健太について
健太は、高校卒業後父親が元々大工だったこともあり大工見習いとして働き出した。大工の仕事は好きだった。自分はこれで将来食っていこうと漠然と思っていた。父親の勧めで2級建築士の資格を3度目で取った。その頃、白いワイシャツを着たいわゆる「ホワイトカラー」の仕事もやってみたいと思い始め、ハウスメーカーの戸建新築部門の営業職に転職する。健太は元気がいいのと持ち前の明るさ、そして何より大工としての経験と建築士の資格もあって契約もコンスタントに取れた。細部にまで説明が出来るし仕事の面白さにも目覚めた。自分に合っていたのはこれだったんだ。2人目の子供が生まれたこともあり、家事動線を意識した間取り、玄関近くに手洗いを持ってきた提案に特に子育て世代の母親に好評だった。その頃、住宅展示場の所長への打診があった。今までの自分の仕事が評価されたのではないか。素直に嬉しかった。早速妻に報告した。妻は一緒に喜んでくれたが、下の娘の保育園の送迎をどうするかといった問題に直面した。妻はスーパーのレジ係でチーフになったばかりだった。保育園の送りは健太の担当だった。所長になれば確実に妻の負担が増える。どちらかの親に頼めないか、近所のママ友は?色んな手段を何度も何度も考え、結局今回は昇格を辞退することにした。