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終わりと始まり

 和香達が引っ越してから数日後、今まで住んでいた家を取り壊すことになった。今まで建っていた家。いよいよ解体されるんだ。木製、鉄製のものはそのまま置いておいて良いとの事で一緒に解体処分出来るらしい。使っていないもの、不用なものはこの際断捨離して新しい生活に馴染まなきゃ。そんなに家具は要らないのかも⋯。大輝とふたりきりだからダイニングテーブルもやめてカウンターテーブルを大工さんに造作してもらうことになってたり。宮島さんと沢山相談して決めた新しい我が家。その為にも、建つ為にも古い家は解体される。終わりと始まり。そう。ここが、これが、「区切り」。

宮島さんと家に向かうと既に家を囲う様に足場が組んであり、正に窓が取り外されている最中だった。我が家の狭い土地で何ともやりにくそうなのが申し訳ない位で。

「そんなことを気にする必要はない。それが我々の仕事なんだから、大丈夫。」

と宮島さんの言葉にどれだけ救われたことか。沢山の人の尽力で古い家が壊され新しい家が建つことに感動もあるし何だか不思議な感じもする。勿論ワクワクもしてるけど不安な感じもあって。つい先程まであったものが形が変わる。そしてなくなる。今まで見ていた景色が段々と変わるこの変化。色んな感情が入り混じるってこの事かな。これを機に本当に私自身の悪しき習慣を見直す時期に来ているのだと感じた。

 その日の晩、宮島さんがワインを開けてくれた。

「とっておき。このカベルネ美味しいから。」

ワイングラスに注ぎ込まれるカベルネ・ソーヴィニヨンの何となく黒みがかったような赤は宮島さんの事務所の、そう。あのコルジリネを彷彿させる色み。香りをとり、一口飲んでみる。

「これは⋯?テノワールはボルドーでもないような⋯この力強い感じは⋯?新世界⋯多分。」

新世界のその先の特定までは私の舌では出来なかった。ただ何となく少なくともフランスではない気がした。

「あっ。素晴らしいですね、ナパ・ヴァレーです」

「ナパ・ヴァレー⋯初めて。」

宮島さんのカベルネ・ソーヴィニヨンに魅せられほろ酔いになった私は引越の荷物の中につい持ってきてしまったタロットカードを取り出し、占ってみた。

「占い師さん、何について占って貰えるの?」

宮島さんもほろ酔いでちょっと口角を上げ嬉しそうにワインを味わいながら。私はその横顔に見惚れた。

「これからの⋯未来でいい?」

ふたりとも酔っている。酔ったせいにもできる。

トランプのようにカードを切り、スリーパイル後に上から6枚を捨て7枚目をめくる。

「DEATHの正位置⋯」

宮島さんがちょっと固まった。

「これはね、死神だけど意味は〈死〉じゃないの。終わりと始まり。再生。終わらなきゃ始まらないの。ひとつの転換や区切りってことです。」

言ってる途中であっ!と思った。まさに今私の家の状況が分岐点なのだ。宮島さんもびっくりしてる。

「タロットって案外奥深いんだね。」

感心しながら白馬に跨った髑髏のカードを眺めていた。

「じゃあ、これから始まるってこと?」

宮島さんは徐にワイングラスを持ち上げて乾杯、っといった仕草をみせた。

そう。これから。これから始まり。

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