赤のハンターカブ
僕は宗像さんと同居するタイミングで宗像さんの息子さんの高校教師である大輝先生に会って話をしてみたかった。「挨拶」といったそんな堅苦しい形式張った感じを想定していた訳ではなく、娘が現役高校生ということもあるし勿論「宗像さんの息子」っていう人物にも興味があった。仮住まいで難航した際に彼はやはり立場上「居候」よりも「独立」を選んだ。そのため直接会って話をすることは出来なかった。彼自身は公務員ということもあり、仮住まいは割とすんなりワンルームに決まった様だった。一人暮らしだからこのくらいでちょうどいいサイズ感だと話していたそうだ。そして、宗像さんも陽菜と会ってみたいと言ってくれていた。ただ、陽菜はまだ高校生なので父親が他の女性と同居することに少々抵抗する年齢なのかもと思い「仮住まい先が見つからない施主を半年近く居候させている」といった表現に留めておいた。現実そうだ。僕は宗像さんに指一本触れていない。約束した訳じゃないし彼女もそんなことは言ってこないし今も言わない。勿論深い仲になりたい気持ちはあるけどそんなに急いだらいけないような、急展開させてしまったら壊れ離れてしまいそうな、でもそんな脆い「硝子細工」のようなものでもない気もするけど、そう信じてるけど、大切に大切に彼女との同居生活を楽しんでみたかったのも事実だ。解体現場に一緒に行った時に作業員に狭くて申し訳ないと言ったり、真夏の作業だからと差し入れに冷たい飲み物やビール、おつまみ、ボディタオルまでちゃんと冷やして保冷剤まで準備していたり。彼女の思い遣りや気遣いを目の当たりにして益々彼女から目が離せなくなってしまった。ほぼ毎朝仕事の時は弁当も作ってくれた。1人分も2人分も変わらないから、大輝が高校生のときからそうしていたからと、こういう積み重ねで大輝を何とか大学まで行かせられた、と。元々そんなにお金があった家じゃないから節約は身についていると笑いながら話してくれた。浴室の掃除は拭き上げまでして排水溝まで掃除していたり、ごみの分別は僕が注意されるほどだ。それは、彼女が月1回海辺のごみ拾いのボランティア(ビーチクリーン活動)をしているからだろう。彼女は二輪の免許を所持しており、愛車である赤のハンターカブに跨りふらっと一人で出かけてしまう。目が覚めるような鮮やかな赤。彼女に似合ってる。「うちは車は停められないから、結局足はバイクか自転車なの。」と教えてくれた。自転車は後ろに荷物カゴを取り付けたアシストサイクルだった。こんな生活感がある所も何だか面白かった。「私が大輝に二輪の免許取ったら?と言ったら私よりもバイクに夢中になっちやってね。」と宗像さんは苦笑いしていた。彼女のヘルメット姿も新鮮だった。僕も二輪の免許を取ってツーリングなんていいかも⋯僕は宗像さんの影響で何十年か振りに教習所へ普通二輪免許取得に向け願書を出しに行ってしまっていた。




