。

 今日は矢田が僕の事務所に来た。冷蔵庫のコンセントの位置を上げるという。宗像さんの冷蔵庫の型式を控え高さを測り調べあげた結果、10センチ上げるべきだと。宗像さんもそれでOKサインを出しているらしい。そこまで徹底していたのか。そこまでに。

「宮島さん、宮島さんは宗像さんと同棲されているのは本当ですか?」

いきなり真面目に真剣に訊いてきた。

「同居という形だ。宗像さんが仮住まいが見つからなくて。」

事実だった。それ以上でもそれ以下でもない。

「宮島さんは宗像さんのことをどう思っているのですか?」

いつものお調子者の矢田ではなかった。

「どうって⋯」

ここで一番好きで愛おしい女性で最も愛している人と言えたら楽なのに。何が邪魔するのか。

「俺は宗像さんの冷蔵庫を実際に見て高さを測りました。宗像さんは冷蔵庫はもう10年以上使っている片開きのものなので、次に買い替えるなら観音開きのものにしたいとおっしゃっています。今の片開きから観音開きに買い替えるなら平均して7.5センチは高さがでます。それを加味しても10センチは上げるべきです。」

ぐうの音も出ないというのはこういうことか。

「宗像さんの冷蔵庫は今大輝先生のアパートにあります。宗像さんの許可を取って実際に採寸しました。勿論大輝先生の許可も。立ち会って貰っていますし。俺は大輝先生とも上手くやっていける自信があります。」

自分の方が一歩リードしていると言いたいのか、矢田は。僕がまだ大輝先生には会えていない事を恐らく知っているのだろう。

「俺は宗像さんの事が好きです。惹かれています。これからお付き合いしたいと思っています。宮島さんが告白しないなら俺が告ります。俺は彼女を幸せにできる。」

矢田の決心をまざまざと見せつけられた。 

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