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ショールーム

 離婚してから美佐子は自由になった。完璧主義の俊介から放たれた。俊介は私と陽菜そしてモカのために家を残して自分は出ていった。離婚のとき俊介は、自分が悪かったと陽菜を頼むと言った。今まで自分が悪いなんて一言も言わないあの人がそんなことを言うなんて信じられなかった。でも、私はこれからの人生彼とは一緒には歩けない。離婚を後悔はしていない。高校生になった陽菜は今ちょっと難しい年齢かも知れない。私達のせいで不安定になっているのも確か。私が側にいてやらなければ。その時モカがワン!と自己主張。ご飯かな?ああごめんね。用意するからね。モカも何となく家の長が不在なのが分かるのかな?もう帰ってこないよ。解かってね。

 健太から電話があり、子供がインフルエンザになったため今日はとりあえず出社できないという。話を聞くと今日は施主様とショールーム同行の予定があるとか。その施主様は車がないので足がなくショールームまで健太が同行予定だったのだという。施主様ご夫婦は仕事が休めないのでどうしても今日じゃなきゃダメなのだとか。そういう事で急遽私が社用車を出して施主様ご夫婦をキッチンメーカーのショールームへご案内することになった。施主様は若い夫婦で互いに仕事が休めるのが今日しかなくて、車を出して貰って助かったと話してくれた。私が役に立って良かった。そんな話をしながらショールームに入った。やっぱりショールームって夢があっていいよね。あっ、このコンロうちのと一緒だけどグレードアップしてる。いいなぁ。でもまだ取り替えるには早いか、なんて考えていたその時だった。見覚えのある人が目に飛び込んできた。そうそれは俊介だけど、俊介でないような印象もあった。眼鏡を変えて髭を蓄えていた。それだけでまるで印象が違っていた。15年近く一緒にいたのにそんな風に自分を変えることなんてなかったのにあの人。隣にいる女性は⋯施主様かしら。いや、そうであって欲しい。何故ならふたりが纏うオーラが周りと全然違うのだ。そしてふたりは、そうふたりは眼鏡がお揃いだった。全く同じ眼鏡を掛けているなんて。ペアウォッチじゃあるまいし。何なの。そんな時にその女は換気扇の整流板を外そうとしているができない。そうじゃない。悪戦苦闘している。アドバイザーが手を貸そうとした時、俊介がその女の背後から手を伸ばしその女の、その手の上から自らの手を重ねて外す手解きをした。

「掃除するときは僕に言って。外せるから」

えっ?何を言っているのかさっぱり理解できなかった。僕に言って?もしかしてふたり一緒に住む家の為にショールームへ来てるの?お互いに笑い合っている。そして隣にいたアドバイザーが

「あら。ご夫婦仲が宜しいんですね!」

なんて発言しふたりは満更でもなく微笑みあっていた。夫婦?何なの。この感情は。私達は離婚したんだから。俊介に相手がいてもおかしくないし合法だけど。すごく幸せなカップルを見せつけられた。穏やかになれない。あんなに愛おしそうに甘く、あの彼女を見つめる瞳を初めて見た。あんな眼差し私に向けられたことは無かった。そしてそれに答えるかのように熱く見つめ返す彼女。

それからどうやって帰社したのかもよく覚えていない。ただこの気持ちの処理の仕方がわからなかった。

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