矢田
竹内の葬儀に参列した翌朝。目覚めると玄関で喪服のまま寝ていた様だった。酷い頭痛。二日酔いか⋯若くないな。とりあえず水でも飲もう。
「おはようございます。大丈夫?玄関で寝ちゃって腰痛かったでしょ?」
キッチンへ行くと宗像さんが朝食を準備してくれていた。何だか恥ずかしくて彼女を直視できない。
「朝ごはん食べられそうですか?」
僕は今日は休みだけど彼女は仕事だ。
「ありがとう。仕事なのに僕の朝ごはんまで⋯」
「何か飲める?牛乳とか?どう?」
冷えた牛乳をリクエストし、胃に流しこむ。
「無理に食べなくていいですから。では行って来ます。」
弁当と水筒を通勤用のバッグに入れ玄関へ向かう宗像さんに
「毛布かけてくれてありがとう。醜態をさらけ出してしまって⋯。」
と声を掛けた。
「いえ⋯そんな⋯あっ、時間だわ。行って来ます!」
と少し急ぎぎみに出ていってしまった。
とりあえず今日はこれからシャワーを浴びてしわくちゃの喪服をクリーニング出そう。それから⋯そうだ、竹内の後任の矢田に電話を入れよう。やることは沢山あった。それは竹内から引き継いだ〈使命〉を遂行するため。宗像さんの家を事故なく無事に完成させる。それが竹内を成仏させることにも繋がる。竹内、見守っていてくれ。頼む。
宗像さんが帰宅して落ち着いてから矢田の話を切り出した。
「竹内の後任は同じ工務店の矢田が現場監督になるから、今度宗像さんに紹介します。」
きっと竹内があんなことになって宗像さんもきっと不安だったろう。
「ありがとうございます。」
宗像さんもホッとした様子だった。
数日後、宗像さんに矢田を紹介した。矢田はお調子者で明るくよく喋り、人を笑わせるのが得意なタイプだ。現場監督よりお笑い芸人の方がよっぽど向いている。矢田は宗像さんに名刺を渡すと同時にその得意のマシンガントークで宗像さんを笑わせている。「お調子者」といった表現が本当にぴったりだ。
「矢田さんて面白いですね。芸人さんみたい。今度コンセントの位置確認しましょうって。」
クスッと笑いながら僕に報告してくる宗像さんに対し僕は心中穏やかでいられなかった。好きな人が他の男の話をするなんて。あっ、これは⋯焼き餅?いや、違うよな。ちょっと焦った自分。まさか自分が?




